許可取消は処理困難通知の対象か否か(その2)
「許可取消は処理困難通知の対象か否か(その1)」の続きとなります。
前回は、措置命令や改善命令に違反した場合は、法第14条の3の2に基づく許可取消の対象となることを解説しました。
今回は、いよいよ本題の、許可取消が処理困難通知の対象となるか否かについてです。
法第14条第13項では、処理困難通知を出す対象を次のように規定しています。
産業廃棄物収集運搬業者及び産業廃棄物処分業者は、現に委託を受けている産業廃棄物の収集、運搬又は処分を適正に行うことが困難となり、又は困難となるおそれがある事由として環境省令で定める事由が生じたときは、環境省令で定めるところにより、遅滞なく、その旨を当該委託をした者に書面により通知しなければならない。
「環境省令で定めるところ」とは、施行規則第10条の6の2となり、下記の8個の事由が限定列挙されています。
法第14条第13項 の環境省令で定める事由は、次のとおりとする。
一 事業の用に供する産業廃棄物の処理施設において破損その他の事故が発生し、当該処理施設を使用することができないことにより、当該処理施設において保管する産業廃棄物の数量が処分等のための保管上限に達したこと。
二 産業廃棄物の収集若しくは運搬又は処分の事業の全部又は一部を廃止したことにより、現に委託を受けている産業廃棄物の収集若しくは運搬又は処分がその事業の範囲に含まれないこととなつたこと。
三 事業の用に供する産業廃棄物処理施設を廃止し、又は休止したことにより、現に委託を受けている産業廃棄物の処分を行うことができなくなつたこと。
四 事業の用に供する産業廃棄物処理施設である産業廃棄物の最終処分場に係る埋立処分が終了したことにより、現に委託を受けている産業廃棄物の埋立処分を行うことができなくなつたこと。
五 法第十四条第五項第二号イ(法第七条第五項第四号 トに係るものを除く。)又は第十四条第五項第二号ハからホまで(法第七条第五項第四号 ト又は第十四条第五項第二号 ロに係るものを除く。)に該当するに至つたこと。
六 法第十四条の三 の規定による命令を受けたこと。
七 産業廃棄物処理施設を設置している場合において、法第十五条の三 の規定による許可の取消しを受けたこと。
八 産業廃棄物処理施設を設置している場合において、法第十五条の二の七 、第十九条の三又は第十九条の五第一項の規定による命令を受け、当該処理施設を使用することができないことにより、当該処理施設において保管する産業廃棄物の数量が処分等のための保管上限に達したこと。
結論を先に書くと、「許可取消」は、上記の第五号に該当する処理困難通知の対象と定められています。
正確には、「許可取消」ではなく、「欠格要件に該当するに至ったとき」が処理困難通知の対象になりますが、措置命令や改善命令違反に基づき許可を取消された場合は、「欠格要件に該当するに至った」ことになりますので、結論は同じとなります。
それでは念のために、「五 法第十四条第五項第二号イ(法第七条第五項第四号トに係るものを除く。)又は第十四条第五項第二号ハからホまで(法第七条第五項第四号ト又は第十四条第五項第二号ロに係るものを除く。)に該当するに至つたこと。」を見ておきましょう。
このうち、後段の「又は第十四条第五項第二号ハからホまで(法第七条第五項第四号ト又は第十四条第五項第二号ロに係るものを除く。)」は、法人の役員や政令使用人その他に関する欠格要件で、内容的には前段の部分とほぼ同一ですので、前段の「五 法第十四条第五項第二号イ(法第七条第五項第四号トに係るものを除く。)」を見ておけば十分です。
「(法第七条第五項第四号トに係るものを除く。)」とあるので、ここを先に見ておきます。
法第七条第五項第四号トは、
その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者
とあるので、「おそれ条項」のことであることがわかります。
「(法第七条第五項第四号トに係るものを除く。)」とは、「(おそれ条項の適用による許可取消を除く)」という意味になります。
次に、残りの「法第十四条第五項第二号イ」は、
(法)第七条第五項第四号イからトまでのいずれかに該当する者
と書かれていますので、今度は「(法)第七条第五項第四号イからト」を見なければなりません。(^^;)
イからトということは、イ・ロ・ハ・ニ・ホ・ヘ・トと、条件が7個もありますので、全文を抜粋すると逆に意味がわかりにくくなりますので、「許可取消」に関係する部分である「二」の部分のみを抜粋します。
