欠格要件に該当しても行政にバレなきゃ大丈夫?
「行政の事務処理ミス」か「処理業者の届出義務違反」かは判然としませんが、誤解している人が多そうな実務上の課題を浮き彫りにした報道がありました。
2025年7月23日付 南日本新聞 「取締役が道交法違反で有罪確定…北九州市の産廃処理業者の許可取り消し 鹿児島県」
同社の取締役が道交法違反の罪で、懲役10月、執行猶予3年の刑が2024年2月に確定していたため。25年7月3日付で同社が欠格要件に該当する旨を県に届け出た。
この報道では、
・2024年2月 取締役が欠格要件に該当
・2025年7月3日 被処分者から鹿児島県に「欠格要件に該当した旨」を届出
・2025年7月23日 鹿児島県が被処分者の許可取消
と、3点の時系列が記述されていますが、「欠格要件に該当した旨」の届出は、2025年7月3日ではなく、「取締役の刑事罰が確定した日から2週間以内」すなわち「2024年2月か3月中」に提出すべき書類です。
根拠条文
廃棄物処理法第7条の2
4 一般廃棄物収集運搬業者又は一般廃棄物処分業者は、前条第五項第四号ロからトまで又はリからルまで(同号リからルまでに掲げる者にあつては、同号イ又はチに係るものを除く。)のいずれかに該当するに至つたときは、環境省令で定めるところにより、その旨を市町村長に届け出なければならない。
廃棄物処理法施行規則第2条の7(法第7条の2第4項の規定による欠格要件に係る届出)
法第7条の2第4項の規定による届出は、法第7条第5項第四号ロからトまで又はリからルまで(同号リからルまでに掲げる者にあつては、同号イ又はチに係るものを除く。)のいずれかに該当するに至つた日から2週間以内に、次に掲げる事項を記載した届出書を市町村長に提出して行うものとする。
一 氏名又は名称及び住所並びに法人にあつては、その代表者の氏名
二 法第7条第1項又は第6項の許可の年月日及び許可番号
三 法第7条第5項第四号ロからトまで又はリからルまで(同号リからルまでに掲げる者にあつては、同号イ又はチに係るものを除く。)のうち該当するに至つたもの(以下この条において「当該欠格要件」という。)及び該当するに至つた具体的事由
四 当該欠格要件に該当するに至つた年月日
※上記は一般廃棄物処理業者の届出に関する条文ですが、産業廃棄物処理業者の届出は、「廃棄物処理法第14条の2第3項」及び「同法第14条の5第3項」で上記の条文を準用しています。
ちなみに、上記の「欠格要件に該当した旨の届出」を怠った場合は、廃棄物処理法第29条の「6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金」の対象となります。
もっとも、通常、産業廃棄物処理業者が欠格要件に該当していることが発覚する契機は、「行政庁への許可申請時」です。
欠格要件に該当していることを知らずに許可申請する企業がほとんど全てです。
法人自身が「不法投棄」や「野外焼却」で罰金刑を科されているにもかかわらず、一向に悪びれることなく、素直に(?)行政庁へ「産業廃棄物処理業の許可をください」と申請する企業が大変多い状況ですので、「欠格要件に該当した旨の届出は義務」ということを知らない産業廃棄物処理業者も大変多いと思われます。
もちろん、欠格要件に該当しないことが最重要であり、大部分の産業廃棄物処理業者は、欠格要件に該当したことや、許可取消をされた経験がありませんし、「欠格要件に該当した旨の届出は義務なのか」と学習したとしても、許可を取り消されてしまえば、その学習を次に活かす機会は二度とやってきませので、知らない方がフツーなのかもしれませんが。
当ブログは、個別の処理業者を糾弾することが趣旨ではありませんので、あえて被処分者の名称を引用しませんが、当該被処分者の許可を取消すのがもっとも早かった自治体は「山口県」ではないかと思います。
2025年3月13日付 産業廃棄物処理業者に対する行政処分について
山口県への許可申請が2025年1月か2月に行われ、山口県が関係機関に「犯歴照会」をした結果、被処分者の取締役が欠格要件に該当していたことが判明したものと思われます。
重要な点は、「2025年3月13日付で山口県が許可取消をした」ことです。
ここで、「山口県の許可が取消されたとしても、他の自治体には黙っておけば、これまでどおりに事業が継続できるのではないか?」と、制度上の盲点を見つけた気になった方がいらっしゃるかもしれません。
しかし、残念ながら(?)、盲点に見えるその可能性は、平成の時代から塞がれています。
