犯意なき犯罪

事業活動から発生したプラスチック製廃棄物は、「業種」「発生量」と関わりなく、すべて「産業廃棄物」になります。

その産業廃棄物となる廃プラスチック類を、家庭ごみ回収場所に不法投棄した容疑で、訪問看護事業所職員が逮捕されました。

2023年7月11日付 京都新聞 「訪問看護事業所の廃棄物2キロ超、家庭ごみとして投棄 容疑の職員3人逮捕

 3人の逮捕容疑は、共謀し、5月12~26日の3回にわたり、同法人が運営する「ほほえみ」の事業活動で出たプラスチック類など計2・89キロの廃棄物を、家庭用の一般ごみとして東山区の歩道に投棄した疑い。

 府警によると、「ほほえみ」では市の家庭ごみ有料指定袋に、新型コロナウイルスの検査キットやゴム手袋、医療用ガウンなどを入れて捨てていたという。

残念ながら、犯罪であることに違いはありませんが、「産業廃棄物の不法投棄に該当する」とは夢にも思わず、適切な処理と信じ切っていたものと思われます。

市の有料ごみ回収袋を購入し、家庭ごみ回収日に堂々と産業廃棄物を出していた様子からは、「安く済ませるために不法投棄してやろう」という悪意は感じられません。

そのため、「いきなり逮捕」ではなく、「まずは、京都市当局が産業廃棄物としての処理委託を行政指導」してあげるのが妥当だったようにも思いますが、犯罪行為である以上、行政指導をすっ飛ばし、いきなり逮捕されたことに驚きはありません。

府警の説明では、新生十全会職員の容疑者は「(不法投棄を)指示した覚えはない」と一部否認している。府警は今後、同法人についても廃棄物処理法違反の容疑で書類送検する方針。

たしかに、「不法投棄しろ!」と、明確な犯罪を指示したことは無かったものと思われますが、産業廃棄物としての正しい処理方法を指示していない以上、結果的には不法投棄を黙認した形にしかなりません。

「ごみ回収場所にごみを置いて何が悪い?」と思っている人、あるいは企業は驚くほど多いもので、
今回の事件のような不法投棄をしていながら、自分が犯罪行為をしているとは考えず、むしろ社会規範に忠実で善良な人間と信じている人は驚くほどたくさんいらっしゃいます。

しかしながら、家庭ごみの個別回収や拠点回収は、住民だけが対象となる行政サービスであり、営利か非営利かを問わず、何らかの事業活動を行うことを目的として活動する組織が「タダ乗り」して利用することは許されていません。

法治国家である以上、「違法とは知らなかったので、許してチョンマゲ(死語)」が通用しないことは、皆様ご存知のとおりです。

とはいえ、小学校等の義務教育で「犯罪とは何か」を懇切丁寧に教育する暇は、社会的にありませんので、
「法律の罰則を知っているかどうかは自己責任」という、なかなか世知辛い現実となっています。

今回の記事が、そんな日の当たりにくい現実を照らし出し、犯意なき犯罪を防止するささやかな灯りとなれば幸甚です。

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コメント

  1. 北村 亨 (行政書士法人産廃コンサル総合事務所 より:

    ありがとうございました。参考になりました。
    一廃と、産廃の区分のあいまいさ。不法投棄の意味のあいまいさ。の二点が問題だと思います。一廃とは、市が収集するものとの誤解があります。市は、合わせ産廃として一部の産廃を有料で収集している。東京都区部はその扱いです。有料の処理券を添付してあれば市は収集するのではないでしょうか?
    従来より収集している限り、不法投棄ではない。問題点は、市が収集の際に不適ごみとして指導していなかった。不作為ではないか。
    不法投棄の定義は、みだりに投棄してはならないとのこと。みだりにとはどうゆう状況なのか。市の収集計画にて、明確に指定されていなければ不起訴となる案件ではないでしょうか。警察が出る幕ではないと思います。全国的に、廃棄物行政には行政改革の名目で人減らしが進んでおり、かつ民間委託が増加しております。日常的な指導業務がおろそかになっており、日常化しております。行政対応の不作為行為としての良き事例だと思います。

  2. 尾上雅典 より:

    コメントいただき、ありがとうございました。

    京都新聞の記事だけから「犯意なき」と書きましたが、別のテレビ報道では、「怪しまれないように私服に着替えて、ゴミ回収日に出した」と報道されていましたので、「不法投棄」とは思っていなかったとしても、「堂々と捨てられる場所」とは思っていなかった可能性が高いと思いました。

    そのため、「犯意なき」ではなく、「犯意有り」の方が正確だったと、今は思っております。

    なお、今回捨てていた物は明らかにプラスチック製品ですので、明確に産業廃棄物でしかないと思います。

    また、この問題の本質はシンプルなものと考えておりますので、事業系、あるいは産業廃棄物を生活系ごみ回収場所に捨てる行為は、不法投棄でしかないと思います。


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