ヤマト運輸子会社が遺品整理事業に参入した理由と勝算

LNEWS ヤマト/清掃、整理整頓、廃棄、リサイクルサービスを事業化

ヤマトホールディングス傘下のヤマトホームコンビニエンスは8月1日、生活を整えたい人のためのサービス「クロネコらくらくおかたづけサービス」の発売を開始する。

部屋の清掃、整理整頓、廃棄、リサイクルから遺品整理まで、ライフスタイル、ライフステージに合わせた生活支援サービス事業に本格参入で、初年度の売上目標5億円、取扱い件数4000件を目指す。

同社では、引越しサービスや家具・家電のセッティングサービスを中心に事業を展開する中で、リサイクル、清掃、整理整頓などの片づけに対するニーズの高まりに着目したもの。

「おかたづけ」に関わる様々なサービスをパックにしたワンストップサービスと、わかりやすい部屋単位の料金設定で、不安感を解消するとともに、よりニーズにあったサービスを提供することで、このマーケットでのリーダーを目指す。

故人の遺品整理を請け負う「メモリアル整理サービス」も併せて発売し、「おかたづけ」にかかわる多岐にわたるニーズに応える。

サービス内容は、「らくらくおかたづけパック」と「メモリアル整理サービス」の2つのサービスがあり、それぞれに基本パックサービスとオプショナルサービスがある。

らくらくおかたづけパックでは、整理・整頓サービス、家電、家具移動・設置サービス、不用品買取りをパックにして1部屋5万円から。

メモリアル整理サービスの基本パックサービス、供養品のアドバイスや葬儀に伴い発生する手続きのご案内、片付け・整理サービス、不用品買取りで10㎡20万円から。

初年度の目標売上高5億円、件数4,000件ということですから、1件当たり125,000円になります。
非常に手堅い目標ですね。1月当たりにすると、約333件の受注ですので、ヤマト社の営業力をもってすれば実現可能性が高そうに感じられます。

廃棄物処理法の一般廃棄物に関する規制に関係する部分が多い事業ですが、廃棄物処理法の適用を免れるために、「不用品買取」という形式を取るようです。

遺品整理事業の場合、事業完遂で一番の問題となるのは、不用品の処理。

通常は、遺品は一般廃棄物になるため、市町村の清掃工場へ持ち込むのが一般的です。

そのためには、遺族自らが清掃工場で搬入するか、一般廃棄物収集運搬業の許可を有する事業者が運ぶ、または市町村から委託を受けた事業者が回収・運搬する、という三者択一になります。
※地域によっては、日時を予約すれば、市町村の回収車が回収に来てくれる場合もあります。

遺族自ら搬入できないので業者を雇って整理してもらうわけですし、
遺品の回収を事業者に委託する市町村はほとんどないと思われますので、
事実上、一般廃棄物収集運搬業の許可を有する事業者の独壇場となるはずです。

ほとんどの市町村では、一般廃棄物収集運搬業の許可は新規で出しませんので、
その地域の一般廃棄物収集運搬業の許可を持っている事業者の他には、不用品の運搬はできません。

そうなると、今回のようなヤマトホームコンビニエンスの買取という手法。

遺品の全部が買取の回収になるとは到底思えませんので、廃棄物処理法的には疑問符がつきます。

もっとも、先述したとおり、市町村に回収に来てもらったり、一般廃棄物収集運搬業者に回収に来てもらうのであれば、
ヤマトホームコンビニエンス自体は運搬に携わりませんので、仮に遺品のすべてが不用品になったとしても、合法的に遺品整理事業を行えます。

遺品の〝処分”ではなく、単なる〝整理”だからです。

廃棄物処理業界にとってインパクトが大きいのは、ヤマト運輸という物流業界の雄が、遺品整理事業に勝算を見出したということ。

全国展開は無理にしても、今のうちに自社の営業地域で遺品整理の実績を確保しておかないと、
数年後にはヤマト社から不用品の運搬を打診されるだけの存在となるおそれがあります。

日経ビジネスの7月30日号から、ヤマトホールディングスの木川社長が講義する「経営新潮流」という連載が始まりました。

その中で、木川社長は
事業セグメントを絞りこむことの重要性として

セグメントを絞り込めば、ある意味ではニッチ市場になります。ニッチではあるけれど、その分独自性を出せる。すなわちオンリーワン商品になるんです。「これなら絶対に負けない」という差別化要素を埋め込みやすくなるでしょう。

また、価格設定に関する考え方として

お客様に喜ばれるサービスを開発し、価格は利用しやすい水準にとどめる。そうすれば需要は拡大して、利益は後からついてくる。

という企業哲学を披露されています。

そして、

ヤマトグループにとって最も重要なのは、長い歴史の中で培われてきた需要創出サイクルです。そして私は、新たな需要を創出することで、「宅急便の次」のイノベーションを起こそうとしています。

