農家の産業廃棄物委託基準
農家が「プラスチック製コンテナの処分に困っている」という報道が専門誌にありました。
2024年7月23日付 日本農業新聞 「[農家の特報班]収穫コンテナ処分に難儀 廃プラ回収対象外の自治体も」
産業廃棄物は、ごみを出した事業者の責任で処分することが廃棄物処理法で義務づけられている。農業関連は、コンテナに加え、プラ製の被覆資材なども産業廃棄物に当たり、農家が適切に処分しなければならない。
これはまったくそのとおりですね。
農家が個別に処理業者に依頼すると、費用が見合わないことがある。そのため行政やJAが各地域で協議会を作り、廃プラをまとめて回収している。
(中略)
この協議会で回収した廃プラを処分する業者は、処分費をごみの体積当たりで設定。被覆資材や厚みのない育苗箱なら安価で済むが、コンテナのように体積が大きいと費用がかさんでくる。
農家の廃プラ処分費を抑えるため、この協議会は処分費の一部を助成している。ただ、予算繰りが厳しく、費用がかさむごみを回収すると「助成を維持できなくなる」という。
「コンテナが他のプラ製品よりもかさばる」という指摘もそのとおりだと思います。
しかし、下記の部分は、論点がかなりずれており、農業者が排出事業者になる際の「委託基準」全体が抜け落ちていますので、ミスリードされる可能性が極めて高いと言わざるを得ません。
産業廃棄物に当たるコンテナは、廃棄物処理法に基づく許可を得た専門の運搬業者しか運べない。例外として排出した事業者が自ら運ぶことは認められており、農家自身が運搬できるが、所定の手順を守る必要がある。
具体的には、運搬に使う車の両側面に「産業廃棄物運搬車」「個人名か法人名」と紙に書いたものを表示する。ごみを積載した場所や運搬先などを書いた紙も携帯する必要がある。同法を所管する環境省によると、これらを守らないと「行政指導の対象になる」(廃棄物規制課)という。
「産業廃棄物運搬車の表示」や「書類の携行」については、「産業廃棄物の運搬基準」ですので、それに違反していたとしても、直罰の対象となるわけではなく、「行政指導」や「改善命令」を経て、「改善命令違反」となって初めて刑事罰の対象となります。
そのため、運搬基準違反は「行政指導の対象になる」という指摘自体は間違いではありません。
しかしながら、記事のこの部分は、「排出した事業者が(委託先処分業者に)自ら運ぶ」ことを前提としていますので、
排出事業者は自ら運搬を適切に行うだけでは不十分であり、より重要な「委託基準」について触れていないことは片手落ちとなるからです。
なぜなら、委託基準違反は即、刑事罰の対象となる違法行為であり、行政指導で済む「運搬基準違反」とは比較にならない重要事だからです。
「農家自らが運んでいるのに、委託基準がなぜかかるのか?」と感じた方が多いかもしれません。
「コンテナを運んでいる間」は、「委託」ではなく「自ら運搬」ですので、「運搬基準」しかかかりませんが、
最終的には中間処理業者で受入れをしてもらう以上、「産業廃棄物処分委託契約」は必須です。
そのため、
- 中間処理業者との「処分委託契約書」の作成と保存
- 中間処理業者に交付する「産業廃棄物管理票(マニフェスト)」の発行
を両方とも実行する必要があります。
電子マニフェストを運用する個人農家はほとんど無いと思われますので、「自ら運搬」の際には、運搬車両に「中間処理業者に交付する産業廃棄物管理票」を携行しておく必要があります。
※記入済みのマニフェストを携行していない場合は、「処分場の窓口で産業廃棄物を引き渡す際に、持参したマニフェスト用紙に、あるいは処分業者にマニフェスト用紙を提供してもらい、それらに記入をした上で産業廃棄物と一緒に渡す」ことがギリギリ合法の最終ラインです。
ここで、
「産業廃棄物の集荷場所を提供した農協は、農協の名義で産業廃棄物管理票を交付できたのでは?」と考えた人がいらっしゃるかもしれません。
平成23年3月17日付「産業廃棄物管理票制度の運用について」という割と有名な通知で言及されていることですね。
しかし、これは「共同集荷場所に集めた産業廃棄物を、処理業者に回収に来てもらう」場合の特例措置であり、
「農家自らが中間処理業者に運搬する」場合とは、そもそもの前提条件からして違います。
そのため、たとえ個人農家と言えど、排出事業者として産業廃棄物を自ら運搬、そして処分委託する場合は、
排出事業者として、「委託契約書の作成と保存」と「産業廃棄物管理票の交付と保存」が不可欠となります。
以上のように、廃棄物処理法上は、個人農家といえど、産業廃棄物の排出事業者でしかありませんので、「委託契約書」や「マニフェスト」の運用を大企業と変わらないレベルで遂行し続ける必要があります。
農家に著しい負担とならず、社会的にももっと合理的な解決策はないものか?と思案を巡らせたところ、日本農業新聞には書かれていない解決策を思いつきました。
実現性があるかどうかはわかりませんが、少なくとも、制度的には割と容易に解決できる方法ですので、次回の記事で披露させていただきます。
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2024年7月29日 | コメント/トラックバック(2) | トラックバックURL |
カテゴリー:委託基準
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コメント
いつも拝読しております。
紙マニフェストで、1枚でも交付するわけですから次年度6月30日までに「産業廃棄物管理票交付等状況報告書」提出義務が生じますね。
第一関門をクリアしてもここでつまづく可能性が高いですね。
回付の確認や写しの5年保管もハードルが高いですね。
内容が濃く、非常に興味深く拝読させていただきました。
感動しましたので久しぶりにコメントさせていただきました。
M.O様 コメントいただき、ありがとうございました。
内容を読み込んだ上でのありがたいフィードバックに、大変感謝しております。
今後とも御愛読のほど、よろしくお願い申し上げます。