ブルーシートは破れない!?

2025年7月15日付 NHK 「愛知 一宮市 アスベスト含む産業廃棄物など放置で行政代執行

愛知県一宮市で健康被害のおそれがあるアスベストを含む産業廃棄物などが屋外に放置されている状態が続いているとして、14日、市が放置していた会社にかわって飛散防止対策として、廃棄物などにシートをかける「行政代執行」を行いました。

(略)

市は会社に対し、文書などで対策を取るよう指導した上で、ことし4月に廃棄物などにシートをかけて、アスベストの飛散防止対策を取るよう措置命令を出していましたが、1か月の期限の間に対策が取られなかったということです。

措置命令は「生活環境の保全上支障が生じ、又は生ずるおそれがあると認められる」ために発出される命令であり、それが命令対象者によって履行されない場合、「生活環境保全上の支障の除去またはその防止を行う必要がある」ため、措置命令を発出した行政庁が、命令対象者の代わりにその支障の除去等を行う「行政代執行」が実行されることになります。

よって、今回の行政代執行自体は法律で定められた手順どおりの行動ではあります。

ちなみに、一宮市が実際に発出した措置命令の詳細は次のとおりです。
【2025年4月14日・サーライン株式会社等】行政処分(措置命令の発出)

 サーライン株式会社の積替え保管施設(一宮市千秋町浅野羽根字西南出44番1、45番1)には、石綿が含有される産業廃棄物とその他の産業廃棄物が混在した状態で保管されていると認められるため、当該積替え保管施設に保管されている全ての産業廃棄物に対し、石綿の飛散防止措置として、シートを掛けること。
 サーライン株式会社の中間処理施設(一宮市千秋町浅野羽根字西南出55番1、56番1、57番1)には、石綿が含有されるサイディング材とその他のサイディング材が混在した状態で保管されていると認められるため、当該中間処理施設に保管されている全てのサイディング材に対し、石綿の飛散防止措置として、シートを掛けること。
 なお、シートを掛ける作業においては、石綿の飛散防止措置を講ずること。

命令の対象は「積替え保管施設」と「中間処理施設」の2箇所ですが、同一敷地内にあるようです。

いずれの施設に対しても、「保管している産業廃棄物中の石綿の飛散防止措置」として、「シート掛け」を命令しています。

はたして、この不適正処理現場に対する措置命令で、「シート掛け」だけを命令することが適切だったかどうか?

NHKの2025年1月16日付「アスベスト含む廃棄物放置などの疑いで書類送検 愛知労働局」で報道された現場の様子は、次のような状況でした。

保管されている産業廃棄物の量が明らかに多過ぎ、最頂部の高さが事業場外壁の高さを超過しています。

別角度(上空)から撮影された画像で見てみると、「保管高さ」と「勾配」が、「屋外での産業廃棄物保管基準」に適合していないように見えます。

当該業者の申請書における「保管高さ」や「保管場所の詳細」はわかりませんが、通常は、外壁の高さを大幅に超えた高さで産業廃棄物を保管し続けることはまず容認されませんので、申請上はもっと低い位置が最頂部となるように記載していたはずです。

保管基準の良い例と悪い例がもっとも具体的に解説されている「産業廃棄物処理業の許可申請に関する講習会テキスト」から、保管基準の判定例を転載させていただきました。


今回の事例で言うと、「50%勾配面を超えている」と「勾配の起点を壁から2m離していない」「基準線を壁の頂部から50cm下げていない」の3点に抵触する状況と思われます。

措置命令は、

廃棄物の処理が基準に適合しないで行われた場合に、現に発生した支障を除去するための措置を講ずるように命じ、又は支障を生ずるおそれという具体的な危険を避けるため、支障の発生を防止するための措置を講ずるように命ずるもの
※出典:環境省「行政処分の指針について」

ですので、産業廃棄物の保管基準に適合しない状況で産業廃棄物が保管され、飛散流出のおそれがある以上、根本の保管基準違反を是正させず、「シート掛け」だけを措置命令で命じたことは、失当だったように思えます。

また、ブルーシートでひとまずの飛散流出を防止すること自体は良いのですが、これから続く猛暑の中、「ブルーシートが絶対に破れない」という保証はまったくありません。

メーカーのカタログでは、「対候年数3年」といったシートが使える目安となる年数が示されていますが、これはあくまでも「理想値」であり、「メーカー保証数値」ではありません。

直射日光や風が激しい場所、あるいは大量の降雨等で、1年経たずにブルーシートが破れてしまうことなど日常茶飯事です。

ブルーシートによる「シート掛け」は、ひとまずの(含有されている)石綿の飛散流出を防止するに過ぎず、その現場に産業廃棄物が残り続ける限り、永遠に破れたシートの補修や掛け替えをし続けることが必要となります。

石綿含有産業廃棄物は、放置すればするほど、サイディング材の破損等により、含有されていたアスベストが空気中に漂うリスクが高まります。

「臭いものに蓋をする」式の目先だけの解決策ではなく、近隣住民の生命を守るためにも、「石綿含有産業廃棄物の早急な撤去」に一日も早く着手すべきではないでしょうか?

ただし、残念ながら、最初の措置命令が「シート掛け」しか命じておらず、行政代執行で一足飛びに産業廃棄物撤去に踏み切れないという自縄自縛の状況になっていますので、まずは適切な措置命令を発出し直すことから始める必要がありそうです。

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