手にした武器を使いこなす責任

2023年11月20日付 NHK 「産業廃棄物の無許可埋め立て 業者と稲敷市に賠償命じる裁定

茨城県稲敷市の寺の所有地に業者が無許可で産業廃棄物を埋め立て市はこれを阻止しなかったとして、寺や周辺の住民が損害賠償を求めて国の公害等調整委員会に裁定を申し立て、委員会が20日までに業者に加えて市の責任を認めて賠償を命じる裁定を出したことがわかりました。

(中略)

委員会は、20日までに業者の責任を認めるとともに、稲敷市についても無許可の埋め立てを認識できる状況だったとして、違法に権限を行使しなかったなどという判断を示しました。
そのうえで、業者と市が共同で2000万円余りを寺や住民に支払うよう命じる裁定を出しました。

稲敷市は、盛り土や土砂の埋立を規制するために市独自の「稲敷市土砂等による土地の埋立て等の規制に関する条例」を制定していました。

稲敷市ホームページ 「土地の埋立てには許可が必要です」によると、

    • 5千平方メートル未満の事業区域面積で行うすべての「埋立て,盛土,堆積及び一時堆積を行う行為(市条例第2条第4号)」を許可制にし
    • 事業区域の境界線から「100メートル以内の土地所有者」と「300メートル以内の居住者」から同意書を取得させる
    • 無許可で事業を行った場合は、「2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する

という、造成事業を行いたい事業者にとってはかなり厳しい手続きを義務づけています。

近隣関係者からの同意書取得を義務づけているところが最大の関門と言えます。

2023年11月20日付 茨城新聞 「産廃不法投棄で環境破壊 茨城・稲敷市に責任 市と業者に2000万円賠償命じる 公調委裁定」によると

2015年10月、同県美浦村の埋め立て業者が同地区の山林に土砂を埋め立てる許可を市に申請。同11月、市は廃棄物を持ち込まないことを条件に許可を出し、埋め立てが進められた。16年3~6月ごろ、許可のない区域の山林や共同墓地でも埋め立てが行われた。

とありますので、寺や近隣住民の同意無く、土砂の埋立が行われたようです。

また、再び茨城新聞の報道によると、

裁定では、建設汚泥処理物で「基準値を超えるフッ素や強いアルカリ性による土壌汚染が生じている」と認定。市については、職員が市条例に基づき産廃物かを検討するのを怠り、許可したと結論付けた。

とありますので、純然たる土砂ではなく、廃棄物(生コンか?)が混入されていた疑いがあります。

産業廃棄物の混入が事実であるならば、廃棄物処理法に基づく茨城県の対応となるべきところですが、今回の裁定では、「稲敷市」と「事業者」の責任だけが俎上に上ったものと思われます。

裏を返すと、稲敷市が独自条例を制定せず、土砂の埋立規制を行っていなければ、稲敷市が裁定対象の当事者に上がることはなかったわけですから、
今回の裁定では、「独自条例に取組む市町村自身の本気度」が問われたとも言えます。

上述したとおり、独自条例に基づく「非常に強力な武器」を与えられた地方自治体には、その武器を「抜かずの宝刀」ではなく、「強力な武器として使いこなす責任」も課されている、と考えるべきなのかもしれません。

もっとも、2023年11月25日付 東京新聞 「稲敷の山林に産廃不法投棄 市、公調委裁定に不服 提訴検討」では、

市は賠償債務の不存在の確認を求め、地裁龍ケ崎支部に提訴する方針。市は、許可地以外に埋め立てた業者に「撤去命令を出し、刑事告発している」などと、裁定の内容に反論している。

という稲敷市の反論が示されています。

実際のところ、行政機関が取れる法的手段としては、「撤去命令」と「刑事告発」が関の山と言えますので、少なくとも、法的手段に関しては不作為だったわけではなさそうです。

独自条例の制定により、地方自治体には強力な権限を付与されることになりますが、
条例制定後に、法令に基づく規制限界の中で最大限の効果を発揮すべく、迅速、かつ執拗な(?)取組みを続けられるかどうかで、地方自治体への評価が変わる時代となったようです。

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