株主も欠格要件対象者であることにご注意を

個別の企業名をあげつらう必要はないので引用元の新聞記事を示しませんが、次のような理由で、産業廃棄物収集運搬業の許可が取消された事例が報道されていました。

株主が大麻取締法違反の罪で懲役1年、執行猶予3年の刑が20●●年■月に確定していたため

出資比率等のその株主が法人に対して及ぼしていた支配力の大きさはよくわかりませんが、「出資比率5%程度の少数株主」ではなく、「比較的高い割合の出資比率の株主」だったものと思われます。

「株主」と明記されている以上、「役員兼株主」ではなく、「株主」であったものと思います。

通常、株主は会社に顔を出さず、株主総会で議決権を行使する立場ですが、「出資比率5%以上の株主」は会社に一定の支配力を及ぼす関係者として、許可申請書に住所・本籍地・氏名・生年月日を記載することが求められています。

そのため、「出資比率5%以上の株主」は、実際に会社経営に携わる「役員」と同様のレベルで、欠格要件に該当するかどうかを審査されることになります。

しかしながら、会社経営に携わっていない純然たる株主の場合、株主総会以外では会社関係者との接点が無いことも多く、また中小零細企業においては、節税対策として親族を名目上の株主として位置づけることが多いため、株主の日頃の素行の問題点を知ることができずに、許可申請書に名前等をそのまま挙げてしまうことがよくあります。

毎日顔を合わせる関係者であれば、病欠や休暇でもないのに急に数日間会社に来なくなった人に「大丈夫か?」と確認する機会がありますが、年に1回の株主総会以外に接点が無い株主の場合、会社側が株主の身辺に起きた異常に気付く可能性は極めて低くなります。

そのような通常は没交渉の株主が起こした犯罪により、産業廃棄物処理企業の許可が取消されるケースは色々ありますが、
「自動車運転過失致死罪」のように、車を運転する人であれば、誰もが起こす可能性のある犯罪が特に危険です。

特に、初犯であれば「執行猶予」が付くことがほとんどですので、「執行猶予が付いたお陰で、刑務所に収監されずに済んで良かったね」となりがちですが、「執行猶予」は「刑の執行を一時的に猶予する」制度ですので、執行猶予期間中は「刑の執行が終わっていない状態」のままです。

そのため、犯罪歴を隠す必要性を感じることなく、産業廃棄物処理業許可申請書に、多くの申請者が不用意に欠格要件者を挙げてしまうことになります。

「株主のプライバシーまで踏み込めない」と委縮して何も対策を取らないことは、非常に危険と言わざるを得ません。

最低でも、「出資比率5%超の株主は欠格要件への該当性を審査されること」を株主に説明した上で、

  • 何らかの犯罪容疑で警察に逮捕された場合は、すぐに会社側に知らせてほしい
  • 万が一、株主が裁判で有罪になってからでは遅いので、拘禁刑以上の刑に処される可能性がある場合は、裁判が始まる前に株式を譲渡し、株主から退いていただく必要がある

ことを納得してもらう必要があります。

最後に、刑事事件で訴追された場合、被疑者は弁護士を必ず雇うことになりますが、
廃棄物処理業の欠格要件の厳しさを御存知ない弁護士が多数、というよりはほとんどです。

そのため、「株主から降りてくれって会社から言われたけど、本当にそうした方が良いか?」と被疑者の株主が質問したとしても、「初犯なので執行猶予が付くはずだから、そんなに慌てる必要はない」という有難いご託宣で片づけられることがよくあります。

このような場合、会社側としては、刑事弁護を引き受けた弁護士に欠格要件の詳細を説明し、許可取消というリスクが実現しないように対策を取る必要があることを理解してもらう必要があります。

理想は、会社側が廃棄物処理法に明るい弁護士と契約をしておき、株主逮捕等の不測の事態が起きた場合には、その先生に株主の弁護をしてもらうことです。

そのためにも、株主と会社側の最初の意思疎通が不可欠なのです。

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