廃棄物処理法の「行政処分(許可取消)」と「欠格要件」のリスクを考える上で、極めて興味深く、かつ珍しい事件報道がありました。
2025年8月19日付 毎日放送 「『車に汚水が溜まると悪臭を放つので捨てた』道路の側溝に生ごみなどを捨てた男を逮捕 汚水がパッカー車の底に溜まるの嫌ったか 大阪・東大阪市」
大阪府東大阪市の道路の側溝に生ごみなどを捨てたとして34歳の男が逮捕されました。
(中略)
取り調べに対し(筆者注:容疑者氏名は引用の際に削除)容疑者は「車に汚水が溜まると悪臭を放つので捨てた。これまでに5回くらい捨てた」と容疑を認めているということです。
実際に廃棄物の回収業務に携わっているプロの方からすると、「従業員がそんなことをするメリットがあるのか?」という疑問しかわかない犯罪です。
今時
- 廃棄物回収のたびに現金収受
- 清掃工場持ち込みのたびに現金支払い
といった、現金取引を徹底している廃棄物処理業者は皆無と思われますので、「廃棄物回収車のドライバーにとっては」、パッカー車に溜まった汚水を清掃工場搬入前に”不法投棄”するメリットが無いからです。
たしかに、パッカー車の汚水タンクに溜まった汚水はある程度の悪臭を発することは事実ですが、だからといって、すぐに道路側溝に排水しなければならない理由にはなりません。
「汚水の臭いが生理的にどうしても受け付けない」体質の人の場合、廃棄物の回収業務に就くこと自体不可能ですので、そのような悩みを抱えていたとは考えにくい状況です。
また、汚水を捨てていた場所が、人通りや車の通行が多い道路で、不法投棄がすぐ発覚すること確実なスポットであるにもかかわらず、廃棄物が腐敗しやすい夏に5回も(5回全部が夏に行われたかは不明ですが)不法投棄をしていたという、大胆極まりない犯行態度も常識では受入れがたい状況です。
今回の報道とは無関係な想像ですが、「もしも、会社に恨みを持った従業員が会社に損害を与えることを目的とし、不法投棄という自爆テロを行ったらどうなるか?」を考えると、背筋が寒くなりました。
この場合、従業員の独断のみで不法投棄が実行される一方で、会社には着実にダメージを与えることができ、「従業員の個人的犯罪ではなく、業務の一環で不法投棄が行われた」と見なされた場合は、会社の廃棄物処理業許可が吹っ飛んでしまう可能性があります。
こうなると、「退職代行利用で無言退職」などはまだマシな方で、会社への報復目的で、多数の無関係な人の生活まで脅かす無差別テロを実行されることになりますので、会社としては、不満を持った従業員が抱えるリスク面にも目を向ける必要があります。
もっとも、この報復目的の不法投棄の場合、実行者自身も確実に逮捕され、有罪となりますので、よほど怒りや恨みに振り切った人でないと、実行にまで及ぶ可能性は低いとは思いますが。
「不法投棄してはいけないなんて常識」ではありますが、今回の報道を踏まえて、全従業員に「道路側溝その他に汚水を捨ててはいけない」と改めて伝え、会社としては不法投棄を絶対に行わせないという姿勢を示してみてはいかがでしょうか?
最後に、今回の報道とは無関係な筆者の想像をもう一つ。
仮に、側溝への汚水不法投棄が、廃棄物処理費削減を目的とした会社の指示であった場合は、その会社自体が「3億円以下の罰金(両罰規定が適用される)」の対象になります。裁判の結果、会社に対して廃棄物処理法に基づく罰金刑が科された場合、一般廃棄物処理業と産業廃棄物処理業の全ての許可が取消されることになります。
道路側溝に汚水を捨てることで得られる収益は多くても「数千円」というところでしょうか。その数千円のために、事業を継続すれば確実に得られる将来の収益「数億円から数十億円」を失うことは、どう考えても合理的ではありません。
また、先述しましたが、事後に「会社としては不法投棄を絶対に指示していない」ことを証明することは非常に困難ですので、平常時から、他社の違反事例を「他山の石」として全従業員と共有し、「我が社は違法行為は行わない」という姿勢を事あるごとに示し続けることが重要ですね。