「常識と勝手に思っていたけれど、世間ではそうではなかった」シリーズを不定期に連載していきます。
今回は第1弾の「安定型最終処分場に埋めてはいけない産業廃棄物」の具体例を挙げていきます。
安定型最終処分場とは
※本稿執筆の契機となった、広島県HPの記載をそのまま転載します
安定型最終処分場とは、有害物や有機物等が付着しておらず、雨水にさらされてもほとんど性状が変化せず、安定した状態を維持できる廃プラスチック類、がれき類等(安定型産業廃棄物)を、埋立処分することができる処分場のことです。
安定型最終処分場に埋立できる廃棄物は、「安定型産業廃棄物」のみに限られるため、安定型産業廃棄物以外の廃棄物が混入している場合は、管理型最終処分場へ搬入してください。
法律上の位置づけとしては、安定型最終処分場は、「雨水にさらされても性状が変化しない廃棄物を処分する場所」ですので、「周囲の公共用水域を汚染しない産業廃棄物しか埋められない場所」とも言えます。
安定型最終処分場の規制概要
図は「産業廃棄物又は特別管理産業廃棄物処理業の許可申請に関する講習会テキスト」より転載
「雨水にさらされても性状が変化しない産業廃棄物」だけを埋めるため、そうではない産業廃棄物を埋める場所である「管理型最終処分場」には不可欠な
- 処分場の内部と外部を遮断する「遮水工」
- 埋立地内に浸透した雨水等の浸透水の「集排水施設」
- 「浸透水の処理施設」
が不要となります。
「遮水工」と「浸透水処理施設」が不要ということは、最終処分場閉鎖後の浸透水の処理や管理が不要となり、管理型最終処分場と比較すると、安定型最終処分場は、最終処分場としての設置・管理コストが大幅に安上がりになります。
その分、埋める産業廃棄物が、“水を汚染しない”「安定型産業廃棄物(厳密にはそこからさらに狭く限定されます。その詳細は後で述べます)」に限定され、産業廃棄物を埋める前の「(厳格な)展開検査」が不可欠となります。
また、「浸透水の処理施設」の設置は不要ですが、「処分場内部の浸透水の水質確認」を目的とした、「浸透水採取設備の設置」や「地下水の水質検査」が義務づけられています。
以上のように、管理型最終処分場と比較すると、若干ローコストな管理が可能ですが、「雨水にさらされると性状が変化する産業廃棄物を絶対に埋めない」という原則を守ることが大前提となっています。
安定型最終処分場に埋立可能な産業廃棄物
実務的には、
- 廃プラスチック類
- ゴムくず
- 金属くず
- ガラスくず、コンクリートくず及び陶磁器くず
- がれき類
の5種類となります。
広島県HPで挙げられているとおり、法律的には「環境大臣が指定したもの(石綿含有産業廃棄物の溶融化物等)」も安定型最終処分場で埋立可能ではありますが、石綿含有産業廃棄物の場合は、通常、溶融等の手間を掛けずに直接管理型最終処分場で処分していますし、「石綿含有産業廃棄物なら安定型処分場で処分可能」と誤解される可能性があるため、上記のとおり「安定型品目」の5種類だけを列挙しました。
ただし、上記の「安定型品目」に分類される産業廃棄物であっても、含有物や性状によっては、安定型最終処分場に埋めてはいけない物がたくさんあります。
「安定型品目」だが安定型最終処分場に埋めてはいけない廃棄物
広島県HPから、抜粋引用します。
- 自動車等破砕物(自動車、バイク、電気機械器具を破砕したもの)
- 廃プリント配線板(鉛を含むはんだが使用されているもの)
- 鉛蓄電池の電極
- 鉛製の管又は板
- 廃容器包装(有害物質または有機性物質が混入、付着している容器や包装)
- 水銀使用製品産業廃棄物(水銀を使用している製品が廃棄物となったもの)
- 廃ブラウン管の側面部
なお、「石膏ボード」は「紙くず」と「ガラス陶磁器くず」の混合物ですが、「石膏ボード」から「紙くず」を除去し、「ガラス陶磁器くず」だけに分離したとしても、安定型最終処分場にそれを埋めると、「硫化水素」が発生するおそれがあるため、安定型最終処分場での埋立処分はできません。
安定型最終処分場には、周辺の水を汚染しない産業廃棄物しか埋められないため、
- 油が混入するおそれのある「自動車破砕物」
- 水に溶出してしまう「鉛」を含んだ産業廃棄物
- 水銀使用製品産業廃棄物
は、たとえ廃棄物処理法の定義上は「安定型品目」にカテゴライズされていたとしても、物理的に周辺の水を汚染する可能性が高いため、安定型最終処分場に埋めることはできません。
このように、安定型最終処分場においては、「埋立前の展開検査」が非常に重要な環境保全対策となっています。
「太陽光パネル」も、鉛その他の有害な重金属が原材料として使用されていますので、安定型最終処分場では埋立処分ができません。
そのため、現在、太陽光パネルの適切なリサイクル制度を作るべく、国を挙げて議論を進めているところです。
SNSでは「環境省は太陽光パネルリサイクル断念!」という、発表の一部分のみを切り取った投稿が目立っていますが、「断念」ではなく、「改めて仕切り直しをした上で議論再開の予定」ですので、「利権プギャー」とか「絶対に不法投棄が増えるに違いないフンガー」と脊髄反射せずに、冷静に今後の議論の進み方に注目していただきたいところです。
元々は、上記の「利権プギャー」へのアンチテーゼとして、情報収集を進める過程で広島県HPの解説に行き当たり、本稿を執筆いたしました。