モグラたたき

2015年6月11日 NHK 都道府県の回収不能金 5年間で5400億円

全国の都道府県が滞納された税金や企業への貸付金などを回収できなくなったり、回収できない見込みとなったりした金額が、この5年間だけで5400億円に上ることがNHKの取材で分かりました。こうした「回収不能金」は、本来なら住民サービスなどに使われるはずだったもので、それでなくても厳しい財政状況に置かれている自治体が対応に苦慮しています。
全国の自治体では財政が厳しさを増していますが、NHKは財政圧迫の要因の1つとされる「回収不能金」に注目しました。
これは滞納された税金の徴収を断念したものや、地域振興のために企業や個人への融資が返済されず焦げ付いたものなどのことで、都道府県に取材したところ、回収できなくなった「不納欠損」の総額は平成25年度までの5年間で3211億2575万円に上っていました。回収が難しいと判断された「回収不能見込額」も、平成25年度の段階で2200億9684万円あり、いわゆる「回収不能金」の総額は合わせて5412億2260万円に上っていることが分かりました。
最も多かったのが、滞納された住民税や自動車税などが時効を迎えたケースなどで2483億円に上り、「不納欠損」の77%を占めていました。
中小企業を支援する制度で貸し付けられた資金については、融資先が破綻するなどして19の府と県で162億円余りが回収できず焦げ付いていました。
「回収不能見込額」の中では、青森県が不法投棄された廃棄物を業者に代わって撤去したものの、業者が解散するなどして400億円余りの費用が回収できない見込みとなっていて、同じようなケースはほかの県でも相次いでいます。
「回収不能金」の原因について、自治体の中には厳しい財政の中で、回収に当たる人材を十分確保できないことや、回収に関する専門的な知識を持った職員を育成できていないことなどを挙げるところもあります。

専門家「真正面からこの問題に取り組む必要」
地方行政に詳しい専修大学法学部の鈴木潔准教授は「きちんと自治体に入ってくれば行政サービスの改善に使うことができるのに、それができなくなり、『回収不能金』は失われた行政収入と言える。自治体にとって公平な課税や徴収があって住民の信頼が保たれるのでありきちんと税金を納めている正直者がばかを見る状況を放置してはならない。自治体は真正面からこの問題に取り組む必要がある」と話しています。

事実としては、NHKが報じるとおりなのですが、
不法投棄物撤去に関し、400億円の税金を誰かが持ち逃げしたわけではありません。

また、不法投棄犯が400億円相当の売上げを得たわけでもありません。

不法投棄に代表される不適正処理事案は、行為者が利益を不正に得ることを目的として行っているのは間違いありませんが、
その多くは「手元不如意」という苦境に陥ることを契機として始まります。

そのため、手元不如意を解消するために、非常に安い単価で不法投棄を請負うことが多く、一度安い単価で不法投棄を受けてしまうと、それ以降の依頼も同レベルの安い単価で受け続けなければならなくなります。

筆者の実体験として、公務員時代に直接接触のあった不法投棄実行犯には、不法投棄で暮らし向きが良くなった人間は皆無で、納付すべき罰金の捻出にさえ四苦八苦していました。

とはいえ、経済的苦境がきっかけだからという理由で不法投棄犯に同情を寄せるつもりはありませんが(苦笑)。

言いたいことは、
一度不適正処理が起こってしまうと、後はそれが一気に拡大し続ける構造にありますので、早期に問題の芽を摘むというのが一番の基本ということです。

さて、不幸にして問題が顕在化した時点でそれが制御不能なレベルに達していた場合には、行政代執行をせざるを得なくなりますが、
その場合には、国などから一定の財政補助が与えられる産廃特措法の対象事業にしてもらうという選択肢が自治体にはあります。

しかしながら、自治体にとって一番不幸な結果になるのは、この産廃特措法の対象事業になることです。

産廃特措法の対象事業になるためには、非常に厳重な環境保全対策が必要となり、巨額の工事費が必要となるからです。

国の財政補助があるとはいえ、事業費の全額を国等が負担してくれるわけではありません。

約半分の経費は、地方自治体で負担しなければなりません。

産廃特措法の対象事業となるためには、経済合理性を二の次として、「完璧な環境保全策」を講じなければなりません。

もちろん、環境保全策や生活環境保全上の支障の除去が重要なのは言うまでもありませんが、
対象事業の工事内容の中には、「そこまでやる必要があるのか?」というものが多々あります。

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結局のところ、不法投棄が大規模になった時点で、社会的・経済的には誰にも制御不可能になったと考えた方が良さそうです。

「不法投棄を“未然に”防止する」とよく言われますが、実は、問題が発生する前にそれを潰すというのは非常に困難です。

唯一現実的、かつもっとも費用が少なくて済む対策は、モグラたたきのように、
「問題が顕在化した小さな時点で、すぐに叩き潰す」
この一言に尽きます。

では、現実の地方自治体で、そのような手厚い監視ができるかどうか?

人員と予算が年々減少している自治体がほとんどですので、そうした状況を考えると悲観的になります。

この先も延々と、(大規模事案は減少したとはいえ)「制御不能な不適正処理事案」と「巨額の後始末費用」に苦しめられる自治体は増えていきそうです。

※イラストは、RABBIT15さんが制作した作品を使用させていただいています。

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