部分最適の末路

部分最適を図ると、当座の問題を解決した気になりますが、実際には解決とはほど遠く、むしろ問題の解決をさらに難しくすることがよくあります。

今回ご紹介するのもその一例です。

2017年2月28日付 中日新聞 「ダイコーの廃棄物撤去完了 費用4000万円請求へ

 廃棄されるはずの冷凍カツが不正に横流しされた事件で、大村秀章知事は二十七日、産業廃棄物処理業、ダイコー(稲沢市)に放置された廃棄物の撤去を完了したと発表した。撤去費用四千万円は三月にダイコー側に請求する。

 高さ三メートルまで積み上がった廃棄物はなくなり、呼吸が苦しいほどの刺激臭は薄れた。作業最終日の二十七日、ダイコーのごみ置き場では、作業員が消石灰をまいていた。

 事件後、廃棄物八千九百立方メートルが放置された。県は昨年六月から撤去を開始し、七千五百四十立方メートル(三千六十三トン)を処分した。残りは缶やビンなどで県は処理しない。

 二十七日の会見で、知事は「撤去費用は、会社にしっかり請求する。ダイコーは倒産状態で、回収は実際には難しいと思うが、弁護士に相談していく」と述べた。

 八カ月に及んだ撤去には、県産業廃棄物協会や県衛生事業協同組合のほか、処理業者などが無償協力した。知事は三月に感謝状を贈る。

「呼吸が苦しいほどの刺激臭」があったのであれば、立派な(?)生活環境保全上の支障と言わざるを得ませんが、愛知県はそのような現場の廃棄物処理に対し、行政代執行ではなく、「事務管理」という奇策で臨みました。

行政代執行でも、事務管理(笑)でも、廃棄物処理費に金が掛かるのは同じですが、事務管理(笑)の場合、
「本当は愛知県の責任じゃないんだけど、第三者(ダイコー)のためにやってあげてるんだからね!」という、愛知県の主体性を若干薄める効果があります。

その一方で、「行政である愛知県が、なぜダイコーのために事務管理をする必要があるのか?」という、そもそも論の責任追及があって然るべきなのですが、メディアの存在意義を忘却した大部分の報道機関の方は、市井の一市民でも考えつく疑問を思いつかなかったようです。

さて、ダイコー事件に関し、多くの心ある方が憤っている点は、「なぜ排出事業者への責任追及が一切無いのか!」ということです。

そうなった原因の一端は、愛知県が措置命令を回避(忌避?)したことにあると言えます。

もし、通常の行政手順に則り、愛知県がダイコーに措置命令を発出していた場合、ダイコーに処理や経費負担能力が無い事実は変わりませんが、事務管理(笑)とは異なり、法第19条の5に基づく措置命令の場合は、委託基準違反をしている排出事業者にも措置命令を発出することが可能でした。

措置命令の前提条件として、当然、排出事業者の委託基準違反の有無を調査することになりますので、排出事業者責任がうやむやのままで終わることもありません。

実際、壱番屋は社員食堂の残飯という「一般廃棄物」を、一般廃棄物処理業の許可を持たない、つまり無許可業者のダイコーに処理委託していたことを自ら認めていたように、産業廃棄物(かどうかは怪しい物が大半でしたが)の委託基準を遵守できていたかは疑問に思います。

もし、愛知県が措置命令を出していれば、委託契約書の不備等の委託基準違反に基づき、排出事業者にも撤去費用の負担を求めることが可能でした。

事務管理(笑)の場合は、愛知県が勝手に事務管理していることになりますので、排出事業者に対して費用請求することができません。

この一点に基づき、住民監査請求が起こされてもおかしくない危ない橋を、わざわざ選んでお渡りになった愛知県知事の勇気(蛮勇?)を賞賛したいと思います。

※念のため補足 事務管理(笑)をしたこと自体には違法性はありませんが、上中下で分けると、下策としか言えないまずいやり方でした。

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