市町村性善説の持続可能性

町役場が共同で設立した一部事務組合が大量の廃棄物を2年以上にもわたり野ざらしのまま放置し続けるという、前代未聞の不祥事が発覚しました。

2024年11月7日付 NHK 「廃棄物500トン以上を2年あまり放置 道が繰り返し行政指導

ごみの処理などを行っているせたな町と今金町の2つの町でつくる一部事務組合が、2年あまりにわたり、500トン以上の廃棄物を処理せず野積みのまま放置していたとして、道から繰り返し行政指導を受けていたことが分かりました。

NHKの報道映像を見ると、「一部事務組合の廃棄物保管場所」ではなく、「廃棄物の不法投棄現場」にしか見えません(苦笑)。

一部事務組合は、地方自治法によって規定された「特別地方公共団体」ですので、ここまで杜撰な方法で廃棄物を放置すること自体が極めてまれと言わざるを得ません。

処理場で働くすべての人間がゾンビ化し、誰も施設を管理する人間がいなくなったのか!?
はたまた、外国勢力に施設を占拠され、自由に施設を動かせなくなったのか!?
と、最近流行しているドラマや映画のような筋書きを想像してしまいましたが、真相は

関係者によりますとこの組合では、破砕処理施設の機材が故障したのをきっかけに、ごみを処理せず所有する敷地内に野積みのまま放置していたのをおととし行われた道の立ち入り検査で発覚したということです。

と、「破砕機の故障」という、拍子抜けするくらいに単純な理由でした。

気になった部分は、次の

ごみは、大量の家庭ごみのほか、公共工事で出た木くずなども混じり、2年以上放置され、ことし9月の時点で520トンあまりが確認されました。

「2年以上放置され」という部分

北海道から不適正保管を見とがめられたのが2年前で、その後も不適正保管が漫然と続けられていたことになります。

NHKの報道では、

発覚したあと、道は4回にわたり立ち入り検査を行うとともに、「速やかに埋め立て処理するなどの対応をとるべきところ、未処理のごみを長期間保管することは違法にあたる」として、廃棄物処理法に基づき組合に対し繰り返し行政指導を行ったということです。

北海道としても漫然と事態を黙認していたわけではなく、「行政指導」で改善を指導していたようです。

ここで、「一般廃棄物の問題なのに、なぜ北海道が行政指導をする?」と疑問に思った方がいるかもしれません。

その答えは、「一部事務組合が設置した施設は、都道府県知事に届出が必要な一般廃棄物処理施設だから」です。

市町村以外の者が一般廃棄物処理施設を設置する場合は、設置場所を管轄する都道府県知事から設置許可を受ける必要がありますが、市町村の場合は、廃棄物処理法第8条及び第9条の3の規定により、「都道府県知事への届出」だけで設置可能です。

廃棄物処理法第8条第1項(一般廃棄物処理施設の許可)
 一般廃棄物処理施設(ごみ処理施設で政令で定めるもの(以下単に「ごみ処理施設」という。)、し尿処理施設(浄化槽法第2条第一号に規定する浄化槽を除く。以下同じ。)及び一般廃棄物の最終処分場で政令で定めるものをいう。以下同じ。)を設置しようとする者(第6条の2第1項の規定により一般廃棄物を処分するために一般廃棄物処理施設を設置しようとする市町村を除く。)は、当該一般廃棄物処理施設を設置しようとする地を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならない。

廃棄物処理法第9条の3第1項(市町村の設置に係る一般廃棄物処理施設の届出)
 市町村は、第6条の2第1項の規定により一般廃棄物の処分を行うために、一般廃棄物処理施設を設置しようとするときは、環境省令で定めるところにより、第8条第2項各号に掲げる事項を記載した書類及び当該一般廃棄物処理施設を設置することが周辺地域の生活環境に及ぼす影響についての調査の結果を記載した書類を添えて、その旨を都道府県知事に届け出なければならない。

「市町村」や「一部事務組合」が「届出」だけで済む理由としては、

  • 「地方自治体が法律違反となる申請をするはずがない」という、市町村性善説に立つことが現実的
  • 都道府県と市町村は本来上下関係ではなく、対等の存在である(役割が異なる)
  • 市町村の自治事務に関する問題で、都道府県に許認可権を与えることは不適切

といったことから、市町村等による一般廃棄物処理施設の設置に関しては、「許可申請」ではなく、「届出」だけが必要とされています。

「許可(第8条)」と「届出(第9条の3)」でもっとも大きく異なる点は、「都道府県知事が発出する改善命令の対象範囲」です。

「許可」を受けた一般廃棄物処理施設の場合、都道府県知事が廃棄物処理法第9条の2第1項に基づき発出する改善命令の対象範囲は、次のように規定されています。

第9条の2第1項(改善命令等)
 都道府県知事は、次の各号のいずれかに該当するときは、第8条第1項の許可を受けた者に対し、期限を定めて当該一般廃棄物処理施設につき必要な改善を命じ、又は期間を定めて当該一般廃棄物処理施設の使用の停止を命ずることができる。

