運送業許可が不要となる産業廃棄物収集運搬の条件

顧問先の企業から質問をいただきそれに回答する中で、他の廃棄物処理企業も知っておいた方が良い内容が見つかりましたので、解説します。

当初は今回の記事のタイトルを「産業廃棄物収集運搬には運送業許可が必要か」というタイトルにしようかと思っていましたが、
環境省は許可が必要かどうかの判断を明確に示していませんし、裁判の判例があるわけでもないため、どうしても神学論争のように答えが出ないものになってしまいます。

そのため、今回は少し趣向を変え、国交省が明確に「こういうケースなら、産業廃棄物の運搬であっても、運送業の許可は不要」と示している内容をご紹介します。

国交省が公開している情報の中に、 法令適用事前確認手続照会及び回答事案 というものがあります。

その中の 平成15年8月12日付の回答 を見てみると

Q
産業廃棄物の収集運搬業(積み替え保管を含む)を現有の車両1台を用いて有償で運搬致します。ただし、中間処理施設及び最終処分施設はありません。
当社は他の事業で収益を得ておりますが、リサイクル法等の関係で、当社請負事業で発生する産業廃棄物を元請けの指示により、元請け指示場所に運搬を行うために廃棄物収集運搬業の許可を取得予定ですが、元請けの需要で、収集運搬費用を徴収して、有償で自社車両を用いて運搬予定ですが、廃棄物収集運搬業のみでの事業展開でなく、廃棄物の適正処理を行うために廃掃法の収集運搬業を行いますので、当面1両で事業を行う予定です。
貨物自動車運送事業法法令(条項)に基づく許認可等を受ける必要があるかどうか(許認可等を受けない場合、罰則の対象があるかどうか)?

という質問に対し、

国交省は

貨物自動車運送事業とは、他人の需要に応じ、有償で、自動車を使用して貨物を運送する事業をいい、当該行為については、貨物自動車運送事業法に基づく許可等が必要となる。

ただし このような行為であっても 当該運送行為が自己の生業と密接不可分であり、その業務に付帯して行われる場合は、当該運送行為が主要業務の過程に包摂しているものと認められ、貨物自動車運送事業法上の許可等を要しないこととしている。

廃棄物の運送についての現在の取扱いは、廃棄物処理業者が自ら処理施設を保有し処理まで行うものであるかどうかにより許可等の必要性の有無を判断しているところである。

照会者から提示のあった行為は 「当社請負事業で発生する産業廃棄物を元請の需要で、収集運搬費用を徴収して、有償で自社車両を用いて運搬予定である」こと、また、「中間処理施設及び最終処分施設はありません」という事実から、産業廃棄物収集運搬業の許可の有無にかかわらず 「他人の需要に応じ、有償で、自動車を使用して貨物を運送する」ことに該当し、貨物自動車運送事業法に基づく許可等が必要であると判断される。

また、上記許可等を取得せず貨物自動車運送事業を営んだ場合には、貨物自動車運送事業法第3条違反により 「3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する 」と規定(貨物自動車運送事業法第71条)されているほか、自家用自動車を使用する者に対する行政処分として、自家用自動車を使用制限又は禁止(道路運送法第81条)することができることとなっている。

と回答しています。

重要なのは上記の2か所の赤字部分

当該運送行為が自己の生業と密接不可分であり、その業務に付帯して行われる場合は、当該運送行為が主要業務の過程に包摂しているものと認められ、貨物自動車運送事業法上の許可等を要しないこととしている。

廃棄物の運送についての現在の取扱いは、廃棄物処理業者が自ら処理施設を保有し処理まで行うものであるかどうかにより許可等の必要性の有無を判断しているところである。

第1のポイント

「生業と密接不可分な運送行為には運送業の許可不要」

第2のポイント

「中間処理業者または最終処分業者が自社の事業場まで廃棄物を運搬する場合は、第1のポイントを満たすので運送業の許可不要」
となります。

まとめ

ほとんどの産業廃棄物処分(中間処理・最終処分)業者は、自社の事業場に廃棄物を搬入するために収集運搬行為を行っていますので、その場合は「運送業の許可を取得する必要は無い」ということになります。

※では、「中間処理業者が自社の事業場には搬入せず、他の中間処理業者の事業場まで廃棄物を運搬する場合はどうなるのか?」という疑問が生じますが、これに関する公的な質疑はありません。
その問題への私見はありますが、悪用や誤解を招く危険がありますので、ブログでそれを表明するのは止めておきます。

以上、現時点で国交省自身が明確に「運送業の許可不要」と言ってくれている条件のご紹介でした。

もちろん、許可不要であっても、荷主(委託者)の要望に基づき、あるいは自社のイメージアップのためにも、運送業の許可を取得するという選択も有効だと考えております。

ただし、それは自由な選択であって、法が強制するものではないということにご注意ください。
特に排出事業者の方にお願いいたします。

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コメント

  1. 山本 章 より:

    はじめまして、山本といいます。
    現在、廃棄物処理業者に勤務しており、その前は、某市で、十数年間廃棄物関係事務を経験しました。

    さて、「運送業許可が不要となる産業廃棄物収集運搬の条件」につきましては、大変納得いたしましたが、一般廃棄物の場合は、多少事情が異なると思いますので、ご見解を伺えたらと思います。

    ①市町村の委託により生活系の一般廃棄物を収集運搬し、市町村のごみ焼却施設に搬入する場合、運送業許可が必要である。
    ②事業者の委託により事業系の一般廃棄物を収集運搬し、市町村のごみ焼却施設に搬入する場合、運送業許可が不要である。
    理由:市町村委託の場合、ごみの焼却費用は市町村が負担するが、事業系の一般廃棄物の場合、ごみの焼却費用は収集運搬業者が市町村に支払うことになり、ごみの所有権(占有権?)は、収集運搬業者に移るため他人のものを運ぶわけではない。

    多少無理がありますが、小規模業者は運送業の許可を取得しにくいという事情もあり、「事業系一般廃棄物は、運送業許可が不要である。」という取扱いになっています。

  2. 尾上雅典 より:

    山本 章 様

    コメントいただき、ありがとうございました。

    事業系一般廃棄物についても結論は同じで、本質的には運送業許可取得の対象になり得ると考えます。

    理由は、事業系一般廃棄物の処理責任は排出事業者にあるためで、収集運搬業者にその処理責任が移転するわけではないためです。

    ただ、仰るとおり、現状では小規模零細事業者に運送業許可を取得するのは大変ですし、事実上あまり意味がありませんので、市町村や排出事業者が運送業許可取得までは求めないというのが合理的だろうと思います。

    専ら物の運搬と同じように、法律(貨物自動車運送事業法)上で運送業の許可取得不要と位置づけてくれると良いのですが。

  3. 山本 章 より:

    事業系一般廃棄物収集運搬車の「白ナンバー」‥‥違法ではない、ということにできないかと思いましたが、やはり難しいようですね。
    ありがとうございました。


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