テナントビルのビル管理会社への契約委任の可否

排出事業者と処理業者の双方のクライアントから頻繁にいただく質問なのですが、
「行政刷新会議資料に、『テナントは産業廃棄物処理委託契約をビル管理会社に委任できる』と書いてありますので、ビル管理会社が排出事業者として契約できるんですよね」というものがあります。

個人的には、私もその方が社会効率性が高いと思うし、問題もないと思いたいです。

しかし、廃棄物処理法を忠実に解釈・運用すると、上記の方法には問題があります。

その理由を解説する前に、まずは行政刷新会議資料そのものを見ておきましょう。

行政刷新会議グリーンイノベーションWG資料 p79 

行政刷新会議事務局からの問題提起

 テナントビル、ショッピングモール、商店街など、複数の事業者が共同して3Rを推進することが適切かつ可能な場合がある。このような場合、マニフェストはビルの管理会社等が自らの名義で交付等の事務を行ってもよいとされているが、委託契約は個々の事業者が締結する必要がある。しかし、個々のテナントが処理委託契約を締結することは現実的ではなく、かつ複数の排出事業者の連携による3Rを阻害している。
 したがって、当事者間の契約に基づき、これらのグループを代表するものが排出事業者となることで、全体の廃棄物の3R促進および適正な処理委託を可能とするべきである。

環境省の回答

・契約締結に関し、委任状を交付し委任するのであれば、各テナント会社はその排出事業者責任までをも転嫁しうるものではないが、ビル維持管理会社等が一括して委託契約を締結することは可能である。
・なお、廃棄物処理法上、産業廃棄物の処理を委託する場合には、当該産業廃棄物の処分の場所や、受託者の許可の範囲等を記載した委託契約書により行うことを義務付け、委託者である排出事業者に、受託者が適切に当該産業廃棄物の処理の事業を行えるかどうかを確認させ、排出事業者責任の徹底を図っているところであり、この趣旨からは、委託者である排出事業者が受託者と自ら直接契約を締結することが望ましい。

環境省の回答を斜め読みすると、「委任状を交付したらOKなのね」と解釈する人が多いと思います。

しかし、本質的に重要な部分は、赤字の部分「各テナント会社はその排出事業者責任までをも転嫁しうるものではない
ここなんです。

「委任状交付したらOK」と解釈する人は、
「ビル管理会社と処理業者の2者契約で良いのだ」と考えていると思いますが、

それだと、各テナントの排出事業者責任を、全面的にビル管理会社に転嫁していることになります。

環境省の解釈を正確に理解するためには、「委任」の定義を理解する必要があります。

法律的には、委任とは、「ある事務の処理を自分以外の他人に任せること」になります。

私の業務で言うと、許認可申請事務の委任を受け、行政庁に申請書を提出する行為が委任にあたります。

で、このケースを例にしてお話しすると、
100社から産業廃棄物収集運搬業の許可申請事務の委任を私が受けたとします。

私は100通りの許可申請書を作ることになりますが、
その時、許可を受けようとするそれぞれの申請者は100通とも「尾上雅典」になるのでしょうか?

違いますね。依頼者の100社の名称をそれぞれ書くことになります。

私は、あくまでも申請書提出の委任を受けただけであり、尾上雅典名義の許可を受けることを頼まれたわけではありません。

環境省が念押ししている、「排出事業者責任の転嫁」というのは、尾上雅典名義で100個の許可を取ることを指します。
※現実的には、同一行政の許可を同一人物が同内容で取るのは不可能ですが、たとえ話ですので(笑)。

おそらく、環境省が言いたいのは、
「委任状」をビル管理会社に交付すれば、ビル管理会社にテナントと処理業者の契約代理をしてもらうことは可能
ということだと思われます。