ニ 第七条の四第一項(第四号に係る部分を除く。)若しくは第二項若しくは第十四条の三の二第一項(第四号に係る部分を除く。)若しくは第二項(これらの規定を第十四条の六において読み替えて準用する場合を含む。)又は浄化槽法第四十一条第二項の規定により許可を取り消され、その取消しの日から五年を経過しない者(当該許可を取り消された者が法人である場合(第七条の四第一項第三号又は第十四条の三の二第一項第三号(第十四条の六において準用する場合を含む。)に該当することにより許可が取り消された場合を除く。)においては、当該取消しの処分に係る行政手続法 (平成五年法律第八十八号)第十五条 の規定による通知があつた日前六十日以内に当該法人の役員(業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者をいい、相談役、顧問その他いかなる名称を有する者であるかを問わず、法人に対し業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者と同等以上の支配力を有するものと認められる者を含む。以下この号、第八条の五第六項及び第十四条第五項第二号ニにおいて同じ。)であつた者で当該取消しの日から五年を経過しないものを含む。)
長文なので、上記の赤字の部分のみを抜粋するとこうなります。
ニ 第十四条の三の二第一項(第四号に係る部分を除く。)の規定により許可を取り消され、その取消しの日から五年を経過しない者
ここでようやく、冒頭で紹介した「法第14条の3の2(第1項第五号)に基づく許可取消」の登場となります。
条文があちらこちらに飛び、さらに複雑な入れ子状態になっているため、条文を読むだけでは理解できない迷文となっていますが、丹念にそれを紐解くと、「措置命令や改善命令違反で許可を取消されると欠格要件になるので、その時点から処理困難通知を送る義務が発生する」ということになります。
つまり、暴力団やおそれ条項を適用されたわけではない許可取消は、最初(平成22年)から処理困難通知の対象なのです。
愛知県と環境省と廃棄物処理制度専門委員の全員が条文を確認するのを怠ったのでしょうか?
いみじくも、2010年改正に関する平成23年2月4日付環廃対発第110204005号、環廃産発第110204002号通知において、環境省(廃棄物対策課長・産業廃棄物課長の連名)は、
(5)産業廃棄物処理業者等が欠格要件(その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当な理由がある者、暴力団員等及び暴力団員等がその事業活動を支配する者を除く。)に該当するに至ったこと。
(※筆者注 2017年2月27日現在、通知の原文では、「暴力団員等」が「暴力団咽頭」となっているので、勝手に修正しました。笑)
と解説していますので、少なくとも、平成22年度の環境省職員は、欠格要件の詳細に関する正確な理解をしていたものと思われます。
しかるに、改正法施行後5年を経過した現在においては、愛知県も環境省もエライ法学者さんも、全員条文を参照する習慣を止めたようです(汗)。
某紙の報道によると、環境省は国会に法改正案を近々上程するとのことですが、内閣法制局も条文を参照しなくなったのでしょうか?
役人が役人本来の仕事をしなくなったのであれば、これは非常に由々しき問題です。
些末な話であれば良かったのですが、欠格要件は法学的にもそして実務的にも非常に重要なポイントです。
誰もこの問題を指摘しなかったので、このような主張をすることにはかなりの勇気が必要でしたが、「条文だけが唯一無二の存在」ですので、勇気を振り絞って記事にしてみました(笑)。
「入れ子状態の難解な条文を簡略化して表現するための法改正」であるならば、大賛成ですが。
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2017年2月27日 | コメント/トラックバック(2) | トラックバックURL |
カテゴリー:2017年
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コメント
いつも非常に難解な廃棄物処理法を分かりやすく解説してくださり、参考にさせていただいています。
今回の記事ですが、全くその通りと思いますが、処理困難通知の義務があるのが、処理業者であるがために、取り消された途端に義務を負わなくなるという、現行法の不備のように思うのですが、いかがでしょう?
だとすれば、通知の対象にしておきながら、その瞬間に、義務を負わなくなるという不具合はただちに、こっそりと改正するべきだと思います。
アスベスト様 コメントいただき、ありがとうございました。
大いに腑に落ちるコメントでした。
個人的には、排出事業者に処理困難の事実を通知するだけですので、処理困難通知を出す段階では産業廃棄物処理業者である必要はないと考えております。
しかしながら、罪刑法定主義の原則から、法改正によってさらに定義を明確化することにも賛成です。
「産業廃棄物処理業者であった者を含む」等の付け足しになりましょうか。
ただ、そもそも、愛知県が屁理屈を持ち出さずに、迅速に許可取消をしておくべきだったと思います(苦笑)。
貴重なご指摘をいただいたお陰で、制度理解が更に深まりました。
どうもありがとうございました。