公務員=無謬のスーパーマン説の破綻
2025年1月26日付 読売新聞 「民家の庭に廃棄物269トン、流山市が3123万円投じ撤去…一般家庭から出された家具や家電などを無許可で収集」
千葉県流山市は2023年5~6月の行政代執行で、約3123万円を投じて同市美原の民家から廃棄物を撤去した。その後、市が土地所有者らから回収できたのは約27万円。大半は市民が税金を通じて負担した形になっている。市は支払いを求めているが、回収の見込みはたっていない。
(略)
撤去した一般廃棄物は269トンで、撤去料は約3084万円に上る。冷蔵庫や洗濯機などの家電は63台で、約39万円を費やした。
一般廃棄物の不法投棄であるため、千葉県ではなく、流山市が行政代執行を行ったものの、行為者から回収できた経費は代執行費の1パーセントにも満たない状況という、なかなかトホホな報道。
回収に掛かったコストは1トンあたり約11万4千円と、作業費込みではあるものの、適切に分別された廃棄物を処分する場合と比較するとかなり高く付いた模様。
※何もかもかごちゃ混ぜの不法投棄であるため、行政代執行費の相場としては、妥当な金額ではあります。
記事の指摘のとおり、流山市民の税金が廃棄物の不適正処理に伴う原状回復に充てられるという事態は褒められたものではありません。
当局としての流山市の責任が問われることは避けられませんが、昨今よく見られる「○○市職員は仕事しろ」等の公務員個人を批判することが適切かどうか?
筆者自身は、「個々の公務員を批判すれば済むという問題ではない」と考えています。
その理由は、廃棄物の不適正処理対策は、その担当者になったからといって、いきなり完璧な仕事ができるわけではないからです。
書類の受付等の単純な業務であれば、大部分の公務員の人は、短期間でほぼ完璧な水準の仕事をこなせるものと思います。
しかし、廃棄物の不適正処理対策となると、
・「廃棄物処理法の正確な理解」のみならず
・「実行者に対処するための対人コミュニケーションスキル」と「胆力」
・役所内の意思決定を迅速に進めるための「段取り」と「事務処理能力」
・刑法その他の概括的な理解
・行政手続法の正確な運用
・廃棄物処理法に基づく行政処分手続き etc
およそ、市役所職員にとっては、普通なら必要とされない特殊(?)スキルをすべて身につけている必要があります。
特に問題となるのが、「実行者に対処するための対人コミュニケーションスキル」と「胆力」で、本を読んだり、研修を受けたりするだけで一朝一夕に身につくものではない資質です。
その人の持って生まれた志向性が根本的に重要であり、「サラリーマン金太郎」のような特殊な人材でもない限り、それなりの場数を踏まないと「胆力」と呼べるまでの精神状態に至ることはできません。
「それなりの場数を踏む」ためには、数年以上の職務経験を積むことが不可欠ですが、近時は行政機関も人手不足であるため、20年前は数人で担っていた作業を、たった一人でこなすというワンオペやマルチタスクが当然となり、一人の人間に同一の職務を担当させ続ける余裕が無く、3年程度で人事異動することが通例となっています。
言わば、日本の市町村の大部分(都道府県を含めても良いかもしれない)の不適正処理対策は、個々の職員のやる気や能力といった、有るか無いか分からない曖昧模糊なリソースに依存していることになります。
現状では、多くの市町村で問題が起きているわけではありませんが、それはたまたま管内で不適正処理が起きていないだけであり、一度それが起きてしまうと、制御不能な状態へとすぐに悪化する構造にあります。
さて、ではどうすべきかという話になりますが、
余剰人員が無い以上、現有戦力で最大限の効果を発揮するためには、ある程度の対処手順と対処方針を事前に定めておくことが不可欠です。
「対応マニュアル」や「指導方針」等の名称で、何らかの方針を定めている自治体も多いかと思いますが、実体験に基づかないマニュアルは実際には役立たないことがほとんどです。
大事なことは、マニュアルのブラッシュアップを常に続け、進化させることです。
事態の悪化にうまく対処できなかったという経験は無駄ではなく、その反省を次の機会に活かせるように、組織内で新たな対策を共有する契機としなければなりません。
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2025年1月27日 | コメント/トラックバック(0) | トラックバックURL |
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