ナッジの限界と光明

不法投棄抑止の看板に記載する警告文の違いによって、抑止効果に違いが出たという興味深い記事がありました。

2023年1月25日付 日本経済新聞 「ナッジで市民の行動変化 尼崎、ユニーク啓発の効き目

大阪のベッドタウンとして再開発が進む兵庫県尼崎市は長年、幹線道路沿いのゴミの不法投棄に悩んでいた。ペットボトルや空き缶、弁当のプラスチック容器などを放置していくのは主にトラック運転手。何度もマナー向上を訴える看板を設置したものの効果はなかった。そこで2種類の異なる看板を作製して実験を試みた。

ひとつは「不法投棄で逮捕されます」、もう一つは「防犯カメラで特定中」。どちらも従来の看板に比べ刺激的なフレーズだが、明確に異なる効果が表れた。「逮捕」では全く不法投棄が減らなかった一方、「防犯カメラで」の看板周辺はほとんどゴミがなくなった。

まず、ナッジの意味するところを見ておく必要がありますが、

Wikipediaでは、ナッジ(Nudge)を

ナッジ(Nudge, 本来の意味は「(合図のために)肘で小突く」、「そっと突く」)は、行動経済学、政治理論、そして行動科学の一概念であり、これは集団あるいは個人の行動と意思決定に影響を与える途として、陽性強化 (positive reinforcement)と諷喩(indirect suggestion, 他の事にかこつけてそれとなく遠回しにさとすこと)を提案する。ナッジングは、教育、立法、あるいは施行のようなコンプライアンスを達成する他の方法とは対照をなす。

と定義しています。

片仮名表記の外来語なので、今ひとつ腑に落ちないところがありますが、日本語で言うならば「とんち」というところでしょうか?(笑)

「逮捕」の方が、「特定中」よりも「自由を拘束される」イメージがありますが、現代人の多くは、「特定中」の方により具体的な脅威を感じるようです。

最近の、事件とは無関係の人を加害者と誤解し、執拗に誹謗中傷する人が増えたことも影響しているのでしょうか?

おそらく、当ブログでも度々取り上げてきた「お地蔵さん」や「鳥居」といったシンボルよりも、「特定中」の方が効果を発揮しそうです。

とはいえ、日本中で「特定中」の看板が乱立する状況を想像してみると、大部分の善良な市民にとっては、四六時中誰かから監視されているようなプレッシャーを与えますので、効果的だからこそ、安易な乱用は避けるべきだと思います。

また、「ほとんどゴミがなくなった」とありますが、逆に言うと、「少量とはいえ、不法投棄はあった」ことになります。

「逮捕」でも「特定中」にも臆することなく、不法投棄を断行する不逞の輩は一定割合存在し続けるわけですので、「防犯カメラで特定中」という看板を使用する場合でも、継続的に不法投棄の有無を監視し、不法投棄を見つけた場合は、迅速に撤去する必要があります。

「ナッジ(nudge)」を活用することの利点は、「表現一つで、行政事務の効率化が図れる」ことにありそうです。

記事タイトルは「啓発」という「上から下への一方的な目線」になっていますが、
「ナッジ」には、行政機構自身の頑なな思考を和らげ、地域住民・事業者にとっても効率的な「全体最適」となる施策の立案にもつながる可能性が感じられます。

「ナッジ」を活用した成功事例の蓄積が進めば、一方通行ではない、全体最適の思考が日本社会全体に広がっていくと思うのですが、いかがでしょうか?

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