抜かずの宝刀?

記事の見出しだけを見ると、「いつの間に廃棄物処理法の罰則が重く改正されたのか?」と不思議に思いましたが、廃棄物処理法ではなく、国土交通省の「建設業者に対する監督処分基準」が改正されたという意味でした(苦笑)。

2022年5月26日付 建通新聞 「廃棄物処理法違反の厳罰化 改正基準が施行

国土交通省は、廃棄物処理法に違反した建設業者への監督処分基準を一部改正し、厳罰化した。廃棄物混じり土を適正に処理せず、会社役員らが懲役刑に処せられた場合、「15日以上」の営業停止となる。5月26日付で改正基準を施行した。

記事で触れている「監督処分基準」は、下記となります。
建設業者の不正行為等に対する監督処分の基準

一 趣旨
本基準は、建設業者による不正行為等について、国土交通大臣が監督処分を行う場合の統一的な基準を定めることにより、建設業者の行う不正行為等に厳正に対処し、もって建設業に対する国民の信頼確保と不正行為等の未然防止に寄与することを目的とする。

廃棄物処理法違反で、役員が懲役刑または禁錮刑になった場合のペナルティは、次のとおりとされています。

iii 廃棄物処理法違反
役員等又は政令で定める使用人が懲役刑に処せられた場合は15日以上、それ以外の場合で役職員が刑に処せられたときは7日以上の営業停止処分を行うこととする。

基準の改正により業務停止期間を倍以上に延長したことが、今回の報道の要点となるようです。

廃棄物処理法違反で役員が懲役刑になるような建設業者に対するペナルティを重くすること自体は合理的と言えます。

しかしながら、以下の2つの理由により、少なくとも廃棄物処理法違反に関しては、監督基準が実質的には機能していないのではないかと危惧します。

理由1 そもそも、役員の懲役刑は許可取消対象

廃棄物処理法と同様に、建設業法も、禁錮刑以上の刑罰に処された役員がいる法人は、「必ず許可取消の対象」となります(建設業法第29条)。

許可取消の対象となるにもかかわらず、営業停止処分の期間を7日から15日に延長する実質的な意義がよくわかりません。

「欠格要件に該当した以上、いきなり許可取消をすれば良いんじゃね?」と思いましたが、許可取消の前に営業停止をかけて建設業者をいじめるという、行政的な意義がひょっとするとあるのかもしれません。

理由2 廃棄物行政との連携が無い

実際に先ほど検索してみましたが、「役員が廃棄物処理法違反で禁錮刑以上に処された」という理由で国土交通省が建設業者の許可取消をしている事例が見当たりませんでした。

建設業が本業だが、産業廃棄物収集運搬業の許可を取得した法人が、全国各地で廃棄物処理法違反で産業廃棄物処理業の許可を取消されているにもかかわらず、国土交通省の廃棄物処理法違反に基づく許可取消事例があまりにも少ない(と言うよりは見当たらない)のです。

そもそも、国土交通省及び各地方整備局が、毎日「産業廃棄物処理業 許可取消」というキーワードで検索に勤しんでいるはずがありませんし、許可取消を行った都道府県から国土交通省関係にその事実を連絡することもありません。

私が産業廃棄物行政に携わっていた20年前は、都道府県内ならいざ知らず、当道府県の廃棄物部局から個別に国土交通省に行政処分の内容を連絡するルートはありませんでしたし、連絡する必要性すら感じませんでしたので。

現在でもおそらくそれはそのままだろうと思います。

「縦割り行政」と思われたかもしれませんが、連絡先を無制限に広げたところで、関わりが薄い部局にとっては無意味な情報でしかないことが多く、情報の送り手と受け手の双方に負担となるだけです。

私の行政経験上では、都道府県の環境部局と国土交通省が連携するケースは、「河川の増水」「河川の水質事故」等の国民に重大な影響を及ぼす可能性がある事態に限られていました。

余談ですが、週末の夕方に限って、「河川が増水した」とか「油が流出した」という一報が入り、それが「終報」になるまでFAXの番をするために残業となった経験が多々あります。

国土交通省においては、建設業の許可申請時を除くと、建設業者の廃棄物処理法違反の有無を積極的に調査する機会が無いため、新たな処分基準を使う場面はほとんど無さそうです。

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