具体的にはこういうイメージですね。

甲 テナント
乙 甲代理人 ビル管理会社
丙 処理業者

上記の場合、ビル管理会社に委任状を交付しているので、
「乙 甲代理人 ビル管理会社」という表記は無くても良いと思います。

甲 テナント
乙 処理業者 という形式でも可という意味です。

逆に、こういうのはダメよというイメージはこうなります。

甲 ビル管理会社
乙 処理業者

「現実と乖離している」という批判や意見があることは重々承知しておりますし、私も実務的には、ビル管理会社と処理業者の直接契約でも問題は発生しないだろうと思います。

しかし、法律で委託契約書の作成が排出事業者に義務付けられている以上、やはり勝手な解釈は危険だと言えます。

もっとも、現状では、テナントが廃棄物処理費を個別に負担しているケースは少なそうですから、
上記の方針を徹底した場合でも、実質的にはテナントは契約書にハンコを押すだけとなります。

本当に大変なのは、テナントごとの委託契約書を用意するビル管理会社だけですね。

通常の賃貸借契約時に一緒に準備しておけば、それほど大変な手間でもありませんが。

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コメント

  1. 行政刷新会議の回答はもっと画期的な解釈では? より:

    本件、興味深く読ませていただきました。私も今まで廃棄物処理法を忠実に解釈・運用すると、上記の方法には問題があると考えていたのですが、行政刷新会議資料に書かれている環境省の回答は、今までになく柔軟な解釈が書かれているように思いました。
    つまり、私も委託契約に関しては「委任状を交付したらOKなのね」と解釈いたしました。これは、本当に間違いでしょうか?
    環境省が念押ししている、「排出事業者責任の転嫁」というのが、尾上雅典名義で100個の許可を取ることを指すのであれば、私も間違いだと思います。
    しかし、「ビル維持管理会社等が一括して委託契約を締結することは可能である。」「この趣旨からは、委託者である排出事業者が受託者と自ら直接契約を締結することが望ましい。」という文言から、「直接契約を締結するのが望ましい(直接契約を締結しないのは望ましくない)ものの、ビル維持管理会社等が一括して委託契約を締結することは可能である。」と解釈でき、その解釈によって「上記規制改革の方向性への考え方」欄に「現行制度下で対応可能と考える。」と回答しているものと思われます。
    排出事業者責任とは、廃棄物処理法第三条に書かれていること(事業者の責任で処理、処理困難な製品を作らない等)であり、それを転嫁できないと言っているのではないでしょうか?

  2. 尾上雅典 より:

    コメントいただき、ありがとうございました。

    個人的な思いとしては、排出事業者は各テナントではなく、ビル管理会社とした方がスッキリすると思っています。

    しかし、環境省が各テナントと処理業者との直接契約という趣旨で通知を出していますので、上記の記事のように解釈いたしました。

    委任状を交付することで、ビル管理会社のみで一括契約することが可能とするならば、
    排出事業者がビル管理会社のみと解釈する必要があるように思います。

    委任状の添付だけでOKとする場合は、
    委任状は、テナントとビル管理会社の間だけのもので、産業廃棄物処理委託契約書には、各テナントの委任状が添付されるわけではないからです。

    委任状を添付しない限り、契約の当事者にテナントが入っているとは誰も認められませんし、
    排出事業者責任そのものを委任状という紙切れで第三者に移転できるとも思えません。

    このように考えると、環境省が言っている委任状とは、「契約の代理権限を授与する委任状」のことであり、「当事者責任を移転することまでを含めた委任」ではないと考えました。

    「法的な処理責任を委任によって第三者に移転できるかどうか」が論点なのだろうと思っております。

    ただ、現実的には、ビル管理会社の一括契約であろうとも、廃棄物が適正に処理される限りにおいては、それを問題視する行政や警察はないとも思います。

    また、上記の考えは、あくまでも私個人の考えですので、環境省は「委任状交付でOK」と考えているのかもしれません。

    実務家の端くれとしては、環境省の考えよりも、法的な整合性が取れているかどうかの方を重視しますので、個人的なブログでは上記のように見解をまとめさせていただきました。

    貴重な視点のご提供をありがとうございました。


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