舞台の緞帳(どんちょう)は産業廃棄物か否か

産業廃棄物の「繊維くず」は、発生源の業種限定が狭く定義されていますので、業種限定にあてはまらない物はすべて「一般廃棄物」になります。

実際の報道事例を元に、それを具体的に考えてみましょう。

2017年5月25日付 毎日新聞 「久留米市民会館 「海の幸」緞帳、廃棄へ 劣化進み再利用断念 /福岡

 昨年閉館した久留米市民会館(同市城南町)の舞台に掛かる緞帳(どんちょう)について、市が会館の解体に合わせて廃棄処分とすることを決めたことが、市への取材で分かった。市出身の洋画家、青木繁の名作を描いた巨大な緞帳は約半世紀を経て役目を終えることになった。

 青木の代表作「海の幸」(1904年)を忠実に再現した緞帳は、69年の市民会館開館に合わせて作られ、長く同館のシンボルとして親しまれてきた。市は閉館後の用途について他施設での再利用などを検討してきたが、緞帳が縦7・4メートル、横19・5メートル、重さ1・3トンと巨大で、劣化も進んでいることから断念。企業や大学などから譲渡の希望も出ていないという。

毎日新聞のWEB版の画像を見ると、緞帳の大きさがよくわかります。

私、小学生当時は切手収集が趣味でしたので、この青木繁の「海の幸」は切手切手で見たことがあります。

美術的価値が高い緞帳だと思いますが、巨大すぎることと、劣化が激しいことから、美術館からの引き合いも無かったものと思われます。

そのため、断腸の思いで、緞帳を廃棄処分せざるを得ない心情もよくわかります。

名画の作者青木繁と、50年近く緞帳を大切に使い続けてきた久留米市当局と久留米市民の皆様に敬意を払いつつ、法律解釈の題材とさせていただきます。

 市財産管理課によると、緞帳は裁断されて産業廃棄物の中間処理施設に搬入後、繊維質の部分はリサイクルされ、残りは焼却される見通し。文化振興課の土居豊彦課長は「さまざまな可能性を検討したが、緞帳の一般的な寿命が50年程度という面もあり、廃棄はやむを得ない」と述べた。

緞帳は産業廃棄物か一般廃棄物か

まずは、緞帳の法的な位置づけを確認します。

緞帳の排出事業者は久留米市ですので、事業活動に伴って発生した廃棄物であるのは間違いありません。

しかしながら、産業廃棄物となる「繊維くず」の定義は、廃棄物処理法第2条第4項第1号及び同施行令第2条第3号によって、

繊維くず(建設業に係るもの(工作物の新築、改築又は除去に伴つて生じたものに限る。)、繊維工業(衣服その他の繊維製品製造業を除く。)に係るもの及びポリ塩化ビフェニルが染み込んだものに限る。)

と定義されています。

具体的には、繊維くずとなり得る物は、
・建設工事から発生した物(解体工事で発生したカーテン等)
・繊維工業(衣服その他の繊維製品製造業を除く)から発生した物
・PCBが染み込んだ物(業種限定なし)
の3種類だけとなります。

緞帳にPCBが染み込んでいるはずがありませんから、その可能性は真っ先に除外できます。

残りは2つですが、劇場の解体があったわけでもありませんので、「建設工事由来」という条件も除外されます。
※もっとも、たとえ劇場の解体工事があったとしても、それは解体工事業者が発生させた物というよりは、劇場側で解体工事着工前に撤去・処分すべき性質の物とも言えます。

最後の繊維工業という4文字で、劇場が業種限定の対象に入る見込みは無くなりました。

少し横道にそれますが、
「繊維工業」という業種限定でありながら、「衣服その他の繊維製品製造業を除く」とありますので、ほとんどの繊維関連の製造事業者は除外されています。

「いったい、どんな事業者が繊維工業になるのか?」と思われた方のために、その答えを提示しておきます。

答えは、日本標準産業分類の中にあります。

2017年現在の日本標準産業分類では、繊維工業は「中分類11」としてカテゴライズされています。

そして、「119 その他の繊維製品製造業」の対象として、
「寝具製造業」「毛布製造業」「じゅうたん・その他の繊維製床敷物製造業」「帆布製品製造業」「繊維製袋製造業」「刺しゅう業」「タオル製造業」「繊維製衛生材料製造業」「他に分類されない繊維製品製造業」が置かれています。

ちなみに、緞帳の製造事業者は、「他に分類されない繊維製品製造業」に該当しますので、そこから出た緞帳のくずなどは、産業廃棄物ではなく一般廃棄物になります。

「衣服製造業」については、詳細を書く必要は無さそうですので省略いたします。

では逆に、産業廃棄物の繊維くずの発生源となり得る業種としては、小分類でまとめると、
「製糸業、紡績業、化学繊維・ねん糸製造業」「織物業」「ニット生地製造業」「染色整理業」「綱・網・レース・繊維粗製品製造業」になります。

「繊維くず」の発生源となる、繊維工業の対象は非常に狭いことがおわかりいただけたと思います。
※もう一つちなみに、「化学繊維製造業」の場合は、廃棄物の組成的には「廃プラスチック類」として扱う方が妥当な場合が多いと思います。

と、非常に回りくどい説明になりましたが、
「劇場の緞帳は産業廃棄物ではなく、一般廃棄物にしかなり得ない」ことをおわかりいただけたと思います。

ここまででかなりの長文になりましたので、「一般廃棄物を産業廃棄物処理業者に委託する方法(市町村限定)」については、次回の記事にて。

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コメント

  1. 大竹利幸 より:

    産業廃棄物となる「繊維くず」について

    いつも貴重な記事を配信いただきありがとうございます。
    標記の件、解体工事で発生したカーテン等は、事前に施主が処理しておくべき一般廃棄物処理と認識しています。
    今回の法改正では、これらの物品が解体時に残置物となっている実態を踏まえ、産業廃棄物として処理できるように要望していると思います。

  2. 尾上雅典 より:

    大竹利幸 様 コメントいただき、ありがとうございました。

    解体工事前の動産等の処理責任は施主にあるとのご指摘、そのとおりだと思います。

    「繊維くず」の業種限定は、建設リサイクル法制定のはるか以前の、ミンチ解体が一般的だった時代にできた定義ですので、そろそろ実態に即さなくなってきているのかもしれません。

    天然い草の畳等も例に挙げようかと思いましたが、それも施主の廃棄物だよなあと思い、一例としてカーテンを挙げさせていただきました。

    現実には、施主が建物に残置物を残していく場合がほとんどだと思いますので、個人的には、施工業者の廃棄物として処理を進めざるを得ない面が大きいかと思っています。

    もちろん、原則は、それを残していく人の責任で処理すべきとも思っています。


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