会社存続の瀬戸際

2019年1月24日付 朝日新聞 「国内最大級の食品リサイクル工場、社長らに汚水排出容疑

 排水基準を超える汚水を海に流したとして、愛知県警は24日、国内最大級の処理能力をもつ食品リサイクル工場「バイオプラザなごや」(名古屋市港区)の運営会社「熊本清掃社」(本社・熊本市)の社長ら2人を水質汚濁防止法違反の疑いで逮捕し、発表した。同社はごみの運搬手続きなどで優遇される、国の「再生利用事業者」(全国約170社)に登録されている。

 逮捕されたのは、社長(氏名住所略)(46)、工場責任者(氏名住所略)(34)の両容疑者。逮捕容疑について、容疑者(社長)は「違法な排水を指示していません」と否認し、容疑者(工場責任者)は認めているという。

 県警によると、2人は共謀し昨年9~11月、5回にわたり汚れの指標となるCOD(化学的酸素要求量)など複数の項目で基準値を超える汚水を、工場の排水口から名古屋港に排出した疑いがある。

 環境省によると、汚水による海への影響は、地理的条件が左右する部分も大きいが、富栄養化の原因となり、ひどい場合は赤潮やアオコが発生する恐れがあるという。

 熊本清掃社は2017年度、先進的なリサイクル関係施設の整備を支援する愛知県の「循環型社会形成推進事業費補助金」に採択されている。名古屋と熊本に工場があり、廃棄された食品から肥料を作るリサイクル事業などを展開。ホームページによると「バイオプラザなごや」の1日の処理能力は326トンで、「国内の食品リサイクル施設では最大級の能力」(農林水産省)という。

愛知県警の見立てでは、「社長と工場責任者が共謀して汚水を海に排水した」ことになっていますが、常識的には考えにくい状況です。

その理由は、
汚水を海に排水することでいくばくかのコストを削減できたとしても、
下水とは異なり、排水口が海からは丸見えの状態であるため、いずれは犯罪が露見することは明らかであり、
そうなると、水質汚濁防止法違反で罰金刑が科された瞬間に、廃棄物処理業の許可がすべて消滅することになるからです。

このような流れは、廃棄物処理企業の経営者であれば全員が知っていることですので、
熊本清掃社の社長が従業員に対し「汚水を海にたれ流せ」と指示するとは、とても思えないのです。

ただし、社長(といっても、逮捕後に解任されたそうですので、前社長ですが)は指示していなかったとしても、
現実に汚水放流の事実があり、実行者と思しき工場責任者がその事実を認めているのであれば、
法人としての同社に対する水質汚濁防止法に基づく罰金刑が科される可能性はあります。

たとえ、前社長に対する容疑が晴れたとしても、法人に対して水質汚濁防止法の罰金刑を科されてしまうと、廃棄物処理業の欠格要件に該当することとなり、一般廃棄物処理業と産業廃棄物処理業のすべての許可が取消されることになります。

そのため、同社が事業継続する道は、法人に対する水質汚濁防止法に基づく罰金刑を免れることしかありません。
顧問弁護士の方にとっては、非常に分が悪い勝負と言えましょう。

ちなみに、法人に対する罰金刑が欠格要件となる法律は、環境関連の法令では、「浄化槽法」と「廃棄物処理法」の他に、

廃棄物処理法施行令第4条の6
 法第7条第5項第四号ハに規定する政令で定める法令は、次のとおりとする。
一 大気汚染防止法
二 騒音規制法
三 海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律
四 水質汚濁防止法
五 悪臭防止法
六 振動規制法
七 特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に関する法律
八 ダイオキシン類対策特別措置法
九 ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法

と定められています。

この中でも、特に注意が必要なのは、
言い換えると、違反が起こりやすく、捜査機関に露見した段階でアウトな法律は、
「海洋汚染防止法」と「水質汚濁防止法」です。

海洋汚染防止法は、海上保安庁
水質汚濁防止法は、警察 が捜査に当たりますが、

いずれの機関も、慎重な捜査を重ねたうえで、違法放流の事実を押さえてから立件しますので、逮捕された時点で覚悟を決めないといけなくなるのが現実です。

違法放流の事実があれば、「うっかりミスで~」とか「設備の故障で~」という言い訳が通用しない点も怖いところ。

該当する企業の方は、改めてご注意ください。

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