ダンマリの失敗

昨年3月に網走湖の近くにあるホテルが、ボイラー燃料の重油を流出させていたことが発覚し、網走市から汚染土壌の全量撤去を求められている事件があるそうです。

2023年2月6日付 NHK 「廃棄物処理法に基づき命令を 重油漏出で網走市議会が意見書

去年、網走湖のそばにあるホテルで大量の重油が漏れ出した問題で、網走市議会は6日、道に対し、廃棄物処理法に基づいて措置命令を出すことなどを求める意見書を提出しました。

意見書ではこれまでの対応の法的根拠になっている水質汚濁防止法だけでなく、漏れ出した重油は産業廃棄物に該当するとして、廃棄物処理法に基づいて対応するよう求めています。
具体的には産業廃棄物の保管基準に違反している場合は道がホテル側に対して改善命令を出せるほか、生活環境に支障が出るおそれがある場合は汚染土壌の除去などを求める措置命令や行政代執行もできるとしています。

網走市役所の広報に掲載された情報によると、
網走観光ホテル重油漏洩事故について(お知らせ)

今回の事故は令和4年3月23日に北見市へ匿名の情報提供があり、それを受けた北見市からの連絡により発覚しました。網走市では同日中にホテルに連絡し、網走消防本部と現地調査を実施し、北海道に連絡しました。
漏洩の原因は屋根からの落雪により屋外にあった重油の配管が破損したとの報告があり、その後の調査により事故は3月6日から7日に発生したと推察されています。

とあります。

「重油の流出」という事故の重大性から鑑みると、事故発生直後に速やかに関係機関に通報・報告することが当然であり、その通報を怠っていたことが、事後の地元関係者とのリスクコミュニケーションが成立しない原因と言わざるを得ません。

「ダンマリを決め込み、事故の隠蔽をするつもりだったのではないか!?」と一度疑われてしまうと、
科学的に正しい解決策をその後に提示したとしても、地元関係者からの信用を得ることは非常に困難となります。

「第一印象は嘘つき」では、初手の段階から失敗していることになるため、汚名を返上するためには多大な労苦と時間を掛ける必要があります。

地域の生活や安全に重大な影響を与える可能性がある事故の場合、それを隠し通すことは、携帯通信機器が流通した現代社会においてはほぼ不可能です。

最初から勝ち目の薄いダンマリを決め込むよりも、正直、かつ迅速に事故の報告を行うことこそが、リスクコミュニケーション上も非常に有効な行動と言えます。

しかしながら、網走市議会が言うところの、「漏れ出した重油は産業廃棄物に該当する」かどうかについては、大きな疑問があります。

廃棄前(?)の重油を大量にタンクで貯蔵していたのであれば、たしかに漏れだした重油は産業廃棄物と言えなくもありません。

しかし、件のホテルにおいては、流出させた重油はボイラー燃料として使用していたものであり、ボイラーへとつなぐ配管から流出しているため、「産業廃棄物」ではなく、「燃料」として使用していたように見えます。

そのため、

(廃棄物処理法に基づき)生活環境に支障が出るおそれがある場合は汚染土壌の除去などを求める措置命令や行政代執行もできる

という網走市議会の意見は、廃棄物処理法的には無理筋な気がします。

地元関係者の現在の声としては、「汚染土壌の全量撤去」が目立つ形となっていますが、
彼らの不安の根源は、
正確な「汚染範囲」と「汚染された土壌の量」、そして「周辺に重油が流出する可能性がわからない」、ことにあるように思います。

事実に基づき、そのような不安を科学的に解消することこそが、行政と専門家に求められる役割なのではないでしょうか。

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