法律違反と命令不服従のどちらを罰するべきか
今回ご紹介するのは、自衛隊の隊員が内規を無視してバッテリー液を不法投棄したという言語道断な事件です。
2016年9月12日付 産経新聞 「2等陸曹を停職、バッテリー液を排水口に廃棄「管理、煩わしくなった」 徳島駐屯地」
陸上自衛隊徳島駐屯地(徳島県阿南市)は12日、駐屯地内にある整備工場の排水口に車両用のバッテリー液(希硫酸)を不法に廃棄し、浄化槽を壊したとして、第14後方支援隊に所属する30代の男性2等陸曹を停職5日の懲戒処分とした。
駐屯地によると、2曹は昨年11月17日、車両や機材を整備する工場に保管していたバッテリー液計46リットルを工場内の排水口に廃棄していた。バッテリー液の駐屯地外への流出はなかった。2曹は「管理が煩わしくなった」と話しているという。
古賀昭博第14後方支援隊長は「誠に遺憾だ。さらなる法令順守の教育指導の徹底に努める」とのコメントを出した。
常々思っていたことですが、法律違反に対する弁解としての、「今後法令遵守教育の徹底に努める」というコメントには、大きな違和感がありました。
今回のニュースは、その違和感の原因の一端を明らかにしてくれました。
軍事組織においては、組織と上官の命令に服従するのが大原則です。
「自衛隊は軍隊ではない」というごもっともなご意見が聞こえてきそうですが、自衛隊の指揮命令系統が軍事組織のそれと同一であることは誰も否定できない事実と思います。
「法令遵守教育の徹底」というコメントには、問題の根源を、法律違反をした個人の資質や意識の問題としか捉えていない様子がうかがえます。
一般企業等の組織においても、その構成員は組織と上役の指示に従うことが当然求められていますが、こと軍事(的)組織においては、組織の命令に従わない兵士の存在は害悪でしかありません。
もちろん、今回は戦時(=緊急時)ではなく、平常時の(不法)行為ではありますが、
「バッテリーを産業廃棄物処理業者に処理委託する」というそれほど難しくない行為であるにもかかわらず、「管理が煩わしくなった」という理由で、46リットルもバッテリー液を不法投棄する2等陸曹が、緊急時に自衛隊の命令に対して素直に従う確率は非常に低いと思われます。
不法投棄である以上、法律違反であることは間違いありませんが、個人の独断で組織全体のリスクにつながる愚行を実行できるという体制の方が大問題ではないでしょうか。
法律違反を実行者個人の問題に矮小化してしまう「法令遵守教育の徹底」というコメントを吐いた時点で、その組織のリスク対応は失敗に終わったと見る必要がありそうです。
法律違反というリスクを防ぐためには、「教育」だけでは実現不可能であり、
「現実的な内規」と「教育」、そして組織内部での「定期的なチェック」の三位一体が不可欠です。
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2016年9月26日 | コメント/トラックバック(0) | トラックバックURL |
カテゴリー:危機対応