自社運搬に関する茨城県の独自規制

茨城県の独自規制を知るきっかけとなったのは、不法投棄防止月間に伴う道路検問の結果公表でした。

2015年6月19日 茨城県発表 産業廃棄物運搬車両の一斉検査(県南地区)を実施しました

 (筆者注:茨城)県では,産業廃棄物の不法投棄を防止し,生活環境の保全を図るため,6月,11月を「不法投棄防止強調月間」として定め,各種パトロールや県民,事業者等に対する啓発等を集中的に実施しています。
その一環として,産業廃棄物運搬車両の一斉検査を実施しましたので,その内容及び検査結果を下記のとおりお知らせします。

1 目 的
産業廃棄物運搬車両について,その運搬状況や車両表示等を検査し,不適正処理のおそれのある車両を発見するとともに,適正な運搬を指導することによって,産業廃棄物の適正な処理を確保することを目的とする。

2 実施機関
茨城県(廃棄物対策課,県南県民センター環境・保安課)14名

3 協力機関
茨城県警察(稲敷警察署)3名
美浦村(生活環境課)2名

4 検査日時
平成27年6月18日(木曜日)午前10時~12時

5 検査場所
美浦村受領地内「光と風の丘公園」

6 検査事項
運搬品目,運搬状態,運搬車両の標識,産業廃棄物収集運搬業等に係る許可証(写し)の携帯,マニフェスト(自社処理票)の携帯等

7 検査結果等
(1)検査した車両数
車両総数10台:検査車両の内訳 産業廃棄物運搬車 2台
一般廃棄物運搬車 1台
有価物運搬車   6台
空車       1台
(2)検査の結果
合計で10台の車両を検査した結果,1台の車両に対し,自社廃棄物の運搬の際に必要な書面(自社処理票)の不携帯,産業廃棄物運搬車両標識の表示不備及びマニフェストの不携帯に関して改善指示を行いました。
今後とも,県では関係機関と連携協力し,廃棄物の適正処理を推進していきます。

道路検問自体は珍しい事ではありませんが、茨城県が違反事項と指摘した「自社処理票」なる言葉に目が惹かれ、自社運搬に関する茨城県の独自規制の存在を知るに至りました。

念のため補足をすると、廃棄物処理法では、「自社処理票」なる書式の携帯は義務付けられておりません。

では、茨城県は単なる行政指導として「自社処理票」の交付や携帯を義務付けているのかというと、そうではなく、

茨城県廃棄物の処理の適正化に関する条例」で、運用が義務付けられています。

茨城県廃棄物の処理の適正化に関する条例 第8条

(自社処理票)
 産業廃棄物を排出する事業者は,当該産業廃棄物を排出した事業場以外の場所において自ら産業廃棄物を処理する場合は,規則で定めるところにより,次に掲げる事項を記載した処理票(以下この条において「自社処理票」という。)を作成し,当該産業廃棄物の排出から最終処分までの行程を明確にしなければならない。

(1) 産業廃棄物の種類及び数量(2) 産業廃棄物を排出する事業場及び産業廃棄物を処理する事業場の所在地並びに名称(3) その他規則で定める事項

2 前項の規定により自社処理票を作成し産業廃棄物の処理を行う場合においては,産業廃棄物を排出する事業場の管理者は,自社処理票に規則で定める事項を記載して,当該産業廃棄物の引渡しとともに,これを当該産業廃棄物の運搬の業務に従事する者(当該産業廃棄物の処理を委託された他の業者である者を除く。次項及び第4項において「運搬業務従事者」という。)に交付しなければならない。この場合において,当該管理者は,当該自社処理票の写しを作成し,当該産業廃棄物の処理を終了した日から5年間,当該事業場(当該事業場において保存することが困難である場合にあっては,最寄りの事務所)に保存しなければならない。
3 運搬業務従事者は,当該産業廃棄物を運搬する場合においては,当該産業廃棄物に係る自社処理票を常に携行しなければならない。
4 運搬業務従事者は,当該産業廃棄物の運搬を終了したときは,規則で定めるところにより,当該自社処理票に規則で定める事項を記載して,当該産業廃棄物の引渡しとともに,これを運搬先の事業場の管理者(次項及び第6項において「施設管理者」という。)に交付しなければならない。
5 施設管理者のうち当該産業廃棄物の積替え又は保管の業務に従事する者(当該産業廃棄物の処理を委託された他の業者である者を除く。)は,当該積替え又は保管の業務を終了したときは,規則で定めるところにより,当該自社処理票に規則で定める事項を記載して,当該産業廃棄物の引渡しとともに,これを次の処理の行程の業務に従事する者に交付しなければならない。
6 施設管理者のうち当該産業廃棄物の中間処理(産業廃棄物の発生から最終処分が終了するまでの一連の処理の行程の中途において産業廃棄物を処分することをいう。)又は最終処分を行う施設の管理者は,当該自社処理票とともに引渡しを受けた産業廃棄物が当該自社処理票に記載された事項と相違がないことを確認するとともに,当該自社処理票に規則で定める事項を記載して,当該産業廃棄物の処理を終了した日から5年間,これを当該施設(当該施設において保存することが困難である場合にあっては,最寄りの事務所)に保存しなければならない。

ibaraki

一般的なマニフェストとほぼ同様の内容ですが、本来は自社処理や自社運搬なら作成・保存が必要とされない情報を、一つずつ記入していくのはかなり面倒な気がします・・・

「自社処理票」を運用していなかったとしても、それだけでは罰則の適用対象となりませんので、警察に捕まったり、行政処分を受けたりすることは無さそうです。

ただし、同条例の第9条では、

茨城県廃棄物の処理の適正化に関する条例 第9条
(改善命令)

 知事は,前条第1項に規定する事業者が同条各項の規定を遵守していないと認めるときは,当該事業者に対し,産業廃棄物の適正な処理に関し必要な措置をとるべきことを命ずることができる。

とあり、この茨城県条例第9条の改善命令を無視した場合には、

茨城県廃棄物の処理の適正化に関する条例 第26条

 第9条の規定による命令に違反した者は,50万円以下の罰金に処する。

と、罰金刑の適用対象となるそうです。

もっとも、この条例に基づく罰金刑の場合は、廃棄物処理法違反の罰金刑とは異なり、欠格要件の対象にはなりません。

即刻許可の取消しが行われる法律違反の中に、地方自治体の条例違反による罰金刑は含まれないからです。

仮に、茨城県条例に違反して法人に罰金刑が適用されたとしても、それだけでは産業廃棄物処理業許可の取消事由にはならないのです。
(注:しかしながら、茨城県条例違反で罰金刑が科された場合、茨城県に「その業務に関し不正又は不正実な行為をするおそれがあると認めるに足る相当な理由がある」と判断されれば、「おそれ条項」の適用で、許可取消が行われる可能性は十分にあります。)

しかしながら、許可取消の対象にはならずとも、改善命令に従わなければ、「50万円以下の罰金刑」の対象には成り得ますので、茨城県内で発生した産業廃棄物の自社処理(自社運搬を含む)には、「自社処理票」を確実に運用しなければなりません。

他の地域においても同様の規制をしている自治体があるのかもしれませんが、全国的な趨勢としては「自社処理票」の運用を義務付けている自治体は極々少数派ですので、珍しい事例として取り上げてみました。

昔のように根拠や効力が定かでない行政指導ではなく、条例で罰則と絡めてルール化している点は、地方自治体の法制事務としてはあるべき姿かと思いました。

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