私有地での不法投棄物の撤去は誰の責任か

表題の命題に関して、興味深い事件が報道されていました。

2014.6.3 02:10 産経ニュース 横浜・泉区不法投棄産廃の山 業者破産、処理に難題

 横浜市泉区の資材置き場に野積みされた大量の産業廃棄物の処理をめぐり、同置き場の貸主である不動産業者と横浜市との間の意見対立が表面化している。無断で野積みしていた産廃業者が破産し、処理の代執行を求める不動産業者に対し、横浜市は「周辺環境に影響はない」と訴えを拒否しているためだ。近年、原状回復費用がなくても破産が決定される傾向が強まっており、「同様の事態が相次ぎかねない」との懸念の声も出ている。

破産手続きが簡素化されたために、不法投棄が増加するというのは論理の飛躍です。

破産することを最終ゴールとして、不法投棄が実行されるわけではないからです。

経営状況の悪化⇒不法投棄⇒回復不可能なレベルに経営状況が悪化⇒破産 という流れをたどります。

 約600平方メートルの資材置き場は、約2メートルほどの高さにまで野積みされた産業廃棄物で埋め尽くされていた。周辺には畑やスクラップ工場が点在し、東海道新幹線の高架にも近い。周辺のスクラップ工場の関係者は「あれだけ大量に野積みされたら、手の施しようがない」と指摘するように、産業廃棄物の不法投棄としては市内最大規模だ。

まず、600平方m×2m=1,200立法mという量の不法投棄が、横浜市最大の不法投棄という表現が誤りです。

産廃特措法の対象事案となった戸塚事案では、91万立法mの不法投棄量が認定されていますので、この程度の量で大騒ぎをする必要はありません。

平成24年7月4日付 横浜市発表 産業廃棄物排出事業者に対して改善命令を出しました。 によると、

「産業廃棄物保管場所(横浜市泉区和泉町7612番11)において保管する産業廃棄物を全量撤去することを命ずる。」とありますので、場所を検索してみると


地図の中心部の北部に、がれき類などが大量に放置されているようです。

画像撮影が数年前と思われますので、廃棄物はほとんど写っていません。

唯一の懸念は、新幹線の高架に近接していることですが、

2010年9月に撮影されたGoogleストリートビューでは
yokohama

現場と新幹線線路の間には高いフェンスのようなものがあり、新聞報道にある2mという高さであれば、フェンスを越えて廃棄物が新幹線線路に流出する恐れは少なそうです。

 この資材置き場は平成22年9月から、同市緑区の産廃業者に対し、瀬谷区の不動産業者が貸し出していた。その後、産廃業者が当初の用途目的と違う形で産廃の野積みを続けていった。気付いた不動産業者は産廃業者に改善を持ちかけ、24年7月には横浜市も産廃業者に対して改善命令を出したものの、昨年4月に横浜地裁が破産開始を決定し、産廃業者は破産した。

 今回のケースでは、不動産業者が5200万円に及ぶ処理費用を立て替えざるを得ないが、負担が大きすぎるため、横浜市に代執行を求めていた。しかし、市が代執行を拒否したため、現在も放置されたままとなっている。

 横浜市は拒否理由について「野積みされた産廃にネットがかぶせられるなど、対策が施してある上、周辺に住宅がないなど生活環境に悪影響を及ぼすことはない」と指摘。不動産業者側は「新幹線の高架にも近く、飛散した場合は事故にもつながりかねない」と主張しており、議論は平行線をたどっている。

産経ニュースでは行為者を「産廃処理業者」と表現していますが、横浜市の発表内容にあるとおり、行為者は「排出事業者」です。

行為者は解体工事を施工する業者でしたので、産業廃棄物収集運搬業の許可を所持していたかもしれませんが、収集運搬業者として廃棄物を放置したわけではなく、排出事業者として施工した工事から発生させた廃棄物を放置していた以上、「排出事業者」と表現するのが適切と考えます。

土地所有者の責任

土地所有者は、土地を清潔に保つ義務を負っています(廃棄物処理法第5条)。

土地所有者は所有地を好きなように管理をする自由を有していますが、その過程で他人に違法に迷惑をかけた場合には、与えた損害を賠償する責任があります。

今回の不法投棄現場の土地所有者である不動産業者は、自ら不法投棄を行ったり示唆をしたわけではありませんが、借主が不法投棄をしたという結果を貸主として背負う必要があります。

土地の賃料は貰いながら、不法投棄に関しては被害者であると主張をし、廃棄物の撤去を行政に、そして公金でやらせようというのは虫が良すぎると言わざるを得ません。

不動産業者であるならば、土地を賃貸借契約する際に、借主に契約違反行為があれば契約を即時解除できるという条項を設けていたはずです。
そのため、本来なら、不法投棄を認識した段階で契約解除をしていれば、不適正処理をもっと早期に封じ込めることができたと考えられます。

そのため、横浜市が行政代執行を拒否したことは、至極まっとうな対応であると考えます。

そもそも、行政代執行を行うためには、生活環境保全上の支障がある、または支障が生ずる恐れがあるという要件が必要ですので、Googleストリートビューを見る限りにおいては、この事案では両方の要件を満たしていないと思われます。

産経新聞がどのような意図を持って事件を取り上げたのかはわかりませんが、もう少し不法投棄の現状や、一般的な解決手段について取材をしてから記事にしていただきたかったと思います。

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