「産業廃棄物処理業実態調査」からわかる同業界の実態

3月25日付で、環境省から「産業廃棄物処理業実態調査結果」が発表されました。同調査は、無作為に選ばれた処理業者にアンケートを送り、それに対する回答を集計したものです。

同調査の発表内容によると、

・日本全体の産業廃棄物処理市場としては、約5兆円規模
・産業廃棄物処理業以外を含めた総事業売上 1事業者平均 約11億9千万円
・産業廃棄物処理業のみの売上 1事業者平均 約 1億3千万円
・産業廃棄物処理業を専業としている割合 9.5%
・従業員数(総事業) 1事業者平均 43.9人
・従業員数(産業廃棄物処理業のみ) 10人

非常に簡易なアンケートであるため、「売上高」と「従業員人数」くらいしか見るところがありませんが、運送業などの類似異業種が公表している統計と見比べると、面白い傾向が読み取れます。(運送業のデータは、「平成22年度版トラック輸送産業の現状と課題」から抜粋)

売上高(一社あたりの平均)の比較

産業廃棄物処理業 一般貨物運送業

産業廃棄物処理業の方が他の事業との兼業が多いためか、運送業と比べると、企業自体の売上高は10億円を超えていますが、産業廃棄物処理事業単体で見ると、産業廃棄物処理業全体の平均でも1億3千万円、収集運搬専業だと約2千万円ほどの規模しかありません。
収集運搬専業の場合、零細企業が大部分の割合を占めることがわかります。

同調査では、産業廃棄物処理企業の営業損益などは調査されていませんので、上記の売上高に基づいた利益が計上できているのかどうかは不明です。

単純に比較はできませんが、一般貨物運送事業の営業利益の推移と比較すると、産業廃棄物処理企業の多くも利益を捻出するのに苦労していると考えられます。(運送業の場合、平成21年度は平均で87万円の営業損失、赤字企業の割合は39%に上ります。ただし、保有車両10台以下の零細企業の場合は、50%が赤字)

売上高の分布比率(平成22年度)

売上高が0円と答えた業者が26%もありました。
500万円以下の業者15%と合わせると、4割程度の処理業者は許可を持っているだけの“ペーパー処理業者“とでも言うべき状態です。

実務家の実感からすると、「産業廃棄物処理事業単独で年商10億円」というのが、この業界で影響力を持つ上での一つの目安と言えます。
年商10億円を維持できるということは、組織体制がしっかりしている証拠であるとも言えるからです。

瞬間風速的に年商10億円を突破できたとしても、組織内部のほころびや、遵法性を度外視して売上を追求した結果、大きく失速する廃棄物処理企業を多々あります。

年商10億円以下の処理企業は、まずは10億円突破を目標に頑張ってみてください。
それが達成できれば、一気に廃棄物処理業界のトップ3%に躍り出ます。

なお、年商10億円という目安は全国平均値であるため、地域の経済状況によっては、年商8億円が全国平均の10億円に相当する場合があります。
具体的に言うと、北海道地域の売上高平均は全国平均の約7割強となっていますので、北海道で年商8億を上げている企業の場合、他の地域での年商10億円に匹敵する数値とお考えください。

年商10億円を突破し、地域でのNo.1を目指すのであれば、年商50億円が次の目標となります。
このレベルになると、一つの事業所だけでは達成不可能な数字になりますので、複数の拠点で事業を行うことになります。
そのためには、組織化ができていないといけませんし、末端の従業員に至るまでの教育機会の確保と情報共有の徹底も不可欠です。

産業廃棄物処理事業に関する従業者数の分布


このグラフは、会社全体の従業者数ではなく、産業廃棄物処理事業に限定した従業者数の分布です。

従業者数9人以下の業者が全体の4分の3程度を占めています。
売上高とも連動しますが、トップ3%企業になるためには、50人以上の従業者を確保し、教育をしなければいけないという結果になっています。

仮に従業者50人で年商10億円を目指すとすると、従業者1人につき年間2,000万円の売上高が必要となります。
産業廃棄物処理業界で1人2,000万円というのは非常に高い生産性ですので、このレベルに達するには相当な企業努力が必要ですが、実際には従業者を60人以上にしないと、年商10億円の突破は難しいと思います。

結論

小規模零細企業が散在しているという調査結果から判断すると、産業廃棄物処理業界はまだ成熟期に至っておらず、これから、(あるいはつい最近)成熟期に入るものと考えられる。
成熟期に入ると、市場の縮小に対応するため企業間の集約が進む。その結果、地域の有力企業数社に需要が集中するというのが経済原則。
鉄鋼業然り、運送業然り。

成熟期への移行を前に、どのような状況を目指すべきかという答えについては、上述した「年商10億円」が一つの目安になるだろうと思います。

他力本願ではなく、いますぐ地域での一定の影響力確保を目指さないと、年々会社の体力は弱まるばかりです。

少なくとも、「産業廃棄物処理業実態調査」で、業界からの要望事項として挙げられているような

・産業廃棄物処理業への国民の理解の促進 39.8%
・リサイクル製品イメージアップにつながる情報発信 28.0%
・産業廃棄物処理業イメージアップにつながる情報発信 23.4%
・排出者事業者とのビジネスマッチングの場の提供 16.5%
(複数回答可)

生ぬるいことを言っている場合ではない、ということはご理解いただけると思います。

「ビジネスマッチングの場の提供」を本気で国に望んでいる経営者や会社は、かなり深刻な状態であると思います。(^_^;)

今必要なのは、業者が横並びするお見合いの機会を作ってもらうことではなく、「競合と比較される前に顧客の信頼を勝ち得るかどうか」に尽きます。

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