DOWAハイテックの委託基準違反

利根川水系の浄水場から、「ホルムアルデヒド」が検出された問題は、水質汚濁防止法ではなく、廃棄物処理法違反に端を発しているようです。

FNNニュース(動画) ホルムアルデヒド検出問題 原因物質流入の経緯判明

YOMIURI ONLINE ホルム検出、廃棄物処理法違反の疑いで捜査へ から記事を一部転載。

 産廃業者は、廃液について十分な説明を受けず、高崎市内の利根川支流の烏川(からすがわ)に排出した可能性が高い。同法では、廃棄物の性質などを委託先に知らせることが義務づけられている。群馬県警の捜査関係者は、DOWA社が告知を怠った可能性があるとみている。埼玉県も25日、同法に基づき、委託の経緯を30日までに報告するようDOWA社に求めた。DOWA社の経営企画室は「ヘキサメチレンテトラミンは危険性も低く、告知していない。きちんと処理してくれるものと思っていた」としている。一方、産廃業者の社長(64)は「わが社ではヘキサメチレンテトラミンを処理できないので、わかっていれば引き受けなかった。ぬれぎぬを着せられたようで迷惑だ」と話している。

現段階では容疑でしかありませんが、対象物質の使用量や広報のコメントなどを見る限り、限りなくDOWAハイテック(以下、DOWAと略称)側の廃棄物処理法違反の疑いが濃厚なので、今回はその前提でお話しを進めます。

法律違反の内容を解説する前に、確認が必要な知識を一つずつ確認していきます。

ヘキサメチレンテトラミンからホルムアルデヒドが生成されるまでの反応式

Methylamine Synthesis FAQ

H2O + Cl2 → HCl + HOCl
C6H12N4 + 4HCl + 6H2O → 4NH4Cl + 6CH2O

化学式の解説はできないので、上記だけで納得してください(笑)。

ヘキサメチレンテトラミンって何?

マスコミの既報のとおり、原因物質としては「ヘキサメチレンテトラミン」である可能性が非常に高そうです。

「ヘキサメチレンテトラミン」とはどんな物質であるかを調べると、
ウィキペディア ヘキサメチレンテトラミン から抜粋

  • ヘキサミン (hexamine) あるいは1,3,5,7-テトラアザアダマンタンとも呼ばれる。
  • 化学物質排出把握管理促進法(PRTR法)では「第一種指定化学物質」になるので、製造、移動あるいは使用する事業者には、毎年一回、環境への排出量や移動量を都道府県に報告する義務がある。

第一種指定化学物質ということは

ヘキサメチレンテトラミンを購入する際に、販売者からMSDS(Material Safety Data Sheet)の添付を受けているはずです。

PRTR法に基づき、ヘキサメチレンテトラミンの環境への排出量を報告している以上、DOWA社がMSDSを入手していなかったとは思えません。

少し古いデータですが、2009年度だけで、510t廃棄処分しているようです。
※図は、NPO法人有害化学物質削減ネットワーク のHPより転載。

DOWA社の違反は何だったのか?

読売新聞の報道を見る限りでは、広報にあたったDOWA社(本体か、DOWAハイテック社なのかは不明)の経営企画室のコメントは非常に稚拙でした。
「ヘキサメチレンテトラミンは危険性も低く、告知していない。きちんと処理してくれるものと思っていた」
これでは、違法性を自ら認識していたことを自発的に公開しているのと一緒です。

MSDSを持っている以上、その対象となる化学物質が含まれる廃棄物の処理委託をする際には、MSDSか、それに準じた情報提供を行う義務があります。

おそらく、全国産業廃棄物連合会の契約書雛形を使用していると思いますが、そこでもキチンと委託者の情報提供義務が明示されています。

一部の報道では、「廃棄物処理法では、ヘキサメチレンテトラミンの開示が義務付けられていない」という表現がなされています。
その表現自体は間違っていませんが、DOWA社は簡単に提供できるMSDSを持っている以上、処理委託の際にそれを提供しなかったことには重大な過失があったと考えられます。

不適切な委託によって首都圏の数十万人に影響が及ぶという、委託基準違反の影響が如実に現れた稀有な事例です。

仮にも、全国で5指に入る廃棄物処理企業の巨頭であるDOWA社のグループ会社としては、甘すぎる認識と言わざるを得ません。

不幸中の幸いというべきか、DOWA社のグループ会社に過ぎず、直接的な資本関係はないようですから、産業廃棄物処理事業への影響はなさそうです。
しかし、DOWA株が大幅下落していますので、委託基準違反のつけは高くつくことになりました。

法律上の義務云々という、料簡の狭い思考パターンでは、不祥事の際に傷口を広げることになります。

「ヘキサメチレンテトラミンの開示義務の有無」だけを考えると、そのものズバリの条文がないために問題なさそうに見えますが、
もっと大きな枠組みで考える必要がある「情報提供」と「委託者の責任」という点から考えると、やはり不適切だったと言わざるを得ません。

DOWA社の今後の巻き返し(自省と再発防止)に期待します。

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コメント

  1. さくパパ より:

    25日のセミナーお疲れ様でした。
    大変、勉強になりました。

    http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120526-00000144-mailo-l10
    処分の再委託がちょっと気になります。

  2. 尾上雅典 より:

    さくパパ様 セミナーをご聴講いただき、ありがとうございました。

    ご紹介いただいた記事には再委託と書かれていますが、
    「中間処理後に別の焼却業者に委託した」という意味ではないかと思いました。

    ひょっとすると、読んで字のごとく、勝手に再委託されたのかもしれませんが。


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