土地所有者である川崎市の責任はいかに

5月14日付 毎日新聞 川崎市:公園予定地、産廃山積み 市有地、10年前から事実上放置 近隣に環境被害 搬入業者死亡で処理難航 /神奈川

 工場や産業廃棄物処理施設などが建ち並ぶ川崎臨海部の一角にある川崎市有地が約10年前から、荒れ放題のまま事実上放置された状態になっている。元々は公園予定地だったが、現在は不法投棄された産業廃棄物が高さ10メートル以上に積み重なって木々が覆い茂り、ジャングルさながらの様相に。隣接する民間研究所は住み着いた野鳥のふん害などに悩み市に対応を求めているが、行政の動きは鈍い。

 問題の土地は、神奈川臨海鉄道の線路と川崎市の下水処理施設「入江崎水処理センター」に挟まれた、約5000平方メートルの土地。かつては養魚場などがあったが、市は1961年の同センターの開設に合わせて周辺を区画整理し、70年にはこの土地を「塩浜中公園」として整備することを決めた。

 ただ、公園整備の事業着手まで猶予があったため、市は71年、区画整理で立ち退き対象になった産業廃棄物処理業者に対し、公園用地の使用を暫定的に許可した。しかし、業者は移転を渋り、80年に使用許可を取り消したにもかかわらず居座ったため、市は明け渡しなどを求めて提訴。85年には業者に立ち退きを命じる東京高裁の控訴審判決が確定した。

 だが、経営者の男性は判決に従うことを拒否。本来は産廃の一時保管施設だったにもかかわらず、建築廃材などの焼却も行い、灰とごみを積み重ね続けた。周囲には異臭が漂い、焼却灰が風で飛散するなど、環境は劣悪になった。

 05年ごろには、稼働を停止し男性や従業員は姿を見せなくなった。ただ投棄された産廃はそのままの状態で残され、家電などのごみが不法投棄されるようになった。この10年ほどはクヌギなどの植物も生い茂り、野鳥やタヌキが住み着いた。

 市は07年、土地の周囲に3メートルの金属塀を設置し、外部から侵入できないようにして以降、不法投棄は減少した。しかし隣接する民間研究所は鳥のふんや大量発生する蚊、ミミズに悩まされ続けており、市に撤去などを求め続けている。女性職員は「市は早く対応してほしい」と訴える。

 市公園管理課によると、植物を伐採して山と積まれた産廃を撤去し処理するための費用は、十数億円に上ると見込まれる。市は経営者の男性に原状回復と費用負担を求めてきたが、男性は09年に死亡。現在は親族に聞き取りなどを行っているが、負担を拒否しているため交渉は難航しており、公園を整備するめどは全く立っていないという。

40年以上にもわたって継続していた問題のようです。

記事では産業廃棄物処理業者と書かれていますが、不法に占拠している市有地で中間処理業許可を取得できるとは思えないため、収集運搬業の許可を持っていた程度ではないでしょうか。

野焼きをしていた年代がよくわかりませんが、堂々と(?)やっていた状況から察すると、2000年以前の話ではないかと思われます。

かくも長く公有地の不法占拠を放置した理由がわかりませんが、
川崎市は、行為者から「土地を時効取得した」と主張されるのを恐れていたのでしょうか?

行為者死亡により、今後は土地所有者である川崎市の負担で廃棄物撤去を進めざるを得ません。

場合によっては、廃棄物の排出事業者を割り出して、措置命令などをかけることも可能かもしれませんが、
そうするためには、現地から廃棄物の一部を他所に移し、調査をする必要があります。

不適正処理された場所が川崎市の所有地であるだけに、土地所有者としての責任が今後はクローズアップされそうです。

廃棄物処理法第5条第2項では、土地所有者の(努力)義務を次のように定めています。

 土地の所有者又は占有者は、その所有し、又は占有し、若しくは管理する土地において、他の者によつて不適正に処理された廃棄物と認められるものを発見したときは、速やかに、その旨を都道府県知事又は市町村長に通報するように努めなければならない。

廃棄物処理法上は、土地所有者に行政に通報するという努力義務しかありませんので、行政である川崎市にとっては何の義務も科されません。

しかし、それはあくまでも廃棄物処理法上の土地所有者の責任に限っての話で、
公有財産の管理に不手際があったのは事実であり、
生活環境保全上の支障が発生している点からも、
早急に廃棄物の撤去を進めざるを得ないと思われます。

法律や裁判を真っ向から否定する者には、行政指導というその場限りのアクションではまったく効果がありません。

行政側の不作為が少しずつ積み重なった結果、すぐには解決できないレベルにまで問題が悪化したという典型的なケースです。

いつもこのような事件の際にコメントしておりますが、
「不作為がけしからん」という一言で済ませて、わかった気になるのは逆に危険だと思います。

川崎市のみならず、どこの行政、あるいは企業にとっても、同じ轍にはまる可能性があります。

「問題が小さなうちに対処する」
この単純な真理を徹底するのが現実ではいかに難しいか

まずは、その事実を念頭に置くことから始めなければならないでしょう。

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