私が行政職員だった20年前からして、許可取消を行った自治体は、環境省に取消を行った業者の情報や取消理由等を通知し、環境省から改めてその情報が全自治体(都道府県及び政令市)に提供されるという、FAXを用いた迅速な(笑)情報共有システムが構築されていました。
そのため、ある自治体が許可取消を行った数日、あるいは数週間後には、全国の自治体がその事実を知ることとなり、その許可取消しされた業者が自分の自治体の許可を受けている場合は、迅速に許可を取消すという運用が行われていました。
御存知の方が多いと思いますが、産業廃棄物処理業者の許可番号の下6桁はその業者固有の番号ですので、どの自治体の許可番号でも下6桁は共通しています。
そのため、各自治体において、固有の許可番号を検索し、許可状況を把握することはいとも簡単に行えます。
ちなみに、最新版(令和3年4月14日)の「行政処分の指針」では、
第2 産業廃棄物処理業の事業の停止及び許可の取消し(法第14条の3及び第14条の3の2)
3 手続
(6) 他の都道府県及び環境省への連絡
許可の取消し等の処分を行った場合には、産業廃棄物行政情報システムに行政処分情報を登録することにより環境省に情報を提供されたいこと。システムによる提供が困難な場合又は連絡に緊急を要する場合においては、この通知の別紙を用いて連絡されたいこと。取消しの場合は別紙1、停止の場合は別紙2により、事実の概要、処分の内容及び理由などを明らかにされたいこと。欠格要件に該当することを理由に許可申請に対して不許可処分を行った際も、同様に、別紙3のとおり、都道府県及び環境省に連絡されたいこと。
なお、環境省では、都道府県等から連絡を受けた許可情報及び行政処分情報を産業廃棄物行政情報システムに集積し、都道府県等で情報共有を行っているが、これについても、上記3の(1)の2(筆者注:2に○)の場合と同様、法令の定める事務又は業務の遂行に必要な限度での個人情報の利用であり、かつ当該個人情報の利用について相当の理由があるとき(行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律第8条第2項第3号)に該当すると考えられるが、都道府県等においては、同システムがそれらの情報の一部を環境省ウェブサイトで公開していることに鑑み、それぞれの制定する個人情報保護条例等を遵守(利用目的の明示等)した上で適切に個人情報を取得すること。
と、FAXよりも即時性が高い「産業廃棄物行政情報システム」を用いた情報共有が求められています。
「システムによる提供が困難な場合又は連絡に緊急を要する場合」には、「別紙1」という書面で連絡されたいとされていますが、現代社会では、どう考えても「産業廃棄物行政情報システム」に登録する方が早そうです。
なお、「20年前はFAXだった」と書きましたが、私が所属していた「兵庫県の地方機関」には「兵庫県庁」からFAXで通知されていたため、そのように表現しましたが、20年前にも県庁と環境省の間では「産業廃棄物行政情報システム」が既に整備されていた可能性もあります。
さて、ここまで行政間の許可取消情報の共有状況を見ていただいた上で、時系列を改めて整理してみると、
・2024年2月 取締役が欠格要件に該当
・2025年3月13日 山口県が当該業者の許可取消
・2025年7月3日 被処分者から鹿児島県に「欠格要件に該当した旨」を届出
・2025年7月23日 鹿児島県が被処分者の許可取消
鹿児島県が2025年7月23日まで許可取消をしなかった理由が気になるところです。
・山口県の許可取消が令和6年度末であったため、それを把握していた職員がその後すぐに人事異動した?
・慢性的な人員不足はどこの自治体も同じ状況なので、把握していた職員がその後病欠した?
・あるいは、やはり人員不足のため、最初から誰も許可取消情報を把握していなかった?
等と妄想だけが膨らみましたが、これは鹿児島県固有の問題ではなく、「担当者が情報を見落とすと、組織としてはその見落としをカバーできない」という、誠に日本的な属人的、かつ精神的な構造的課題に行き着くのかもしれません。
せっかく作った情報共有システムをより活用するために、国全体でもっと工夫していく必要がありそうです。
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2025年7月28日 | コメント/トラックバック(0) | トラックバックURL |
カテゴリー:危機対応