ダイコー事件の特殊性と普遍性

食品廃棄物の不正転売事件に関する報道はようやく落ち着きを見せ始め、事件に関する新たな続報も出てこなくなりました。

しかしながら、「喉元過ぎれば熱さ忘れる」では、せっかくの事件を教訓として活かすことができません。

このタイミングだからこそ改めて、ダイコー事件の「特殊性」と、どの組織にも当てはまる根深い問題でもある「普遍性」について考えてみたいと思います。

まずは特殊性から

当ブログでも繰り返し述べてきたところですが、今回の事件は、悪意を持った「不正処理業者」と「不正食品買付業者」の共謀によって起こった事件です。

そのため、環境省が懸念しているような、廃棄物処理業界に構造的な欠陥があるために起こった問題ではありません。

殺人罪が刑罰の対象となっていることは誰でも知っていますが、それでも殺人が無くならないのと同様に、どれだけ法制度や捜査手法を充実させたとしても、法律を破って私利私欲を図ろうとする人間の意思を完全に止めることはできません。

では、同様の事件が再び起こるかどうかについては、「廃棄物処理法制定から46年を経て初めて起こった事件」という事実を考慮していただくと、自ずとその結論は出ようかと思います。

少なくとも、産業廃棄物処理業界に関しては、「昔の方が良かった(=業者の意識が高かった)」ということは絶対になく、現代の処理業者の意識と遵法姿勢の方が格段に上となっています。

また、マニフェストの虚偽報告は、それが発覚すると、少なくとも「30日間の事業の全部停止処分」の対象になりますので、まともな経営をしている企業にとっては割に合わない犯罪です。

以上の事から、ダイコー事件のような“大規模な”食品廃棄物の転売自体は、今後起きる確率が非常に低いと考えています。

厄介なのは普遍的な問題

食品廃棄物の不正転売が再現されることはほとんど考えられませんが、経営状況の悪い産業廃棄物処理業者が、違法なコスト削減手法として不適正処理を実行するリスク自体は、ダイコー事件以降も残り続けます。

そうした悪意を隠した処理業者と取引をしないためには、排出事業者側で不正業者の危険な兆候を見抜くしかありません。

ただ残念なことに、「チェックリスト」や「アポなしの査察と称した押しかけ見学」では、そのような兆候を見抜くのは非常に困難なのです。

なぜなら、たとえ違法行為を目にしたとしても、それを違法や危険と感じる意識が無ければ、その行為を違法と感じることもできないからです。

これは、その人の頭脳レベルや意識の高さという、個人的な資質・技量の問題ではありません。

例えば、少なくとも法的な知識を有していたと思われる愛知県職員でさえ、6回の立入検査をしてもダイコーの転売実態の一端すら把握できませんでした。

「では、お前なら把握できたのか?」と問われると、「不正転売をしているかもしれない」という意識を持った状態で臨まない限り、やはり無理だったと思います。

同じ光景を目にしていたとしても、「(不正業者の)言っていることとやっていることに矛盾があるのでは?」というたった一つの認識だけで、そこから受け取る情報は大きく変わります。

これは排出事業者にとってもまったく同じ話であり、事件後すぐに事態を公表した壱番屋の声明には、ダイコーと取引をしていた理由として、
・「多くの自治体から産業廃棄物を取り扱う業者として許可を受けており」
・「大手食品メーカー等との取引実績」
・「食品リサイクルによる環境問題の取り組み」
・「当社が長年の信頼を置いてきた取引先」
を挙げていますが、事件後に眺めると、いずれも信頼性としては評価の対象とならない内容ばかりです。

「多くの自治体から許可を取得する」のは、事業をやる上で不可欠の手順であり、許可が多いからと言って信頼性が高いという証明にはまったくなりません。

080925例えて言うならば、良い産業廃棄物処理業者と巡り合うためには、「人材採用」と同様に、数多くの産業廃棄物処理業者を実際に訪問し、話をした上で、信頼性を見極める眼力を付けるしかありません。

「今年の新卒が全員半年以内に退職してしまった」からといって、厚生労働省に「人材採用用のチェックリストを作れ」という要望を出す企業は皆無ですが、産業廃棄物処理業の許可には、信頼性というお墨付きを求めてしまう企業がほとんどです。

大学の所定の出席日数と単位を取得すれば誰でも貰える「卒業証書」と、
設備や人の要件さえ満たしていれば誰でも取得できる「業許可」には、本質的な意味での違いはありません。

即ち、「一定の基準を満たしていることを証明」しているだけのものです。

今時、大学のブランド名だけで人材採用をする企業は皆無と思いますが、産業廃棄物処理取引においては、「許可証」に対し、存在するはずがないブランド価値を求めていないでしょうか?

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