あまり知られていない行政代執行後の現実
2024年9月24日付 NHK 「茨城県 放置の産業廃棄物を行政代執行で撤去へ 石岡」
廃棄物は最大でおよそ1.5万立方メートルに及び、崩落のおそれが出たことから県は去年3月、法律に基づき1年以内の撤去を命じましたが、現在も1.2万立方メートルが放置されたままとなっており、県は24日から行政代執行による強制撤去に乗り出しました。
撤去費用は3億3000万円に上り、県の行政代執行としてはこれまでで最も多額となっていて、県は廃棄物を放置した業者らに全額を請求することにしています。
県道沿いにうず高く廃棄物が積まれた絵面のためか、ローカルニュース報道という枠組みを超え、民放の複数のワイドショー番組でも取り上げられるほどの話題になった案件です。
「通学路の近くに積まれていたので、撤去計画に安堵した」という地域住民の安心の声を報じることは当然として、
「税金を使って後始末がされることには納得がいかない」という、茨城県民と思しき通行人の方の率直な感想を取り上げていたテレビ番組が多かったように思います。
行政代執行事案については、代執行に至るまでの行政対応が適切であったかどうかに関する議論が非常に重要ではありますが、今回は視点を少し変え、意外と知られていない「行政代執行後の現実」を見ていこうと思います。
代執行費を取り戻せる可能性
茨城県が語っているように、行政代執行経費は、原因者に全額求償することが基本中の基本です。
ただし、求償をした後で、その費用を全額取り戻すことができるかどうかは、また別の話となります。
現実には、被求償者の預金や財産をすべて調べ上げた場合でも、総額で10万円の価値も無いということがよくあります。
行政が代執行に着手する前に友人知人に財産を預けたり、存在するかどうかわからない借金の担保として、持ち家と底地に急きょ抵当権を設定するといった手法が常套手段です。
それでも、代執行を行った自治体は、国税徴収法に則り、自治体が把握した不適正処理実行者の財産の差し押さえ等を粛々と行わなければなりません。
不適正処理実行者の財産が存在し続ける限り、自治体からの求償は続くことになりますが、不適正処理実行者の死亡等で、自治体としての債権を放棄せざるを得ない状況がやがてやって来ます。
実行者から100万円以上を取り立てることができた場合は、費用求償としては大成功の部類に入ります。
※その場合でも、代執行費全体と比較すると、微々たる割合であることがほとんどですが。
このように、いざ代執行費を請求したとしても、その全額を実行者から回収できるケースはまず無く、先に紹介した地域住民の懸念のとおり、最終的には、行政代執行費の大部分は、「住民」と「その他の国民と事業者」の負担となります。
もちろん、住民や国民・事業者に対し、行政代執行費の負担に関する請求書が発行されるわけではありません。
しかし、原因者がほとんど、あるいはまったくコストを負担しないため、自治体や国、何らかの基金といった「公金」で全面的に代執行費を賄うことになりますので、結局のところ、公金の元となる税を納めた国民と事業者が連帯して負担しているのと同様だからです。
行政代執行以前に大切なこと
今回の報道からは実際に撤去する予定の産業廃棄物の量が不明ですが、茨城県が負担する「3億3千万円」は、産業廃棄物の全量撤去ではなく、崩落のおそれがある法面部分の撤去に留まる規模と思われます。
その意味では、現実的かつ妥当な規模の行政代執行であると思います。
しかしながら、行政としては、行政代執行の臨まざるを得なくなった時点で、不適正処理実行者との戦いは「負け確定」となります。
廃棄物の不適正処理は、いつ起きるか分からない天災ではなく、「ある人間が意図的に廃棄物を放置した結末」であるため、幸いにも初期段階で行政側の人間が実行者を止める手段はいくつかあります。
そのため、廃棄物の放置を初期段階で抑制するか、制御不能になるまでほったらかしにするかは、すべてその自治体が自発的に選択した結果となります。
言うまでもなく、「放置を初期段階で抑制」できれば、その自治体の「勝ち」
「制御不能になるまでほったらかしにして、行政代執行しか手段が残されていない」という状況は、自治体の「負け」
となります。
「職務怠慢」「無責任」と声高に行政を批判することは誰でも簡単にできますが、ここで一度激した感情は脇に追いやり、
「人間はなぜ問題解決に着手せず、制御不能になるまで事態を悪化させるのか」を冷静に分析し、
今後の行政施策に活かすことが必要と思います。
産廃特措法の対象事案が現れるたびに、当事者の自治体がそのような総括をすることが通例となっていますが、他の自治体にとっては「対岸の火事」でしかなく、自分達が当事者になる可能性を考えることができていないように思われます。
過去の反省に基づき、「自治体は、最善の結果に至るための選択をどうすべきか」を、冷静かつ精緻に体系化する必要があると考えています。
環境省や自治体からのご依頼があれば、不肖私めも全力でご支援させていただく所存です。
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2024年10月1日 | コメント/トラックバック(0) | トラックバックURL |
カテゴリー:危機対応