産業廃棄物の許可で一般廃棄物は運べません
今回ご紹介する記事は、最初現代ビジネスのサイトに掲載された時点に読み、その時から「誤解を招く表現が多いな」という印象を持っておりました。
「知識不足の執筆者の単なる取材不足かな?」と思い、X(@onoemasanori)でその点を指摘したところ、私レベルの投稿としては、驚異的にバズりました(笑)。
当初はブログで取り上げるつもりはありませんでしたが、Yahoo!ニューストピックに掲載され、誤解をする人がさらに激増しそうな予感がしましたので、啓発の意味を込めてブログでも問題点を指摘しておきます。
知らなかったではすまされない…不法投棄、違法業者が増加中の「産業廃棄物処理事業者」の正しい選び方
記事タイトルの後半の「違法業者が増加中の産業廃棄物処理事業者」という表現に、偏見が感じられます。
記者自身には偏見の意識が無いのかもしれませんが、「産業廃棄物処理業者には犯罪者が多い」という誤った無意識の固定観念がありそうです。
「無意識に連想する」ところが一番厄介な問題でありまして、今回の記事がさらにその連想を強化助長し、それを読んだ人がさらにそれを周囲に拡散するという、負の連鎖スパイラルが現実に存在しています。
また、記事タイトルには「産業廃棄物処理事業者」とありますが、記事全体を読むと、どうやら「産業廃棄物処理委託」ではなく、「個人宅の不用品回収」という「一般廃棄物の処分受託」を前提とした文章であることがわかります。
ここが、この記事の一番の問題点です。
産業廃棄物処理委託に関する説明のパーツとしては、所々文意が成り立つ文章があるのですが、そもそもの論点が最初からズレているため、産業廃棄物処理委託基準に関する言及のすべてが無意味となっています。
その一例が、次の“産業廃棄物処理企業”に従事する方のコメント
「産業廃棄物収集運搬業許可とは、事業を的確に行うための知識・技術や事業経理的基礎や欠格条項に当てはまらないなど厳格な要件を満たした業者のみが都道府県から許可がもらえます。古物商許可と産業廃棄物収集運搬業許可の2つがあれば、中古品を有償で買い取ったり、不用品を無償で引き取ることが可能です」
「(個人宅の不用品回収に)許可が必要」という点はそのとおりですが、
「古物商許可」と「産業廃棄物収集運搬業許可」があれば、「個人宅の不用品回収」ができるわけではありません。
関係のない業許可を100個持っていたところで、「成らぬものは成らぬ」です。
「個人宅の不用品回収」に必要な許可は、「その場所の市町村長が出す一般廃棄物収集運搬業許可」だけです。
また、売れそうな中古品なのに、「売れないから」と騙して、無償で引き取ることはよくありますが、
「売れない不用品」を無償で引き取ってくれる、仏様のような企業は日本には存在しません。
他の売れそうな物品と合わせて、抱き合わせで不用品をセット回収しているだけの話です。
そして、売れる物品だけ持ち帰り、売れそうにないゴミは不法投棄、というお決まりのパターンになります。
次に、産業廃棄物処理業者の適正価格を知ることが大切である。
その業者のHPに3万5000円と表記してあっても鵜呑みにしていはいけない、そう高松さんは断言する。
このあたりから、記事の内容がかなり危なくなっていきます。
私は、まともな産業廃棄物処理業者のHPで、産業廃棄物の種類を問わず「3万5千円」と金額だけを訴求しているものを見たことがありません。
逆に、この手の「価格訴求だけ」をしているHPは、無許可の不用品回収業者のところでよく見ます。
「HPのトップページで低額の料金を提示して、結局、あとから追加料金をとる業者は少なくありません。目安の適正価格は1部屋で10万円、ゴミの量や廃棄処理で決まります」
「1部屋」という単位を挙げていることから、この業者が回収している物は、「産業廃棄物」ではなく「一般廃棄物」である疑いが濃厚となりました。
そうであれば、産業廃棄物収集運搬業許可しか所持していない企業が、なぜ一般廃棄物である個人宅の不用品回収をしているのか?という疑問が残ります。
可能性としては2つ考えられます。
1つは、「一般廃棄物収集運搬業許可を新規で取得することはほぼ不可能なので、似たような名称の産業廃棄物収集運搬業許可で誤魔化してしまえ」というもの。
もう1つは、「同じ『廃棄物』という名称が付いているから、産業廃棄物の許可で良いんじゃね?」という、法律の無知、あるいは誤解に基づくものです。
単なる憶測ですが、この記事の取材対象者は無邪気に注意点(?)を語っていることから、後者の立場に属するような気がします。
日本語としては「産業廃棄物」と「一般廃棄物」では取り扱いが全く異なりますので、メディアに文章を掲載する以上は、もっと慎重に言葉を選んでいただきたいものです。
現代ビジネスは講談社が運営するサイトのようですので、何らかの校閲を経た上で、文章の公開に臨んでいるのではないかと思いましたが、「紙の本」ではないので、専門の校閲担当者が介在していないのかもしれません。
結論としては、この記事は取材対象者の選定から不適切ですので、文章の修正だけでは修復不可能な内容となっています。
業者ではなく、市町村等の行政に取材をすべきテーマでした。
もっとも、市町村でも法律知識が怪しいところは多々ありますが。
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2025年2月25日 | コメント/トラックバック(0) | トラックバックURL |
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