下請が排出事業者とみなされる条件

 まだ環境省のHPで公開されていませんが、2月4日に環境省から都道府県や政令市に向けて、改正法の施行通知が出されました。
 「平成23年2月4日付環廃対発第110204004号、環廃産発第110204001号」です。

 その中で、新設された条文第21条の3第4項の、下請が排出事業者としてみなされる具体的な条件が解説されています。

4 下請負人が行う廃棄物の処理の委託
 法第21条の3第1項の規定により建設工事に伴い生ずる廃棄物については元請業者が事業者とされることから、元請業者が廃棄物について自ら適正に処理を行い、又は委託基準に則って廃棄物処理業者に適正に処理を委託しなければならない。
 しかし、元請業者が建設工事に伴い生ずる廃棄物を放置したまま破産等により消失した場合など、やむなく下請負人が自ら当該廃棄物の処理を委託するというような例外的な事例があった場合、下請負人は事業者でも廃棄物処理業者でもないことから、法に基づく規定が適用されず、下請負人により廃棄物が不適正に委託され、結果的に当該廃棄物の不適正処理につながるおそれがある。
 そこで、そのような事態を防止するため、下請負人が建設工事に伴い生ずる廃棄物の運搬又は処分を他人に委託する場合には、当該下請負人を事業者とみなし、廃棄物の処理の委託に関する規定を適用することとした(法第21条の3第4項)。
 なお、この規定は、前述のような例外的な事例においても法の規定に基づく適正な処理が確保されるよう措置することとするものであり、下請負人が廃棄物の処理を委託することを推奨する趣旨ではない

 ポイントとしては、元請が急に倒産したり、施工不能になるといった、ほとんどありえない事態を想定した規定のようです。

 現実問題として、元請が急に倒産したら、下請への請負代金が支払われない事態となり、それでも下請に排出事業者として廃棄物の処理責任を義務付けるのはかなり酷です。 (ー_ー)!!

 それなのに、「下請負人が廃棄物の処理を委託することを推奨する趣旨ではない」というのでは、下請に責任を負わせたいのか、そうではないのかがよくわかりません。

 車のアクセルとブレーキを両方踏むようなもので、進みたいのか止まりたいのか一体どっちなのでしょうか?

 環境省の正確な意図は別として、
 法律の条文的には、

建設工事に伴い生ずる廃棄物について下請負人がその運搬又は処分を他人に委託する場合には、(中略)第一項の規定にかかわらず、当該下請負人を事業者とみなし、当該廃棄物を当該下請負人の廃棄物とみなす。

 となっているため、下請が排出事業者として委託契約をしても違法ではないとしか言えません。

 もっとも、その場合でも、元請が倒産などをしておらず、相変わらず現場で施工をしているような場合は、第23条の3第1項の規定に基づき、元請が排出事業者として責任を果たさねばなりませんので、元請が委託基準違反に問われることになります。

 セミナー後に受ける質問では、この条文の判断基準に関するものが多く、人によっては制度の不条理に対する怒りを隠さない方もいますので、非常に多くの方が取扱いに悩んでいるものと思われます。

 実務の要点をまとめると、
 原則は元請が処理業者と契約、下請は現場での保管や分別を徹底、業者との契約にはタッチせず、が正しいあり方となります。

 何らかの原因で、上記の元請が消滅したような場合は、下請が自動的に排出事業者責任をかぶる、ということではありませんが、
 この条文の存在によって、行政などから処理責任をかぶせられる可能性は非常に高いと言えるでしょう。

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コメント

  1. 通りすがりの初心者 より:

    はじめまして。
    「最新産廃処理の指揮ホント仕組みがよ~く分かる本」第2版を購入した業界初心者です。
    ひとつわからないのが、項目4-7「毎月処理費が変動する場合の委託契約書」の部分、「(委託料金については)別途覚書で決定する」とありますが、契約の重要な要素について覚書を交わすのは行政的に受けが良くないと聞いたことがあります。
    すると、覚書にはどのような内容、どのような形式で交わせばいいのでしょうか。毎回契約を結び直すのはあまりにも手間ですし…。
    排出事業者からの一方的なファクシミリで料金表が来るという形とかはまずいと思うのですが、認められるような定型的な形についてご指導いただけたらと思います。
    よろしくお願いいたします。

  2. 尾上雅典 より:

    通りすがりの初心者 様

    コメントありがとうございます。
    著書の改訂版をご購入いただき、感謝しております。

    >ひとつわからないのが、項目4-7「毎月処理費が変動する場合の委託契約書」の部分、「(委託料金については)別途覚書で決定する」とありますが、契約の重要な要素について覚書を交わすのは行政的に受けが良くないと聞いたことがあります。
    すると、覚書にはどのような内容、どのような形式で交わせばいいのでしょうか。毎回契約を結び直すのはあまりにも手間ですし…。

    本の4-7の部分では、契約書と覚書を一緒に保存(ファイリング)することを前提に解説しておりますので、そのように運用していただければ、行政から違法と指摘をされることはありません。
    覚書はあくまでも委託契約書の一部であり、別箇独立に存在するものではないからです。