と結ばれています。

木川社長が陣頭指揮を取って遺品整理事業への参入をしたわけではないと思いますが、
ヤマトホールディングスが、遺品整理事業を「新たな需要」と位置付けているのは間違いなさそうです。

また、価格や事業セグメントの決め方も、木川社長が日経ビジネスで語っている基本原則とピッタリあてはまります。

単なる思い付きではなく、勝算やそのための戦略を練ったうえで、遺品整理事業に進出してきたことがわかります。

大企業の下風につくか、今のうちに地歩を固めておくか
一般廃棄物収集運搬業界に残された決断の時間はそれほど長くなさそうです。

このエントリーを含むはてなブックマーク

タグ

トラックバック&コメント

この投稿のトラックバックURL:

トラックバック

コメント

  1. 豊田 美紀 より:

    大変興味深く拝見しました。遺品・不要品処理は、灯油・ペンキ・バッテリー・消火器・タイヤ・整髪料、調味料等、一廃とはいうものの、特管該当物から廃油・廃酸・廃アルカリまで多品目の処理ノウハウが必要です。実務上、市町村施設への受入れを拒否される品目は、産廃施設で処理することになります。産廃施設へ搬入するには、マニフェストの交付及び、事前に「排出事業者」と委託契約の締結が必要です。遺品・不用品処理(整理)事業は、誰が「排出者責任を負うのか」を、明確にしておく必要があると考えています。一廃を、他の事業者から排出された産廃に巧妙に紛れこませる等し、万一、不適正処理された場合を懸念しています。今後、この市場へは、「仲介・斡旋・ピンハネ(笑)」目的の事業参入者が増えてきそうですネ。

  2. 尾上雅典 より:

    豊田美紀 様 コメントいただき、ありがとうございました。

    実務的な観点からのご意見をありがとうございます。

    おっしゃるとおり、遺品整理事業においては、処理困難物が多数発生しますね。

    遺品整理後に、どのように処理困難物をさばかれていくのかを注視する必要がありそうです。

  3. 疑問あり より:

    いつもためになる情報をありがとうございます。まとはずれな質問になったら、すみません。
    買取により所有権が移れば排出事業者は明確にヤマト。廃棄するときは、事業活動にともない発生する20品目の場合、廃棄物=産廃となるのではないでしょうか。
    本などの紙類、木製家具なら一廃だとわかるのですが、多く発生すると思われる廃プラ・金属製の雑貨・家具などは、産廃ではないのですか?『買取→遺品=一廃』、という前提を理解していません。解説をおねがいしたく存じます。
    同じ事業活動であるのにビジネスモデルによって、産廃・一廃区分が変わるのは、問題だと思います。

  4. 一遠寺 蓮 より:

    こんにちは、いつもメルマガを興味深く拝見しております。
    自分は廃棄物処理業者に席をおき、遺品整理士の資格を持つ者です。

    家庭から出るものは一般廃棄物とわかっていながらも、軽トラックでスピーカーを付け、不用品の回収と称して民家を回っている事業者も多く見受けられます。
    もちろんその多くは、一般廃棄物運搬業の資格など持っておらず、多くは自らを排出業者と装って、産廃処理しているのが現状です。
    話によると、かなりの悪徳業者が問題視されているようです。

    遺品整理士とは今のところ民間の資格としての認知ですが、「遺品整理士認定協会」自体適正処理を前提に遺品整理を目指しているとのことです。
    自分自身まだ、この業務に携わってはいないのですが、廃棄物業界のグレーゾーンを白に近づけれるのであれば推進していきたいと考えております。
    また、コメントの豊田様のおっしゃる通り、まだまだ一般廃棄物の制約が多いのも事実です。
    行政サイドが明確な答えを出していないことが一番の原因と思われます。
    事実、一般家庭では粗大ごみの問題や、遺品整理など多くの問題を抱えているのですが、多くは行政特有のたらいまわしでいるのも現状です。
    こうしたことが、不正回収業者の温床となっているのではないでしょうか?
    もう少し、目の向ける方向を考えてもらいたいものです。

  5. 尾上雅典 より:

    一遠寺 蓮 様 コメントいただき、ありがとうございました。

    遺品整理は、人間の最期の尊厳に携わる崇高な職業であると思いますので、一日でも早く業界が成熟し、その社会的な役割を担う受け皿になっていただくことを期待しています。

    自治体において、廃棄物処理法に関する解釈が揺れ動いているというご指摘もそのとおりだと思います。

    行政は前例踏襲や批判を過度に恐れることを辞めてしまえば、かなりアクティブな地域づくりができるはずなので、その気概を持った首長や職員がもっと増えることを願っています。

  6. 尾上雅典 より:

    形式的に買取をし、そのまま廃棄するというのは脱法的な行為ですので、ヤマト社はそのような意図は持っていないと思います。

    電化製品などのようにリユースできるような遺品で、遺族が残すことを欲しないもののみ、買い取るということではないでしょうか。


コメントをどうぞ

このページの先頭へ