一 第8条第1項の許可に係る一般廃棄物処理施設の構造又はその維持管理が第8条の2第1項第一号若しくは第8条の3第1項に規定する技術上の基準又は当該許可に係る第8条第2項の申請書に記載した設置に関する計画若しくは維持管理に関する計画(これらの計画について前条第1項の許可を受けたときは、変更後のもの)に適合していないと認めるとき。
二 第8条第1項の許可を受けた者の能力が第8条の2第1項第三号に規定する環境省令で定める基準に適合していないと認めるとき。
三 第8条第1項の許可を受けた者が違反行為をしたとき、又は他人に対して違反行為をすることを要求し、依頼し、若しくは唆し、若しくは他人が違反行為をすることを助けたとき。
四 第8条第1項の許可を受けた者が第八条の二第四項(前条第二項において準用する場合を含む。)の規定により当該許可に付した条件に違反したとき。

「構造基準や維持管理基準等に適合していない場合(第一号)」、「施設設置者の能力基準に適合していない場合(第二号)」、「廃棄物処理法違反をした、またはその教唆や幇助(第三号)」、「許可条件違反(第四号)」と全部で4つのケースが想定されています。

しかし、「届出」をした「市町村」に対しては、廃棄物処理法第9条の3第10項で、

廃棄物処理法第9条の3第10項
 都道府県知事は、第1項の規定による届出に係る一般廃棄物処理施設の構造又は維持管理が第8条の2第1項第一号若しくは第8条の3第1項に規定する技術上の基準又は当該届出に係る第1項に規定する第8条第2項各号に掲げる事項を記載した書類に記載した設置に関する計画若しくは維持管理に関する計画(これらの計画について第8項の規定による届出をしたときは、変更後のもの)に適合しないと認めるときは、その設置者又は管理者に対し、当該一般廃棄物処理施設につき必要な改善を命じ、又は期間を定めて当該一般廃棄物処理施設の使用の停止を命ずることができる。

と規定されているとおり、「構造基準や維持管理基準等に適合していない場合」に限定されています。

一部事務組合が

  • 能力基準を満たさない状況
  • 廃棄物処理法違反をしたり、他者に要求、依頼

するような事態は、法律がそもそも想定していない状況であるため、「届出」の場合は、都道府県知事が関与する範囲がより狭く限定されています。

「破砕機の故障の放置」が、「構造基準」や「維持管理基準」に抵触するかとなると、直接的には抵触してはいませんので、北海道としても、「改善命令」や「施設の使用停止命令」ではなく、「行政指導」で一部事務組合に是正を働きかけるしかなかったものと思われます。

なお、廃棄物処理法第19条の4では、「一般廃棄物処理基準違反に対する措置命令」規定が置かれていますが、第19条の4の措置命令の発出者は、都道府県知事ではなく、「市町村長」になりますので、

今回のケースを例とするならば、いずれかの「町長」から、町役場が共同して設立した一部事務組合に対し「第19条の4に基づく措置命令」を発出すること自体は可能ですが、それは、「自分から自分に」「法律違反を是正せよ」という命令を出すのと同様ですので、「そんな暇があるならば、自分自身ですぐに是正をせよ」というおかしな話にしかなりません。

このように、法律は、「そんな事態は有り得ない」という想定外のケースや、「市町村なら法律どおりに仕事をするだろう」という暗黙の了解が守られない場合には、意外と脆弱な側面があります。

今回の一件は、
「市町村等は絶対に法律違反をしない」という想定が市町村自身によって公然と否定された、最初で最後のものとなるのでしょうか?

それとも、今後も同様の関係者のゾンビ化が疑われる事件がまた起きるのでしょうか?

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コメント

  1. M.O より:

     コラムを読んでいろいろと考えさせられました。
     法の想定外であることもそうですが、粉砕機が故障した時点で民間の産業廃棄物処理業者に選別や破砕などの中間処理を委託し、戻す、または木くずなどはバイオマス発電所(該当があれば、ですが…)に有価で売却することはできなかったのだろうか、などです。
     立地を見ると行政区域の広さに対し、市街地が小さく、一般廃棄物の処理施設の維持も難しい状況があるのかな、とか、中間処理を民間に委託したくてもそうした能力がある事業者が2町や近隣に無いのかな、などと考えました。
     これからの時代、少子化、高齢化に伴い税収が減ることも充分に想定できるため、このような事案が全国各地で起きるのではないかと懸念しました。

  2. 尾上雅典 より:

    M.O様

    コメントいただき、ありがとうございました。

    私も同意見で、残念ながら、今後同様の市町村や一部事務組合による不適正処理事案が起きる気がしています。


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