「委託料金」は「見積書記載のとおり」でOK?

処理業者側のニーズに、「産業廃棄物処理委託契約書の委託料金はできるだけ固定化したくない」というものがあります。

そうしたニーズを追求すること自体は違法ではありませんので、法律の許す範囲で、可能な限り弾力的な表現を見つけるべきだと思います。

下記のような“逃げ方”は、割と多くの方が思いつくようで、自慢げに披露する方、あるいは「本当にこれで大丈夫なのだろうか?」と疑心暗鬼で質問してくる方が、それなりの頻度で現れます。

2.(委託する産業廃棄物の種類、数量及び単価)
 甲が、乙に収集・運搬を委託する産業廃棄物の種類、数量及び収集・運搬単価は、次のとおりとする。
種 類: 廃プラスチック類                  
数 量: 10㎥/月                      
単 価: 見積書のとおり

契約手法としては、基本契約とは別に料金だけを定める場合、「覚書」を交わすことを推奨しておりますが、この案の味噌は、「見積書なら、印紙税の負担が不要なんじゃね?」という部分にあるようです。

印紙税の負担が必要かどうかは、当ブログの趣旨とは異なる税法上の話となりますので、ここでその可否の考察はいたしません。

印紙税の詳細について関心がある方は、最寄りの税務署にお問い合わせください。

廃棄物処理法の話に戻りますが、上記のような記載は、委託基準を満たすかどうか?

廃棄物処理法施行規則第8条の4の2では、委託契約書の法定記載事項として、「委託者が受託者に支払う料金」を挙げています。

そのため、
基本契約書に「1回あたり1万円」と明記するか、
基本契約書には「別途覚書で決定する」と記載し、改めて覚書で合意内容を証明する
という方法を取るしかありません。

見積書の場合は、後者の「別途覚書で決定する」に形式上は類似しますが、印紙税をお互い負担しあう覚書とは異なり、「処理業者から排出事業者に一方的に出す文書に準拠する」点が最大の差異となります。

もちろん、「処理業者が一方的に出す文書だから、見積書の運用は委託基準違反」となるわけではありませんが、実務的には、覚書と見積書とでは、それを扱う人間の態度や注意は大きく異なることに注意が必要です。

「見積書に記載」で運用するのであれば、「覚書」と同様に、「基本契約書と見積書を必ずセットで保存」することが不可欠となります。

別の言い方をすると、「特定の時期の委託料金の詳細の根拠となる見積書を紛失した場合、委託契約書で委託料金を合意したという証拠が存在しない」、すなわち「委託基準違反」をしていることになります。

一般的な「見積書」に対する態度としては、「委託料金の事前通知」や「委託料金の予定額」といった認識がほとんどで、「契約書の一部」と考える人は普通いません。

実際、私自身の経験では、「見積書のとおり」と記載した契約書を運用していた企業のすべてが、肝心の「見積書」を基本契約書に添付していませんでした(苦笑)。

これでは「策士策に溺れる」のたとえのとおり、素敵なフレーズを思いついただけで満足してしまい、そもそもの目的の企業防衛とはかけ離れた、素っ裸同然の無防備な姿をさらしていることになります。

結論

「見積書のとおり」という運用は、それを思いついたあなたはともかくとして、あなたの後を引き継ぐ人には真意が絶対に伝わらない手法なので、止めておきましょう。

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