怖い話の種明かし

2023年1月11日付 山陽新聞 「虚偽報告で福山の産廃業者処分 倉敷市、90日間事業停止

 倉敷市は11日、廃棄物処理法に基づき、産業廃棄物処理業のK社(筆者注 転載の際に業者名をイニシャル表記に変えました)を20日から90日間の事業停止処分にしたと発表した。

 市によると、同社は2022年4~8月、事業者5社から請け負った廃プラスチック類の処分を終了していないにもかかわらず、終えたと虚偽の報告を行っていた。市が管理票の不整合点を確認し、立ち入り検査で発覚した。

記事では「虚偽報告」と書かれていますので、「報告徴収に対して虚偽報告をしたのか?」と思いきや、

岡山県が公開しているおかやま廃棄物ナビの「行政処分情報詳細」によると、

排出事業者から受託した廃プラスチック類の処分を終了していないにもかかわらず、処分を終了したと偽って産業廃棄物管理票(マニフェスト)の写しの送付及び電子マニフェストによる報告を行った。

とありますので、

産業廃棄物管理票の「処分終了年月日」の虚偽記載だったように思えます。

日本語としては「虚偽報告」でも間違いではありませんが、廃棄物処理法を知っている人ならば、「虚偽報告」と聞くと、「報告徴収への虚偽報告」を連想しますので、報道上の正確な表現としては、
「産業廃棄物管理票の虚偽記載、あるいは虚偽報告」とするべきだったと思います。

さて、近時の行政処分傾向としては、産業廃棄物管理票の虚偽記載(廃棄物処理法第27条の2違反)に対しては、
「事業の全部停止処分10日間」というような、ペナルティとしては実質的に無意味な、短い期間の事業停止処分が選択されることがよくあります。

しかるに、倉敷市においては、「90日間の事業の全部停止」という、毅然とした姿勢を示しています。

ちなみに、環境省が発出した現行の「行政処分の指針」では、行政処分の目安を、平成23年3月15日付環廃産発第110310002号「廃棄物の処理及び清掃に関する法律第14条の3等に係る法定受託事務に関する処理基準について」に則って行うこととしていますが、

肝心の平成23年3月15日付環廃産発第110310002号通知には、平成29年改正法の内容が当然盛り込まれていませんので、「産業廃棄物管理票の虚偽記載」に対する行政処分の位置づけが不明確(宙ぶらりん)のままです。

現行の廃棄物処理法では、上述したとおり、産業廃棄物管理票に関する違反は第27条の2違反であり、第29条の時よりも重い刑事罰の対象となっております。

現行法の第27条の2の刑事罰は「一年以下の懲役又は百万円以下の罰金」であり、
従前の第29条の刑事罰「六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金」であったことを考えると、
現行法での産業廃棄物管理票に関する違反の場合は、「事業の全部停止60日間以上」が適切と思われます。

これらの事情を考慮すると、倉敷市の「90日間」という行政処分の厳しさがより際立つことになりますが、
私個人の意見としては、「10日間」という無意味に軽い行政処分では処理業者に法律違反することの重大性が伝わりませんので、「90日間もアリかもしれない」と思いました。

さて、「虚偽記載」と聞くと、「悪意に満ちた反社会的勢力がねつ造した」ような印象を受けてしまいますが、
産業廃棄物管理票の虚偽記載の場合は、「フツーに仕事をしているつもり」で「フツーの従業員」が悪意なく起こしてしまうことがよくあります。

実際には、このようなフツーの従業員が日常業務の過程で虚偽記載をし、行政処分の対象となることがほとんどかと思われます。

「処分終了年月日」を改ざんしたかったわけではなく、
「事務処理の都合」や「前任者からの引継ぎ」により、間違った日付を、間違ったタイミングで記載することが正しいと教育された人は、悪意なく違法な事務処理を日々繰り返すこととなり、行政官が立入検査に来た際にも、法律違反をしている意識が皆無であるため、いつもどおりの(違法な)事務処理をすることになります。

より詳しく状況を説明すると、下記のイラストのように、時間が経つうちに、虚偽記載を行うタイミングがどんどん早くなり、それだけ法律違反が認知される機会が増えることになります。

産業廃棄物管理票の運用に関しては、
会社の指示や引継ぎが間違っていると、
真面目に仕事をしているだけのフツーの人が、容易に犯罪を起こしてしまうことがあります。

これは誰にとっても不幸でしかありませんので、作業手順をわかりやすく明示した「使えるマニュアル」がすべての産業廃棄物処理業者に不可欠です。

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