嘘つきは公害の始まり

大企業の三菱マテリアルが閉山した鉱山を管理するグループ会社が水量データを改ざんし、酸性度の高い排水を無処理で垂れ流していた事実が発覚しました。

昨今の廃棄物処理法改正の議題として、「企業の性善説」を大前提とした排出事業者責任の大幅な緩和が(水面下で)俎上に上がりつつありますが、「効率」ばかりを重視した緩和では取り返しのつかない公害問題が発生しかねないことを示す、重要な実例となります。

2015年4月1日付 経済産業省発表 エコマネジメント株式会社による鉱山保安法違反等及び補助金の不正受給に対する措置

関東東北産業保安監督部東北支部(以下「東北支部」)から補助金の交付を受けたエコマネジメント株式会社の尾去沢鉱山(秋田県鹿角市)において、鉱山保安法違反及び虚偽報告による補助金の不正受給の事実が認められたため、鉱山保安法及び金属鉱業等鉱害対策特別措置法に基づき、再発防止対策について報告を求めるとともに、鉱害防止に万全を期すよう厳重注意を行いました。
また、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(以下「補助金適正化法」)に基づき、交付決定の一部取消し及び補助金返還請求を行うとともに、一定期間の補助金交付等停止措置を講じました。

1.経 緯
東北支部は、昨年9月24日、エコマネジメント株式会社(本社:東京都)から、同社尾去沢鉱山(秋田県鹿角市)の小真木坑廃水処理所において、平成17年4月から平成25年7月までの間、融雪や大雨による増水時期に、鉱山保安法に基づく鉱害防止のための排水基準に適合しない酸性度の高い廃水を無処理のまま公共用水域に排出し、更に水量データを設備能力以内に書き換えていたとの報告を受けました。

2.調査結果
東北支部による鉱山保安法に基づく司法捜査及び補助金適正化法に基づく立入検査の結果、同社従業者の供述や日誌等から、同社からの報告が事実であることを確認しました。
なお、同社は既に同処理所の設備能力を増強し、排水基準に適合する廃水の処理を実施しております。
また、米代川下流域において、鉱害は発生しておりません。

3.措置
(1)エコマネジメント株式会社に対する措置
上記の調査結果を踏まえ、同社に対し、本日付けで次の措置を実施しました。

    東北支部は、鉱山保安法及び金属鉱業等鉱害対策特別措置法に基づき、違反を引き起こした原因を検証し、その結果及び今後の再発防止対策を、4 月30 日までに報告するよう求めました。
    東北支部は、鉱山保安法令等を遵守し、更に万全の対策を講じることにより、今後再びかかることのないよう厳重注意しました。
    東北支部は、補助金適正化法に基づき、補助金の交付決定を一部取消すとともに、補助金の返還を命令しました(20,126 千円)。

また、経済産業省は、本日から18 ヶ月の補助金交付等停止措置を行いました。

なお、同日、同社より、平成20 年度全国鉱山保安表彰(大臣表彰)及び平成23 年度東北地方鉱山保安表彰(東北支部長表彰)の返納の申し出があり、受理しました。

(2)今後の取り組み
当省は、今回の不正事案について、他の事業者に対し周知徹底し、法令遵守に一層取り組むよう促すとともに、他の事業者に係る鉱山において同様の不正がないかを確認し、必要に応じ、増水時に抜き打ち検査を実施するなど、今後の再発防止に向けた対策を進めてまいります。

事件の概要は上記のとおりですが、
不祥事が起こった経緯をより具体的に報じている新聞がありましたので、そちらの記事も一部転載しておきます。

2015年4月3日付 秋田魁新報 管理会社元社長、データ改ざん黙認 旧尾去沢鉱山廃水問題

鉱山を管理するエコマネジメント(東京)の元社長兼所長が、処理設備の増強による多額の設備投資を避けるため、無処理廃水の排出と水量データの改ざんを黙認していたことが2日、分かった。

(略)

元社長は04年度以降、尾去沢事業所の責任者などとして勤務。09年度から12年6月までは社長兼所長を務めた。廃水を無処理のまま排出してきたことについて、排出が始まってから数年後の09〜10年ごろに従業員から報告を受けたが、改善策を指示しなかった。監督部の調べに対し、元社長は「(処理能力の不足が明らかになれば)設備の増強が求められる。そんな資金は掛けられなかった」などとデータ改ざんの理由を説明していたという。

「コスト対策上有利だからデータを改ざんした」と言っているようなものですが、最近の環境法令違反でよく見受けられる動機となっています。

技術的にはかつての公害問題はほぼ解決されたと言っても過言ではありませんが、
データを改ざんされたり、あえて無処理で排水を放流されてしまうと、規制の効果がすべて失われてしまいます。

しかしながら、一連の不始末を違法行為を指示した元社長の個人的資質の問題と結論付けてしまうことは大変危険でもあります。

もちろん、経営者の指示が今回の違法行為が起こった主要な原因の一つであるのは間違いなさそうですが、
元社長をそこまで駆り立てた要因を明らかにしない限り、別の企業においても同種の法律違反はすぐに発生しそうです。

その要因としては、外部の人間が思いつくものとしては、
「公害対策コストに対する企業姿勢の変化」、「人事評価制度の問題」、「公害対策技術継承の断絶」等があります。

特に大企業においては、コストを食う管理部門をキャッシュの稼ぎ頭の主力部門とは切り離し、分社化することで、見かけ上の主力部門の利益を増やす手法が好んで取り入れられているところですが、
キャッシュを残すことだけを重視しすぎると、せっかく作り上げたキャッシュや信用を根こそぎ失いかねない不祥事に直面しないとも限りません。

「企業倫理」や「環境対策の意義」を考える上で、非常に重要な教訓となる事件でした。

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