こう考えてはどう?テナントビルの廃棄物(その1)

テナントビルから発生する廃棄物の排出事業者は誰?」の続きです。

通知はあくまでも法律解釈の一つの形態に過ぎず、行政と国民(事業者)との関係性を確定させる効力は持ちません。

そのため、通知とは異なる法律解釈をしたとしても、法令の条文に違背しない限りにおいては、「通知違反」として罰せられることは有り得ません。

これは、法治国家においては非常に重要な原理原則ですので、ご存知の方が大半かと思いますが、改めて記しておきます。

ではなぜ、そのような不確かな効力しか持たない通知が運用されているのか?

それは、不確かとは言え、一つの解釈基準を行政から体系的にまとめて示してくれた方が、世の中は円滑に動くからです。

法律解釈が、それぞれの人間の解釈に完全に依拠しているような場合、「私はこう解釈する」「いや、法律には明確に書かれてないので、私はその解釈に反対だ」と、一々議論を行う必要が生じ、それに費やす時間と労力は大幅に無駄となります。

こうした社会的不合理を抑制するために、行政目線で考えた「法律の規制目的を達するための一定の解釈基準」が通知なのです。

さて、前置きが長くなりましたが、通知を材料に実務を考える上では重要な基本前提であるため、改めて通知の定義をさせていただきました。

今回は、まずは通知の基本原則を尊重し、環境省の解釈が問題なく適用される、または積極的に適用すべきケースについて考察します。

処理責任は個々の事業者にあり、産業廃棄物の処理に係る委託契約は、事業者の名義において別途行わなければならない

この通知で言うところの「事業者」とは、「個々のテナント入居者」を指します。

通常の賃貸借契約においては、共用部分に設置したゴミ箱や廃棄物保管場所に捨てることが可能な廃棄物については、「共益費」や「管理費」の中から処理費が賄われ、それを捨てた人や企業に個別の廃棄物処理費を求めないことが通例となっています。

現実的には、このような形で排出される廃棄物の方が多いと想像できますが、先の通知は、その現実ではなく、「個々のテナント入居者が処理費を負担すべき」状況を念頭に置いたもののように見えます。

通知を適用すべきかどうかの条件としては、
「各テナントが廃棄物処理費の負担をしているか」
が非常に重要な視点と思います。

色々な状況が考えられますが、
「試薬等の廃液」といった、一般的な産業廃棄物処理業者では処理できない特殊な産業廃棄物を処理委託する例が想定されます。

このようなケースでは、テナントビルの共用部分に廃棄物を放置(保管とも言えますが)すること自体が不適切ですので、環境省の通知どおりに、各排出事業者(テナント)が産業廃棄物処理業者と契約を結ぶ必要があります。

廃液以外でも、機械等の大型の重量物についても、「共益費」でコストを賄いきれない場合は、やはり各テナントが直接処理業者に発注をすべきでしょう。

なお、特別管理産業廃棄物の場合は、処理委託の際に、「特別管理産業廃棄物の種類と数量」その他を書面で情報提供する必要がありますので、ビル管理会社にマニフェストの交付や、特別管理産業廃棄物の引渡し事務を委任することは不適切と言えます。

厳密には、通知に関係した環境省の公式見解

契約締結に関し、委任状を交付し委任するのであれば、各テナント会社はその排出事業者責任までをも転嫁しうるものではないが、ビル維持管理会社等が一括して委託契約を締結することは可能である。

は、特別管理産業廃棄物を委託する場合には不適切となります。

その理由は、ビル管理会社に特別管理産業廃棄物の性状その他を保証させることは難しいからです。

このように考えると、通知が問題なく適用されるケースは、
・特別管理産業廃棄物ではない産業廃棄物であり、
・「共益費」で処理コストを賄うことが不公平と思われる物
に限定されそうです。

しかしながら、そうなると、「委任状を交付すれば一括契約可能」という環境省見解は逆に不適切となります(苦笑)。

今回の考察で分かったことは

ひょっとすると
「『通知』と『環境省見解』は両立しないのではないか?」
ということです。

私が難しく考えすぎなだけでしょうか?

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