委託基準違反で担当部長が書類送検される

1年近く前に記者会見が催された山陽特殊製鋼事件。
山陽特殊製鋼の担当部長と、受託者の成臨興業の担当者が書類送検されました。

この事件は、最終処分場の新設に伴い、日本共産党と地元住民との間で激烈な反対運動がおこり、
業者や行政に不信感を持った住民の人が、事業者の成臨興業などを廃棄物処理法違反の容疑で告発し、他の業者や山陽特殊にまで波及したという経緯があります。

1年前の山陽特殊製鋼の記者会見では、「不法投棄」として扱われていましたが、
事件の本質からすると、不法投棄ではなく、「委託基準違反」が正確だろうと思います。
当ブログ 2012年9月6日付記事 不法投棄ではなく委託基準違反?

本来なら安定型最終処分場に埋立て可能な「耐火レンガ」を、金属くずの埋立許可を有さないが、それ以外の安定型品目の埋立許可を有する成臨興業に委託していたことが発覚したものです。

山陽特殊製鋼は、耐火レンガに金属くずが含まれていることを認識していたようですが、それが少量であるため「ガラス陶磁器くず」に包含されると誤解していたそうです。

山陽特殊製鋼の過失としては、不法投棄をしたことではなく、委託先処理業者の選定が不適切(金属くずの許可を有さないという意味で)だっただけです。

これを予備知識として、担当部長が書類送検されたという報道を見ると、メディアの報じ方の拙さや怖さがよくわかります。

まずは、6月28日付毎日新聞から 廃棄物処理法違反容疑:山陽特殊製鋼など書類送検

 金属くずの処理を無許可業者に委託したとして、兵庫県警生活環境課などは28日、同県姫路市の鋼材メーカー「山陽特殊製鋼」(東証1部上場)など2法人と2人を廃棄物処理法(委託基準)違反の疑いで書類送検した。

 他に送検されたのは、同社の40代男性部長や同市の廃棄物処理業「成臨興業」と元現場責任者の40代男性。

 送検容疑は、山陽特殊製鋼は昨年4〜6月、製鉄過程で出る金属くず6.8トンの処理を、無許可の成臨興業に委託したとしている。いずれも容疑を認めているという。

 県警によると、金属くずは、廃棄が許可されていない処理場に捨てられたという。

 山陽特殊製鋼によると、この処分場には1999年以降、金属くず計173トンを投棄していたという。取材に「改善策に取り組み、社会的信頼の回復に努めたい」としている。

事実を誤認していたのか、それとも山陽特殊製鋼を悪者に仕立てようという意図があったのかはわかりませんが、すさまじい誤報のオンパレードです。

まず、成臨興業は無許可ではなく、金属くず以外の安定型品目の埋立許可を有していました。

次に、山陽特殊製鋼は金属くずを投棄していたのではなく、埋立処分の委託をしていただけです。

「廃棄が許可されていない処理場」というのも面白い表現です。
あらゆる最終処分場は、“廃棄”が許可されていないからです(苦笑)。

最終処分場に認められているのは、廃棄ではなく、“埋立処分”です。

このような拙い表現では、山陽特殊製鋼が不法投棄を主導していたかのようにミスリードを与えるだけです。

次は、同じく6月29日付の読売新聞 山陽特殊製鋼部長ら 不法廃棄容疑で書類送検

 処分の許可がない金属くずを大量に廃棄したなどとして、兵庫県警生活環境課と姫路署は28日、東証1部上場の特殊鋼メーカー「山陽特殊製鋼」(兵庫県姫路市)の担当部長と、産廃処理会社(同市)の当時の現場責任者(いずれも40歳代)、法人としての両社を廃棄物処理法違反(委託基準違反など)の疑いで神戸地検姫路支部に書類送検した。県警は、起訴、不起訴の判断を検察官に委ねる「相当処分」の意見を付けた。

 捜査関係者によると、山陽特殊製鋼側は昨年4~6月、知事の許可を受けていない金属くず約7トンの処分を依頼し、産廃処理会社側はこの金属くずを受け入れ、姫路市内の最終処分場に捨てた疑い。いずれも容疑を認めているという。

 県警は昨年9月、山陽特殊製鋼本社や産廃処理会社事務所を捜索していた。

 山陽特殊製鋼は「真摯(しんし)に反省し、全社を挙げて改善対策に取り組み、信頼回復に努めたい」としている。

読売新聞の場合は、廃棄物処理法に照らしてかなり正確な表現をしています。
兵庫県警が書類送検した経緯も正確に描写しています。

一点だけ間違いを挙げるとすると、「兵庫県知事の許可」ではなく、「姫路市長の許可」になります。

山陽特殊製鋼の担当部長が積極的に委託基準違反を推進していたわけではないと思いますが、それでも書類送検されたという事実には重いものがあります。

どうしても、「トカゲのしっぽ切り」という言葉が頭にちらついてしまいます。
もっとも、私個人としては、担当部長を犯罪者にしないといけないほどの悪質な犯罪とは考えていませんが・・・

県警は、起訴、不起訴の判断を検察官に委ねる「相当処分」の意見を付けた。

という表現に、兵庫県警の苦衷が現れているように思いました。

「今まで大丈夫だったから」と安穏としていると、いつ何時、企業のみならず、担当者の寝首がかかれるかどうかわからない時代になりました。

紛争が起こっている地域の住民とは利害関係を有さない排出事業者であっても、住民の怒りを免れることはできないという教訓にもなりました。

また、報道を見ると、事実が必要以上に悪い方に誇張されている印象を受けましたので、山陽特殊製鋼側も少し慎重に報道対応をした方が良かったと思います。

特に、山陽特殊製鋼自ら「投棄した」と謝罪したのは非常にまずかった。

「取りあえず謝っておいて、事態が沈静化するのを待とう」という戦略(?)だったのかもしれませんが、
結果的にはその戦略によって、従業員が犯罪者になるかならないかの瀬戸際に立たされてしまいました。

その意味では、一番やってはいけない広報対応だったと思います。

今回のようなケースでは、環境管理部門単独の対応ではなく、
少なくとも「法務」と「広報」と連携して対応する必要がありました。

企業文化のために、そのような有機的な組織対応が難しい企業が多々あるものと思いますが、問題が起こってから急に企業文化を変えるのは至難の業です。
平時から、有事対応を念頭に置いた組織横断的なプロジェクトを立ち上げ、綿密なシミュレーションを行っておく必要があります。

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コメント

  1. 中川喜裕 より:

    いつもブログを拝見させて頂いております。今回の山陽特殊製鋼の件は、排出事業者と処分業者のみがクローズアップされていますが、収集運搬業者は何のお咎めも無いのでしょうか? 収集運搬業者がもう少ししっかりと契約内容等を管理していれば、今回のケースは防げたと思うのは私だけでしょうか?

  2. 尾上雅典 より:

    中川喜裕 様 コメントいただきありがとうございました。

    収集運搬業者は目的地に産業廃棄物を運ぶことが主たる業務になるので、自社の許可内容さえ問題なければ、運搬先の許可内容が不適だったとしても、法的に罰せられることはありませんね。

    一般的な取引関係においては、ご指摘のとおり、収集運搬業者が最終処分先を紹介することが多いので、ほとんどの場合は問題がない最終処分場と契約をしているはずですが、
    今回のケースでは、収集運搬を最終処分業者が一括で受託していたのかもしれませんね。 

    あるいは、収集運搬業者と最終処分業者が長年の付き合いがあるために、委託者にいい加減な話しか伝えてなかったのかもしれません。

    いずれにせよ、委託者の責任であることには違いがありませんが。


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