愛知労働局が建設廃棄物の不適正保管を行った業者を書類送検
2025年1月16日付 NHK 「アスベスト含む廃棄物放置などの疑いで書類送検 愛知労働局」
愛知県一宮市で健康被害のおそれがあるアスベストを含む廃棄物を、飛散を防ぐ対策を取らずに放置したなどとして、愛知労働局は名古屋市の産業廃棄物収集運搬会社とその社長を労働安全衛生法違反の疑いで16日に書類送検しました。
労働局が産業廃棄物の不適正保管に関与した業者を書類送検するという、極めて珍しい報道です。
通常は、今回の報道対象のような建設廃棄物の不適正保管の場合は、廃棄物行政が警察と連携をし、警察が事件化するのが一般的ですが、労働局としては、アスベスト(石綿)が絡む事件だけに「これ以上の遅延は許されない!」という危機感があったものと思われます。
2025年1月16日付 愛知労働局発表 「労働安全衛生法違反の疑いで書類送検」
3.被疑内容
被疑者(略)は、(中略)産業廃棄物の収集運搬業を営んでいたものであるが、同センターにおいて、その重量の0.1パーセントを超えて石綿を含有する疑いのある物(以下「石綿含有物」という。)に関する以下1~3の労働安全衛生法違反の疑いが認められたもの。
1. 令和5年8月10 日以降、石綿含有物を、石綿等の粉じんが発散するおそれがないように、堅固な容器を使用し、又は確実な包装をすることなく貯蔵した。(労働安全衛生法第22条第1号、石綿障害予防規則第32条第1項)
2. 令和5年8月24日、石綿含有物を労働者に重機で破砕させるにあたり、労働者に石綿粉じん用の呼吸用保護具を使用させなかった。(労働安全衛生法第22条第1号、石綿障害予防規則第14条第1項)
3.令和5年10月12日から令和5年12月18日の間に、石綿含有物を取引業者へ譲渡した。(労働安全衛生法第55条、労働安全衛生法施行令第16条)
上記の「2」は、たとえ呼吸用保護具を使用させていたとしても、積替え保管業者が重機で石綿含有産業廃棄物を破砕を行うことは廃棄物処理法違反となります。
上記の「3」は、廃棄物処理法に照らすと、(排出事業者への無断)再委託に該当しそうです。
愛知労働局によりますと、この会社は、一宮市千秋町の屋外施設でおととし8月以降、健康被害のおそれのあるアスベストを含む廃棄物を、飛散を防ぐ対策を取らずに放置したほか、ほかの業者に譲り渡したなどとして、労働安全衛生法違反の疑いがもたれています。
この施設では現在も、アスベストを含む廃棄物が野ざらしの状態で放置されています。
「おととし8月以降」とあるので、これまで少なくとも2年間は不適正保管の状態が放置されていたようです。
今後、2年間におよぶ行政庁の不作為が問題視されるかもしれません。
愛知労働局監督課の下田隆貴課長は会見で、「アスベストを含む廃棄物は、直ちに粉じんが飛散するおそれは少ないが、長期的に見れば周辺住民への影響も否定できない。撤去など今後の対応については一宮市と連携をとっていきたい」と述べました。
筆者は大阪の人間ですので、「なぜ愛知県ではなく、一宮市?」と疑問に思ってしまいましたが、2021年4月1日から、一宮市は中核市になっていたそうです。
ということは、今回の建設廃棄物の不適正保管は、一宮市が中核市になった2021年以降の事案ですので、行政として一宮市に監督責任があったことになります。
公文書ではなく、口頭での取材対応のせいかと思いますが、下記報道における一宮市のコメントには不適切な部分があります。
一宮市は「現時点でアスベストの飛散は確認されていないので、まずは行政指導を行って会社に対応を求めている段階だ。今後も監視を続ける中で、風化などでアスベストの飛散のおそれが認められれば、カバーをかけるなど行政代執行による対応を検討していきたい」としています。
産業廃棄物の再委託が判明しており、壁の高さを超えた状態(のように映像では見えた)の不適正保管が続いている現状では、行政指導を何度も繰り返すことは無意味です。
少なくとも、石綿含有産業廃棄物の存在を当局として認知しているのであれば、最低でも、廃棄物処理法どおりの石綿含有産業廃棄物の保管基準を順守させるために「改善命令」を発出すべき状況です。
行為者が改善命令に従わない場合は、改善命令違反という事実に基づき、改めて警察が立件することが可能になりますので、業者側にも大きなプレッシャーになります。
司法警察職員である労働基準監督官とは異なり、産業廃棄物所轄行政庁の担当官には犯罪捜査や刑事事件として立件する権限はありませんが、廃棄物処理法の枠内で「できること」「やらなければならないこと」はたくさんあります。
地方自治体職員の皆様には、愛知労働局の対応スピードを見習い、自らに課された職責を迅速に果たしていただくことを期待しています。
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2025年1月20日 | コメント/トラックバック(0) | トラックバックURL |
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