印象操作?

同じ事故を報じながらも、メディアの伝え方によって、読者や視聴者が受ける印象が大きく変わる実例を見ました。

報道対象の事故とは、
2022年9月の台風15号により、静岡県掛川市内の土地に保管されていた土嚢袋の中身が河川の広範囲に流出した、というものです。

まずは静岡新聞の記事を転載します。

2023年1月7日付静岡新聞 「流出医療資材「回収困難」 掛川の土地管理者 行政対応求める 台風15号

 掛川市の山間部に保管されていた大量の医療資材が昨秋の台風15号により川に流出し、森町など広範囲に流れ着いた問題で、掛川市は6日、土地を管理する市内の70代男性が静岡県に対して「回収が困難」として行政対応を求めていることを明らかにした。市は「早期解決に向けて県、森町と協議したい」としている。

 市によると、男性は大型浴槽で湯を沸かすための燃料として、使用期限が切れた未使用の医療用ガウンやチューブなどの資材を調達し、大型土のうで保管していたという。台風15号で土のう約100袋のうち10~15袋が破損し、近くを流れる田代川に流出した。

この報道では、「行政対応を求めている」と書かれているため、土嚢袋所有者が責任放棄をしたかのような印象を受けてしまいます。

静岡新聞の記事の最後には、

 県は流出物が産業廃棄物に当たるかどうかを調査している。廃棄物リサイクル課の担当者は「一義的には本人に回収してほしいが、個人で対応できる量を超えている。河川管理の観点からも、関係者で知恵を出し合うしかない」としている。

と、「産業廃棄物の飛散流出(あるいは不法投棄)」を匂わせる書き方をしていますので、土嚢袋所有者に抱く印象がさらに悪くなります。

このブログには転載しませんが、同紙のサイト上には、この事故の関連記事として、「下流住民や漁協の怒りの声」に関するものが多数あり、地域住民の怒りを不必要にかきたてているようにも見えます。

上記の記事では、「流出したガウンやチューブ等が産業廃棄物に該当するかどうか」の検討が行われているとのことですが、この答を出すことは非常に簡単です。

「医療用機器販売者その他の事業者から、廃棄物処理費を徴収し、廃棄物として受け取った場合」のみ、土嚢袋の中身は産業廃棄物となります。

「医療用機器販売者その他の事業者から、燃料として購入した場合」は、土嚢袋の中身は有償購入した資材でしかありません。

今回の場合、土嚢袋所有者は廃棄物処理費を徴収していないようなので、廃棄物として敷地に集積していたわけではなさそうです。

また、河川から流出物を撤去する上では、それが廃棄物だったのか、燃料として購入したものだったかなどは、正直なところどうでも良い話です。

とにかく流出物を回収し、河川を一日でも早く元に戻すしかありません。

このように考えると、上記の記事の書き方には、「土嚢袋所有者の印象を悪くしてやろう」といった作為的なものを感じてしまいました。

続いて、本件に関しては中立的な報道スタンスのNHKの報道内容を転載します。

2023年1月6日付 NHK 「掛川市の私有地に保管の医療用資材 台風の影響で川に流出

県からの指導を受けて男性は一部を回収していますが、流出から3か月以上たった今も多くが川岸などに残されたままだということです。
県などの聞き取りに対し男性は「資材は入浴のためのお湯を沸かす燃料として業者から無償で譲り受けたもので、土のう用の袋に入れて保管していた」と話しているということです。

燃料用資材として有償で購入していたわけではないようですが、少なくとも、廃棄物処理費その他の金銭的対価は受け取っていなかったようです。

廃棄物処理業の無許可営業に該当するかどうかは他の要素も判断しないといけませんが、
「自分で燃料として使うために、資材として譲渡された」という点については、
廃棄物処理法で規制されない「自己利用の範疇」とみなせそうです。

静岡新聞の報道ともっとも異なる部分として、

資材を保管していた掛川市の農家のH(氏名は当ブログへの転載の際にイニシャル表記)さん(70)は「まことに申し訳ないと思っています。どのくらい時間がかかるか分かりませんが、少しずつ撤去していきます」と話していました。

と、Hさんが実際にインタビューで答えている映像があります。

一方では、「行政対応を求めている」と、男性が無責任に見える表現が採用され、
他方では、本人が真摯に謝罪する様子が映像で流される、

真実はどちらなのでしょうか?

確実に言えることは、どちらか一方だけが真実で、真実でない方の報道には何らかの作為が介在しているということです。

さて、現実の落としどころについては、
台風と言う天災が引き起こした事故であることから、
河川清掃のボランティアを大量に募り、人海戦術で解決するしかない、と思います。

もっとも、人間の手で回収する場合は、冬ではなく、事故発生直後の夏や秋の水が少ない日を狙ってやっておくべき事ではありましたが。

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