陸上自衛隊に学ぶ危機管理

昨年末、滋賀県高島市にある陸上自衛隊の演習地から発射された迫撃砲の砲弾が、角度設定のミスにより演習地外の公道にまで到達し、一般市民の車両に当たるという重大事故が起こりました。

その後、その演習地における実弾演習は中止されていましたが、誤射が起こった原因と再発防止策が陸自から公表されたことを受け、昨日(1月21日)、同演習地での実弾訓練が再開されました。

2019年1月21日付 NHK 「陸自が饗庭野で実弾射撃訓練再開

今回注目したのは、実弾訓練再開をするきっかけとなった、陸自の事故調査結果です。

2018年12月18日 陸上自衛隊公表 「饗庭野演習場における迫撃砲弾の着弾による事故調査結果について

調査結果と言いましても、わずかA4用紙6枚の分量に過ぎませんが、この6枚に、「誤射が起こった原因」と「再発防止策」が過不足なくまとめられています。

この対策が「実戦を想定した訓練として有効」かどうかは私には判断できませんが、
「演習場外への誤射を防ぐ」ためには、申し分のない再発防止策のように思いました。

軍事(的)組織は、軍事行動に関する危機管理はやはりプロフェッショナルですね。

同じミスを起こさないように、徹底的にシステマチックな対策を立てています。

(2) 再発防止策
〇 弾着区域外への着弾及び被害発生に対する再発防止策
・ 射撃準備段階における安全管理義務の教育及び点検要領の徹底
・ 安全管理施策の強化(左右の射撃限界の規定及び安全杭※の点検要領の改善)
※ 弾着区域に着弾し得るよう射撃方向の左右限界(左右にどれだけ砲身を移動させることが出来るか)を示すもの
・ 安全管理義務の教育及び点検要領の徹底
・ 安全点検の実施に係る責任の徹底(射撃中止に係る責務の確実な実施)
・ 上記事項について、上級部隊による継続的な確認を実施
・ 演習部隊の訓練計画に、演習場使用上留意すべき事項(周辺公共施設、民家の所在等)添付を義務化
〇 自治体等への通報遅れに対する再発防止策
・ 覚書の解説作成と関係者へ教育及び業務隊長交代時確実な引継ぎ
・ 今津駐屯地業務隊長から高島市等へ直接通報を実施し得る速報体制整備
・ 速報伝達訓練の実施による平素から連絡態勢の強化
・ 平素からあゆる機会を通じて地元との信頼関係 を醸成し、連携を強化

素人的な見方かもしれませんが、
赤字で強調した部分は、人の注意能力に期待するのではなく、システマチックにエラーを防ぐもの。
青地で強調した部分は、規程や要領を整備し、それをいかに組織内に浸透させるかに腐心している部分 です。

システマチックな対応の一例

なるほど。
たしかに、迫撃砲を設置する場所が「点」だと、いつ何時明後日の方向を向くかわかりませんので、石灰で補助線を引けば、角度と座標の両方を間違うことはありませんね。

このような対応は、労働災害の発生防止を図る上でも非常に有効です。

労働災害が発生した後に、「教育訓練をしっかり行い、注意喚起を図っていた」という言い訳がよくされがちですが、人間の注意能力には人によって大きな差があり、同じ人でも体調や心理状況によって大きく変わります。

そうした人間の不確かな注意能力のみに期待するのではなく、一目瞭然でわかる補助線などのシステマチックな対応を基本とすべきではないでしょうか。

また、管理規定や要領の整備・普及に関する対策も見事です。

行政庁を含めた一般的な組織においては、「覚書の解説作成と関係者へ教育及び業務隊長交代時確実な引継ぎ」について言及されることはほぼ有りません。

「覚書」ではなく、「覚書の解説」ですからね。

規程を作りっぱなしにするのではなく、それを一般的な人間が読解できるレベルにまで落とし込む姿勢からは、「絶対に規程の内容を浸透させるのだ」という信念がうかがえます。

「業務隊長交代時確実な引継ぎ」は、人事異動を前提とした、ルールの形骸化を防ぐ狙いがあるのだろうと思います。

民間企業では迫撃砲を誤射する危険性は皆無ですが、
廃棄物処理法違反や労働災害を防止する上でも、今回ご紹介した陸自の危機管理対応行動は大いに参考になると思います。

※余談
私、福井県小浜市から滋賀県高島市に至る「鯖街道」を徒歩で歩いたことがあります。

その途中で、誤射が起こった饗庭野の演習地の近く(もちろん、公道)を通りましたが、「流れ弾が飛んで来たら怖いなあ」という根拠のない(?)恐怖を感じたので、歩くスピードが若干速まりました。

それくらい、普通の生活圏の近くにある演習場なのです。

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