「危機をことさらに煽る」という商売

一つの分野に10年も取り組んでいると、その分野に関する他人の言動のレベルが容易に判別できるようになります。

しかし、それは特定の専門分野のみに限定される話ではなく、世の中で発信される情報ソースには2種類しかないとも言えます。

すなわち、「事実に基づく真実性の高い情報」か「憶測や想像に基づく曖昧な情報」の2つということになります。

そして、世の中の大部分の人は、その情報が事実に基づくものかについてはあまり頭を働かせず、「自分が信じたいと思う話を『真実』ととらえる」ものでもあります。

それがたとえ自分にとっては望ましくはない話であっても、場合によっては、疑うこと無くそれを積極的に受け入れてしまうこともよくあります。

今回ご紹介する記事は、実態は曖昧な伝聞情報でありながらも、多くの人を驚かせることには成功したと思われる一品です。

2017年1月14日付 Business Journal 「ココイチ事件で重大な問題浮上

まとめの部分を抜粋します。

「ブローカー問題」は、食品廃棄物処理と一体化して進められる食品リサイクルシステムの根幹を揺るがせにしかねず、その意味でこれはまさに“新たな闇の世界”であり、その今後の動きを注視したい。

「新たな闇の世界」という、怪奇小説顔負けの煽情的な表現に参りました。

暴力団その他の反社会的勢力が跳梁跋扈する様子を強く印象づける表現です。

しかしながら、この記事で言うところの“新たな闇の世界”とは、なんのことはない、ただの「ブローカー」や「管理会社」のことです。

ジャーナリストの仕事は、人をむやみに扇動することではなく、社会が見落としがちな盲点に光を当てることではないでしょうか?

洋の東西を問わず、近年の自称ジャーナリストが物する作品には、この手の煽情的な表現が非常に多く現れるようになっています。

上記の記事は、「環境省中央環境審議会循環型社会部会の議事録」から発言者のコメントを抜粋しただけであり、発言者に直接取材をして得られたコメントは皆無です。

一般公開されている議事録だけで、多くの人の気持ちを揺り動かす文章を作文する力量は見事と言わざるを得ませんが、いやしくもジャーナリストを自称する以上は、少なくとも発言者に直接電話かメールで取材をするべきではないでしょうか。

ただし、実際の状況を知らないジャーナリスト氏が、ブローカーの存在を「闇」と感じたことには、環境省にも責任の一端があります(苦笑)。

再度、上掲の記事から抜粋します。

 その重大な問題とは、何か。関連の審議会の動きを知るために、たまたま環境省中央環境審議会循環型社会部会(第15回、16年9月14日)の議事録を見ていて、次のような同部会事務局担当者(環境省大臣官房廃棄物・リサイクル部企画課リサイクル推進室の田中良典室長)の説明が気になった。

「廃掃法(「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」の略称。廃棄物処理法は通称)のもとでの地方公共団体の許認可の及ばない第三者、いわゆるブローカーが排出事業者と処理業者との間の契約に介在して、あっせん・仲介・代理等を行っているケースが議論となりました」

議事録という公的な文書で、環境省の室長がこのように発言した部分を見て、
感受性豊かな方が、「国が認めた法律の欠陥があったのか!」と思いこんでしまったとしても、誰が彼を責められようか。いや責められない。

法律的には、「規制権限が及ばない第三者」という表現は正確ではありません。

ブローカーを名乗ろうが、管理会社として登場しようが、「無許可で排出事業者から廃棄物処理を受託」することはできません。

これすなわち、廃棄物処理法第25条第13号の罰則

第十四条第十五項又は第十四条の四第十五項の規定に違反して、産業廃棄物の処理を受託した者

に該当するからです。

罰則の適用対象となるということは、法律の規制を受けるということに他なりません。

あえて言うならば、「廃棄物処理法の適用外となる場合もある第三者」が、法律的に正しい表現かと思います。

また、管理会社等の第三者は、ダイコー事件以後に現れた「新たな闇」ではなく、大昔から存在する登場人物の一人に過ぎません。

昔とは異なり、通信技術が大幅に発展した現代では通信コストが非常に安価になったため、大都市に事務所を置く管理会社でも全国津々浦々にお達しを送ることが可能となり、それまでは相対が中心の地場の管理会社しか相手にしたことが無かった各地の廃棄物処理業者に弊害が発生しているだけ、とも言えます。

と、ここまでで比較的長めの文章となりましたので、
「ブローカーの正確な定義」や「委託者と受託者以外の第三者に『できること』と『できないこと』」については、次回の記事で解説します。

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