排出事業者は最終処分先情報をどこまで把握すべきか(第2回 排出事業者責任として)
前回の 「排出事業者は最終処分先情報をどこまで把握すべきか(第1回 法律の定義)」では、中間処理委託契約書に記載する「最終処分先に関する情報」は、
・「(残さを)最終処分する場所の所在地」
・「(残さを)最終処分する方法」
・「(残さを)最終処分する施設の処理能力」
の3点であることを明確にしました。
しかしながら、
「では、排出事業者は契約書にその3点を記載しておきさえすれば、あとは何が起こっても無罪放免というわけだな!」と、自分にとっては望ましい結論に一足飛びに飛びついてはいけません。
上記の3点は、あくまでも「中間処理委託契約書に関する義務」というだけで、排出事業者としては、他にも留意すべき法的責任がいくつかあります。
その中でも特に重要であるにもかかわらず、近年では理解の形骸化が著しくなった条文は、
廃棄物処理法第12条第7項
事業者は、前二項の規定によりその産業廃棄物の運搬又は処分を委託する場合には、当該産業廃棄物の処理の状況に関する確認を行い、当該産業廃棄物について発生から最終処分が終了するまでの一連の処理の行程における処理が適正に行われるために必要な措置を講ずるように努めなければならない。
だと思います。
ご存知のとおり、「努めなければならない」とあることから、「罰則無しの努力義務規定」として有名な条文ですが、
前段の「処理状況確認(一般的には、『定期的な現地確認』と捉えられている)」を一切怠り、それが原因となって不適正処理が行われた場合には、「廃棄物処理法第19条の6に基づく措置命令」の対象になる可能性がある、という注意が必要な規定でもあります。
ちなみに、2023年現在で環境省が公表している発表によると、廃棄物処理法第19条の6に基づく措置命令の発出件数は「ゼロ件」です。
ゼロ件だから有名無実化しているかというと、そうではないと思います。
行政実務的には、「19条の6」ではなく、「委託基準違反を根拠とする19条の5に基づく措置命令」を発出する方が容易であり、わざわざ「第19条の6」を持ち出す必要が無いというだけだからです。
後日アップする当ブログの別記事で示す事態が起きた際には、形式的には委託基準違反が無かったとしても、実質的な注意義務違反があったとして、排出事業者に対して「第19条の6に基づく措置命令」が発出されてもまったくおかしくありません。
廃棄物処理法第19条の6(抄)
前条第1項に規定する場合において、生活環境の保全上支障が生じ、又は生ずるおそれがあり、かつ、次の各号のいずれにも該当すると認められるときは、都道府県知事は、その事業活動に伴い当該産業廃棄物を生じた事業者(略)に対し、期限を定めて、支障の除去等の措置を講ずべきことを命ずることができる。この場合において、当該支障の除去等の措置は、当該産業廃棄物の性状、数量、収集、運搬又は処分の方法その他の事情からみて相当な範囲内のものでなければならない。
- 一 処分者等の資力その他の事情からみて、処分者等のみによつては、支障の除去等の措置を講ずることが困難であり、又は講じても十分でないとき。
- 二 排出事業者等が当該産業廃棄物の処理に関し適正な対価を負担していないとき、当該収集、運搬又は処分が行われることを知り、又は知ることができたときその他第12条第7項、第12条の2第7項及び第15条の4の3第3項において準用する第9条の9第9項の規定の趣旨に照らし排出事業者等に支障の除去等の措置を採らせることが適当であるとき。
2 (略)
具体的な状況設定は別記事で詳述しますが、中間処理委託契約書の書き方次第では、
当該収集、運搬又は処分が行われることを知り、又は知ることができた
として、「排出事業者が最終処分に関する不適正処理を黙認していた」と断罪される可能性がある、ということです。
ちなみに、10年以上前の話になりますが、
「環境法の泰斗」と自他共に認める某法学者の方に、「廃棄物処理法第12条第7項の実務的な注意点は何ですか?」とその先生の講演後に質問したところ
「罰則無しの努力義務なので、実務的な注意点は一切無いと考える!」
という回答でした。
私自身、その先生のことを「環境法の泰斗」として今でも尊敬してはおりますが、
「『論語読みの論語知らず』とは、こういうことか~」と、新鮮な衝撃を受けたことを10数年ぶりに思い出しました。
« 排出事業者は最終処分先情報をどこまで把握すべきか(第1回 法律の定義) 行動力という弊害 »
タグ
2023年5月15日 | コメント/トラックバック(0) | トラックバックURL |
カテゴリー:委託基準