火が付くまで対応できないという人の性(さが)

2024年1月19日付 産廃処分めぐる行政代執行、求償未済額75.8億円 三重県

 産業廃棄物の不法投棄や不適切処理に対処するため、三重県が業者に代わって行った行政代執行について、業者に復旧費用の返還を命じる求償の未済額が昨年度末で、6事案で計75億8千万円にのぼることが県の債権処理計画からわかった。しかし業者の資力不足でほとんど回収できないのが現状で、今年度の回収目標額はわずか100万円程度にとどまる。

「産廃特措法」に基づく不適正処理事案の原状回復は、行政が原因者の代わりに行政代執行を行うことになりますが、工事費その他の総経費が往々にして天文学的な数字になりがちです。

行政側が回収できていない債権額として、朝日新聞では三重県の事例が掲載されていますが、三重県以外の多くの地方自治体も同様の苦境に陥っています。

しかし、今回の記事では具体的な債権回収努力について触れられていませんが、巨額の未回収債権を抱える各自治体の担当職員の方が、1円でも多く求償しようと日々奮闘していることもまた事実です。

記事の

(三重)県は業者が所有する山林やゴルフ会員権を差し押さえるなどして強制徴収しているが、回収できたのは6400万円程度にとどまる。

という部分に、法的に認められる債権回収(租税徴収)のあらゆる手段を駆使している姿が目に浮かびました。

朝日新聞では、「6400万円にとどまる」と書かれていますが、

6つの不適正処理事案の合計金額とはいえ、これは決して低い回収額ではありません。

「三重県は債権回収を頑張ったのだなあ」としか思いませんでした。

と言いますのも、不適正処理事案実行者の多くは、犯罪収益で悠々自適の生活を送っているわけではなく、現金や預金をほとんど持っていないことがほとんどだからです。

中には、債権回収逃れのためだと思いますが、所有地に抵当権や根抵当権が複数設定されているケースが多々あります。

私、公務員時代から、数多くの不適正処理実行者の末路を見る機会がありましたが、
彼らの末路は、「不適正処理をする前から切羽詰まっていた」か、「不適正処理を続ける過程で切羽詰まった」かの2種類しかありません。

「他人に迷惑をかけてでも、目先の現金が欲しい」という動機で、正規料金の半額以下といった持続不可能な価格設定で不適正処理に励んだ結果、何も得ることなく「ジ・エンド」という末路しかないのです。

不適正処理を実行した人間が一番悪いことは言うまでもありませんが、事態が制御不可能になるまで悪化した局面では、実行者から債権回収することは、物理的な意味において非常に困難となります。

私がエラそうに申し上げるまでもなく、不適正処理事案に対しては早期対応が最善であることは衆目の一致するところだと思います。

しかし、事態が悪化する可能性を予期し、早めに手を打つことに成功した事例は非常に少ないのが現実でありましょう。

事態がのっぴきならない状況になるまで手をこまねき、「これ以上放置することが許されない」状態に至った段階で、初めて収拾に乗り出すことがほとんどではないでしょうか。

もはやこれは人、というよりはホモサピエンスとしての性(さが)ととらえるべき、生物としての本質的な行動パターンに思えます。

最近の日本や世界の社会情勢を見ていると、全地球的にこのホモサピエンスとしての性(≒現実逃避)に陥っている気がします。

お役所の場合、人事評価システムとして、「何を成し遂げたか」よりも「いかに平穏無事に勤め上げたか」の方が重視されますので、積極的な対応をして訴訟や抗議活動を起こされることを嫌う性質があります。

そのため、目の前に転がっている時限爆弾が爆発しないことを必死で祈りながら、次の担当者に問題を引き継ぐ(たらい回し)という反応が取られがちとなります。

お役所のみに関する話ではありませんが、
ホモサピエンスとしては、ここらで一気に発想の転換を試み、「事態悪化の可能性を早期に摘む」という迅速な対応姿勢をより評価すべきではないかと考えています。

残念ながら、人口減少著しい日本では、そのような対応は年々難しくなっていくことは間違いありませんので、我々は自分の周囲で火が燃え上がる瞬間まで、事態が悪化することを傍観するしかないのでしょうか?

話が救いのない方向に行ってしまいましたが、
勝ち目がほぼ無い状況でも、自己の最善を尽くして行政代執行費の回収を図ることは、ささやかな抵抗かもしれませんが、後世に残す負債を減らすという意味で、尊い自己犠牲、あるいは社会貢献だと思いました。

もちろん、仕事の一環として取り組まれているわけではありますが、ほとんどの人がやりたくない仕事であり、誰かがやらねばならない仕事でもあるからです。

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