    ご指摘の行政が問題視する覚書の運用は、おそらく、契約がないにもかかわらず覚書だけを振りかざす事業者に対し、「覚書だけではなく契約書も作成しなさい」という指導が発端なのではないかと思われます。

    そのため、契約書で定めきれない月々の変動内容を覚書で別途決定し、契約書と覚書を一体運用するのは、むしろ廃棄物処理法に忠実な運用ですので、行政も感心してくれると思います。

    >排出事業者からの一方的なファクシミリで料金表が来るという形とかはまずいと思うのですが、認められるような定型的な形についてご指導いただけたらと思います。

    一方的なFAXでは、双方が合意したとは言えませんので、それを覚書として扱うのは無理だと思います。

    覚書は基本契約を保管するものであり、双方の合意が不可欠となるからです。

    そのため、定型のような様式はないのですが、「委託料金」だけを毎月合意決定(=契約)するイメージで考えていただき、契約書の簡易バージョンとして、排出者と処理業者の双方が押印することが必要です。
    押印は廃棄物処理法の要求事項ではありませんが、双方の合意を証明するためには、やはり必要です。

    今日は時間がありませんが、後日「覚書」の考えられる様式などをブログにアップしますので、そちらもご参照ください。

    今後ともよろしくお願いします。

  3. ハラコ より:

     いつもメルマガ拝見しております。
     先生のメルマガは分かり易く解説していただいているので、参考にさせていただいております。

     毎回法改正はややこしくて、本当に分かりにくいですね。

     「下請負人が廃棄物の処理を委託することを推奨する趣旨ではない。」というところは、アクセルなのかブレーキなのか分かりませんよね。
     私も無い知恵を働かして下記のように考えたのですが、先生の御意見を頂ければ、ありがたいです。

     改正法第21条の3第4項について、下記の環境省の事務連絡に趣旨がありました。

     事務連絡、平成22年5月20日「建設工事に伴い生ずる廃棄物の処理責任の元請業者への一元化について」2 各規定の趣旨、(4) 改正法第21条の3第4項について

     この通知の全体を読むと、不法投棄の特に多いと見られる建設工事業者の不適正処理に対応するため、下請負人が請け負った建設工事に伴い生ずる廃棄物の処理を委託することを認めている(推奨する)のではなく、改正法第21条の3第4項がないと下請負人が不適正な処理をした場合、取り締まる(指導する)ことができないので、あえて法律を作ったものと考えました。
     なので、下請負人にとっては、そもそもこの条文を使うことは考えない。行政から指導があるかも知れないと考え、元請が倒産したり無理な処理を要求してきても身を守るよう注意しておく。
     どうでしょうか。

  4. 尾上雅典 より:

    ハラコ 様

    コメントありがとうございました。

    >改正法第21条の3第4項について、下記の環境省の事務連絡に趣旨がありました。
     事務連絡、平成22年5月20日「建設工事に伴い生ずる廃棄物の処理責任の元請業者への一元化について」2 各規定の趣旨、(4) 改正法第21条の3第4項について
     この通知の全体を読むと、不法投棄の特に多いと見られる建設工事業者の不適正処理に対応するため、下請負人が請け負った建設工事に伴い生ずる廃棄物の処理を委託することを認めている(推奨する)のではなく、改正法第21条の3第4項がないと下請負人が不適正な処理をした場合、取り締まる(指導する)ことができないので、あえて法律を作ったものと考えました。
     なので、下請負人にとっては、そもそもこの条文を使うことは考えない。行政から指導があるかも知れないと考え、元請が倒産したり無理な処理を要求してきても身を守るよう注意しておく。
     どうでしょうか。

    おっしゃるとおりだと思います。

    さすがに公的な文書では環境省も本音を語っていませんが、業団体(建設廃棄物処理)でのパネルディスカッションでは、当時の担当課長がハラコ様のお書きになった内容を本音というか、立法趣旨だと語っていらっしゃいました。

    少しやりすぎの感がありますが、脱法行為を絶対に許さないという意思表明としては明確でした。

  5. ハラコ より:

     いつもメルマガ拝見いたしております。
     ご回答ありがとうございました。

     それから、先生はもうご存じと思いますが、まだご存じ無い方もいると思い情報提供させていただきます。

     環境省のHPで、政省令のパブリックコメントの回答について訂正がありました。

    http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=13273

     よく考えると、建設廃棄物を事業所外で保管する場合は届出が必要なのに、建設廃棄物に何らかの手を加えて中間廃棄物だといって事業所外で保存できたら、今回の改正の届出制の意味がなくなりませものね。

  6. 尾上雅典 より:

    ハラコ 様

    コメントありがとうございました。

    環境省のパブコメ修正に関する情報提供をいただき、ありがとうございました。

    修正された件は知りませんでしたので、大変助かりました。

    単なるパブコメの回答とはいえ、ハラコ様のご指摘の通り、制度上の穴を放置するわけにはいかないということで、今になって回答が変更されたのだと思います。

    誤りを放置するよりは、正しい決断をしたと環境省の行動を評価しています。


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