「個人の認識の問題」では済まない

新年早々、今年は能登半島で大地震が発生しました。

私も、2018年の大阪北部地震発生の際にはガスや水道の供給が止まるという体験をしましたので、真冬に被災した方が抱えているであろう不安を考えると、身につまされる思いがいたします。

被災地での人命救助と迅速な復旧が進むことをお祈りしております。

今年は諸行無常を感じる機会が増えそうな予感を持っておりますが、2024年最初にご紹介するニュースもそんな予兆の一つかもしれません。
ただし、報道自体は昨年末のものとなりますが。

2023年12月28日付福井新聞 「福井県大野市職員3人を略式起訴、罰金命令…業務中に出た刈草300kgを荒島岳に不法投棄

 福井県大野市建設整備課の男性職員3人が、市の業務で出た刈草を市内の山中に不法投棄した事件で、大野区検は12月27日までに廃棄物処理法違反(不法投棄)の罪で3人を略式起訴し、大野簡裁はそれぞれに罰金20万円の略式命令を出した。略式起訴は5日付、略式命令は19日付。市は27日、3人を減給10分の1(2カ月)の懲戒処分とした。

 3人の起訴内容は、昨年9月1日、市の清掃作業で出た刈草など約300キロを同市蕨生の荒島岳の山中に捨てたとされる。職員とともに同法違反の疑いで書類送検された法人としての市については、福井地検が12月5日に不起訴とした。

結果としては、大野市役所は不起訴処分で、実際に不法投棄を実行した3人の職員のみが罰金刑の対象となりました。

当ブログ 2023年2月17日付記事 「がんばれ大野城、もとい大野市」で既に指摘したところですが、捨てた物が「刈草」でしたので、犯罪を行っているという自覚は皆無だったものと思われます。

もちろん、不法投棄は重大な犯罪であるため、犯意が無かったからと言って免責されることはありませんが、公務の一環で生じたゴミの処分が職員の裁量任せになっていたことは、使用者である大野市役所の重大な落ち度と言わざるを得ません。

すなわち、「公務の過程で発生する廃棄物の処分方法を定めていなかったこと」が第一の落ち度です。

刈草は、産業廃棄物ではなく一般廃棄物でしかありませんが、本来なら、地方自治体として一般廃棄物の処分施設を有する大野市役所は、その施設で刈草を容易に処分可能でした。

しかるに、

市の聞き取りに対し、職員3人は「泥のついた刈り草が焼却場で受け入れてもらえず、安易に山に捨ててもいいだろうと考えてしまった」などと話している

※出典 2023年2月16日付 NHK「廃棄物処理法違反の疑い 大野市職員3人を書類送検
とあるように、

本来なら、同じ市役所の関係者同士の話し合いで解決できた問題であったにもかかわらず、「市役所内部で一般廃棄物の処分方法について調整を行わなかったこと」が第二の落ち度となります。

この問題を両方とも解決しないことには、同じような犯罪がいずれ必ず起きることになります。

「服務規律の確保や法令順守の徹底」という、精神論的な対策だけでは不十分だと思われます。

廃棄物の処分方法を個人の良識任せにしないことが肝要です。

大野市には、今回の不祥事を契機として、廃棄物処理に関するルールを明確にし、組織全体でそれを共有する仕組みを作っていただくことを期待しています。

もっとも、上述した二つの落ち度は、渦中の大野市役所のみならず、その他の公的サービスに関わる組織にも共通している傾向だと思います。

「公的サービスに関わる組織」には、「市区町村」のみならず、「公共インフラ(河川・道路・公園等)の管理者」も含まれてきますので、実際には影響がかなり広範囲に及びます。

廃棄物処理法に関する実務では、犯意が無かったとしても、重大な刑罰の対象となる可能性がありますので、今回の報道を他人事ではなく、他山の石として我が身を省みる機会としていただければ幸いです。

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コメント

  1. ぶぶ より:

    いつも楽しく拝見しております。

    記事にあまり関係がない内容ですが、昨今PFOSという言葉をよく聞き、最近も以下のようなニュースがあったので気になり、コメントしました。

    駐車場で消火設備起動 PFOS含む泡消火剤が川に流出 東京 町田

    清掃作業をしたところ、排水溝から泡消火剤が流出し、近くを流れる境川に流れ出たとありますが、回収すべきものではないのでしょうか?

    みだりな行為ではないので、不法投棄とはならないのかもしれませんが、投棄は禁止という原則には抵触する気もします。

    先生のお考えを教えていただけたらと有り難いです

  2. 尾上雅典 より:

    コメントいただき、ありがとうございました。

    事故で消化剤が流出したのであれば、不法投棄に該当しないと思われます。

    川に流出した泡消化剤の場合、重油等とは異なり、物理的に回収するのは困難な気がしますので、近隣にお住まいの方にとっては非常に困る事故ですね。


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