埼玉県が出した業許可を環境省が取消し

法律の規定にはありますが、実際に環境省が自治体の許可の有効性を否定し、許可取消の裁決をしたというのも初めての出来事なのではないでしょうか。

NHKニュース 埼玉県の産廃許可 国が取り消す

埼玉県が本庄市の産業廃棄物処理業者に出した事業許可が、地域の住民の異議申し立てを受けた国から、処理施設を設置するという基準を満たしていないとして、取り消されていたことが分かりました。

埼玉県は、本庄市の産業廃棄物処理業者から出された汚泥などの産業廃棄物の処理業の申請を受けて、去年3月、業者が提出した事前の計画書に基づいて事業許可を出しました。

県によりますと、許可を出した時点で処理施設が設置されていなかったため、地域の住民らが環境省に対して異議申し立てを行いました。

環境省は、脱臭などを行う処理施設がないことは、法律に定められた基準を満たしていないとして、今月、県の出した事業許可を取り消す裁決を行ったということです。埼玉県は業者に対し、処理施設の建設を進めたうえで、改めて申請を行うよう求めることにしています。

埼玉県産業廃棄物指導課の葛西聡課長は「処理施設ができていなくても、事前の計画書の内容が基準を満たしていれば許可していいと解釈していた。

今回の裁決を踏まえ、今後は改めたい」と話しています。

処理施設が存在しないのに埼玉県は業許可を出していたという点が衝撃的でした。

廃棄物処理法の概念からすると、施設を有さない事業者に廃棄物処分業の許可を出すことは通常あり得ません。

産業廃棄物処理施設を設置する前の「設置許可」の場合は、文字通り「設置するための許可」ですので、施設が存在しない状態で許可が出されますが、まさかそれと混同していたとも思えません。

許可基準に関する法律的な下記のとおりです。

廃棄物処理法第14条

10  都道府県知事は、第六項の許可の申請が次の各号に適合していると認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない。

一  その事業の用に供する施設及び申請者の能力がその事業を的確に、かつ、継続して行うに足りるものとして環境省令で定める基準に適合するものであること。

廃棄物処理法施行規則

第十条の五 法第十四条第十項第一号 (法第十四条の二第二項 において準用する場合を含む。)の規定による環境省令で定める基準は、次のとおりとする。

一  処分(埋立処分及び海洋投入処分を除く。以下この号において同じ。)を業として行う場合
イ 施設に係る基準
(1) 汚泥(特別管理産業廃棄物であるものを除く。)の処分を業として行う場合には、当該汚泥の処分に適する脱水施設、乾燥施設、焼却施設その他の処理施設を有すること。
(2) 廃油(特別管理産業廃棄物であるものを除く。)の処分を業として行う場合には、当該廃油の処分に適する油水分離施設、焼却施設その他の処理施設を有すること。
(3) 廃酸又は廃アルカリ(特別管理産業廃棄物であるものを除く。)の処分を業として行う場合には、当該廃酸又は廃アルカリの処分に適する中和施設その他の処理施設を有すること。
(4) 廃プラスチック類(特別管理産業廃棄物であるものを除く。)の処分を業として行う場合には、当該廃プラスチック類の処分に適する破砕施設、切断施設、溶融施設、焼却施設その他の処理施設を有すること。
(5) ゴムくずの処分を業として行う場合には、当該ゴムくずの処分に適する破砕施設、切断施設、焼却施設その他の処理施設を有すること。
(6) その他の産業廃棄物の処分を業として行う場合には、その処分を業として行おうとする産業廃棄物の種類に応じ、当該産業廃棄物の処分に適する処理施設を有すること。
(7) 保管施設を有する場合には、産業廃棄物が飛散し、流出し、及び地下に浸透し、並びに悪臭が発散しないように必要な措置を講じた保管施設であること。
二  申請者が第五項第二号イからヘまでのいずれにも該当しないこと。

上記の(6)に、「当該産業廃棄物の処分に適する処理施設を有すること」と書かれている以上、
業許可を出す前に、申請者の事業場を検査して、申請内容どおりの施設があるかどうかを確認するのが、行政の常識です。

記事でコメントしている埼玉県産業廃棄物指導課長の方は、行政官の中でも全国的に有名な方ですので、このような杜撰な違法審査をしていたことに驚きました。

事業者の立場からすると、施設がないのに業許可を出してくれる自治体は有難い存在ですが、
事業地近隣の方からすると、本来は許可されるはずのない申請に対し、中間処理業の許可が出されたことは大変大きな驚きであったと思います。

別の報道(東京新聞)では、

同課は「許可が出る前に建設されれば周辺住民は不安がるし、業者にとっても完成後に許可が出ないリスクを避けられる、と考えていた」としている。

というコメントが掲載されています。

埼玉県が事実このように言っていたのかどうかは定かではありませんが(記者の主観でコメントのニュアンスが変わる場合が多々ある)、本当にこのように言っていたのであれば、行政として相当末期的な状況にあると言えます。

このように法律無視の手続きを進めることが行政の役割なのではなく、
法律に則った施設を設置させ、許可後も処理業者の操業をしっかり監督することこそが行政の本分です。

埼玉県には5年前に収集運搬業の許可申請しかしたことがありませんが、
当時から些末な書類審査には異常に熱心な割に、本質的な問題をそれほど重視していないという印象を持っておりました。

環境省に許可取消の裁決をされるということは、自治体にとっては非常に恥ずかしいことですので、埼玉県以外の自治体においても、一度自らを省みて、違法な審査をしていないかをチェックしていただきたいものです。

同意書取得の強制とか、届出の受領拒否などがゴロゴロ出てきそうですが(苦笑)。

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