会社思いの従業員?

「こんなに会社思いの従業員がいるなんて!」と全米が涙した報道です。

2022年10月18日付 NHK 「豪雨災害の廃棄物仮置き場に不法投棄 運搬業者を業務停止処分
※業者名は(略)としました。

おととしの豪雨に伴って設置された災害廃棄物の仮置き場に、無関係のゴミを不法に投棄したとして熊本県は宇城市の産業廃棄物の運搬業者を18日から45日間の業務停止処分としました。

業務停止処分を受けたのは、宇城市にある産業廃棄物の運搬業者(略)です。

県によりますと、この会社は去年10月から11月にかけて球磨地方の大型遊戯施設の解体工事から出た壁面材や冷蔵庫などあわせておよそ107トンを不法に投棄したということです。

投棄していたのは、おととしの豪雨災害で人吉市が設置した災害廃棄物の仮置き場で、この会社は被災した住宅の解体も請け負っていたことから、交付された許可証を悪用していたということです。

県の聞き取り調査に対して作業員2人は「処分費用を浮かし、会社の利益にしようと思った」などと説明したということです。

(略)は県に対し事実関係を認め、「監督不行き届きで大変申し訳ない」と話して、すでに投棄したゴミを撤去したということです。

NHKの報道内容からは、「会社思いの従業員が独断で不法投棄をした」という印象を受けます。

同日付の産経新聞の記事「豪雨ごみ偽り産廃不法投棄 熊本、業者を事業停止」では、
※同じく、業者名は(略)とします。

(略)は県の調査に「処分費用を浮かせて会社の利益にしようと思った」と話しているという。

と、こちらは「会社の指示で不法投棄」と読める表現がされています。

どちらの報道が正しいのかはわかりませんが、仮に従業員の独断で行われた不法投棄だったとしても、法的には「監督不行き届き」で済む話ではありません。

しかるに、両報道とも「事業停止45日間」という行政処分の内容は共通していますので、現実問題として、「監督不行き届き」程度で済んでしまっているのですが(苦笑)。
※本稿執筆時点では熊本県庁のHPに行政処分内容が公表されていないため、報道が真実であるかどうかの裏付けを取ることができていません。

廃棄物処理法には、「不法投棄を行った処理業者の許可は必ず取消す」といった、わかりやすい表現の条文はありませんが、第14条の3の2第1項第五号及び第14条の3の規定により、「悪質な不法投棄を行った処理業者の許可は取り消さなければならない」と解釈せざるを得ない構造になっています。

※以下、法律の条文の抜粋になりますので、上記の解釈に納得していただけた方は条文に関する部分は読み飛ばしていただいて結構です。

(許可の取消し)
第14条の3の2 都道府県知事は、産業廃棄物収集運搬業者又は産業廃棄物処分業者が次の各号のいずれかに該当するときは、その許可を取り消さなければならない
一~四 (略)
五 前条第一号に該当し情状が特に重いとき、又は同条の規定による処分に違反したとき。
(以下略)

前条第一号は下記のとおりです。

(事業の停止)
第14条の3 都道府県知事は、産業廃棄物収集運搬業者又は産業廃棄物処分業者が次の各号のいずれかに該当するときは、期間を定めてその事業の全部又は一部の停止を命ずることができる。
一 違反行為をしたとき、又は他人に対して違反行為をすることを要求し、依頼し、若しくは唆し、若しくは他人が違反行為をすることを助けたとき。

「不法投棄」が「違反行為」であることは説明の要が無いと思います。

両条文を総合すると、「情状が特に重い違反行為を行った処理業者の許可は、必ず取消さなければならない」となります。

厳密には、「空き缶一本のポイ捨て」から、今回の報道対象のような「災害廃棄物置き場への産業廃棄物の不法投棄」に至る、あらゆる不法投棄すべてを「情状が特に重い違反行為」として同視すべきかどうかという問題があります。

何をもって、情状が「それほど重くないもの」と「特に重いもの」を区別するのか、ということになります。

「107トンの不法投棄なんて日常茶飯事だから重く罰する必要なんてない」と、考える自治体がある一方で、
「たとえゴミ袋1つであっても、処理業者が不法投棄をすることはあってはならない」と、処理業者の責任を重く捉える自治体が実際に存在しています。

かたやゴミ袋1つの不法投棄で許可取消、別の場所では107トンの不法投棄をしてもただの営業停止、では処分の重さがまったく異なります。

同じ廃棄物処理法に基づく行政処分でありながら、自治体の解釈だけで行政処分の重さが著しく異なる状況は、不公平と言わざるを得ません。

そこで、環境省としては、「第1号法定受託事務」である産業廃棄物処理業許可等については、通知により、違反行為とそれに対する行政処分の統一的な目安を示しています。

平成23年3月15日付環廃産発第110310002号通知

同通知によると、「不法投棄」は「情状が特に重い違反行為」と位置づけられ、不法投棄をした処理業者に対しては、不法投棄量の多寡を問うことなく「許可取消が相当」と示されています。

不法投棄は、必ず意図的に行われる犯罪であるため、行政処分の際に、不法投棄量の多寡を考慮する必要はまったく無いと、私も考えています。

また、運搬業者(略)とは別に、建設工事の排出事業者が存在していたのかどうかも気になるところです。

運搬業者(略)は収集運搬業務を受託しただけであり、排出事業者たる建設工事の元請業者が別に存在しているのであれば、
元請に返送される産業廃棄物管理票の記載がどうなっていたのかも問題となります。

運搬先が中間処理業者ではなく、災害廃棄物の仮置き場であったため、実際には中間処理は行われていません。

そのため、返送されてきた産業廃棄物管理票写しに、中間処理業者の「処分終了年月日」が記載されていると、中間処理業者が運搬業者(略)と共謀し、「虚偽記載」をしていたことになります。

この場合は、虚偽記載をした中間処理業者にも行政処分を科す必要がありますし、排出事業者たる元請の委託基準遵守状況を確認する必要もあります。

もっとも、
「排出事業者=運搬業者(略)」、すなわち「元請=運搬業者(略)」であった場合は、
運搬業者(略)は、自社が発生させた産業廃棄物を運搬している間は、産業廃棄物管理票を運用する必要はありません。

建設工事の請負関係がまったくわかりませんので、いずれが正しいのかは判断できませんが、上記は私ごときでもすぐに思いつく法的な問題ですから、今後管轄自治体によって関係者に対する厳正な調査及び処分が行われるものと思います。

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