臭気対策の難しさ

昨日から東京に来ておりますが、ホテルでTVを付けた瞬間に、食品リサイクル業者の臭気対策に関する住民説明会の模様が映りました。

その直後に携帯に電話が入ったため、会見の音声などは聞き取れませんでしたが、テロップだけでも会社側が苦戦している様子が伝わってきました。

2013年7月24日10時05分 読売新聞 悪臭で苦情…生ごみリサイクル施設、稼働停止

 国の補助金を使って昨年建設された、東京都内最大級の民間生ごみリサイクル施設「八王子バイオマス・エコセンター」(八王子市南大沢)が、悪臭の苦情が相次いだことで今春以降、稼働停止状態を続けている。

 施設側は「公金で建設されており、廃業はできない」として再稼働を目指しているが、近隣住民の反発が強く、見通しは不透明だ。

 施設はリサイクル業「イズミ環境」(八王子市)が運営。小売店や飲食店、食品工場などから、食べ残しなどの生ごみを有料で受け入れて堆肥を製造し、農家やゴルフ場などに販売するリサイクル事業を展開していた。

 施設建設や堆肥製造設備の設置には、農林水産省からの約8億7000万円の補助金を活用。2012年5月に完成し、試運転を経て同年8月から本格稼働していた。市や都からリサイクル業の許認可も得ている。

 しかし、稼働後すぐ、近隣住民から「悪臭がする」との苦情が殺到。現在までに同社に寄せられた苦情は、約200件にのぼる。八王子市にも同様の苦情が約160件寄せられているという。

 同社によると、脱臭システムの能力不足などが悪臭の原因。生ごみにおがくずなどを混ぜて発酵させる過程で悪臭が発生するが、施設内に設置されている脱臭装置では効果が不十分だったという。

 苦情を受けて同社は今年4月、生ごみの受け入れを停止。現在まで稼働をストップさせている。その間、新たな脱臭装置を追加で設置した。同社は「計算上はこれで悪臭が解消される」としているが、まだ試験運用していないため、効果は未知数だ。

 今後について、同社の中元和芳会長は「補助金を利用している以上、再稼働させて、リサイクルによる環境保全という本来の理念を全うする責務がある」と話す。住民説明会などを通じ、新たな脱臭装置の試験運用について理解を求めたい考えだ。

計算上はこれで悪臭が解消される」というコメントに、臭気対策の難しさが集約されています。

計算上は脱臭効果が十分に発揮されたとしても、人間の鼻は意識をすれば微弱な臭気でも嗅ぎ取ってしまいます。

また、これだけ“くさい”という印象を先に持たれてしまうと、本当はかすかな臭いであっても、人間の脳は「立派な悪臭」という評価を下してしまうほど優秀です。

臭気対策の基本は、「封じ込め」、「外部との距離を長くとる」、「臭気の元を燃焼させる」の3つが中心です。

この事業者の場合、上記の「封じ込め」しか取れない立地環境のようです。

「燃焼」では堆肥を作ることができませんし、
一番致命的なのは、直近の住宅地までの距離が200m程度とかなり近接していることです。


大きな地図で見る

事業者の目論見通りに、脱臭という封じ込め対策(の一つにすぎない)で、臭いを完全にシャットアウトできれば良いのですが、
堆肥の製造工程で発生する悪臭を完全に脱臭できたとしても、
食品廃棄物の搬入時や、原料として保管している間の臭気を完全に封じ込めるのは、おそらく不可能ではないかと思います。

このような悪臭の発生が不可欠となる施設の場合は、住宅地とかなりの距離を取って設置しないと、脱臭対策に大きなコストが必要となってしまい、企業として持続的な経営が著しく困難になります。
同社の場合は、まさにそのループに陥っているところと言えます。

 一方で、住民の反対は根強い。6月には近隣住民らが「悪臭で頭痛、吐き気がする」「洗濯物が干せない」「子どもを外で遊ばせられない」といった訴えを記した計120部の嘆願書を市に提出。いずれも再稼働への反対を示したもので、市を通じて同社にも提出されているという。

 近くに住む30歳代の主婦は、「これまでの経緯から、原因究明や検証の甘さなど会社の管理体制に不信感を抱いている。新たな脱臭装置で悪臭問題が解決するとしても、有害物質が排出されるなどほかの問題が発生しそうで怖い」と再稼働反対の理由を語った。

堆肥化の施設から有害物質が発生するとは少し考えにくいのですが、
こういった心理的なレベルで恐怖感を持たれてしまうと、それを解消するのは非常に難しくなります。

言葉で安全性を説明しても、相手は心理的に拒否している状態ですので、論理的な思考をする脳には情報が到達しないからです。

早期に操業再開しないことには、同社の経営も日に日に傾いていきますので、一日も早い操業再開をしたいところだと思いますが、
相当高レベルなコミュニケーションスキルを発揮しないと、短期間で住民側の不安を取り除くのは難しそうです。

補助金を当て込んだ機械メーカーやコンサルタントの甘言に乗り食品リサイクル事業に参入したものの、経営がうまくいかずに破たんした企業は多数あります。

住民の反対が無くとも経営破たんするくらい、食品リサイクル事業は採算化が難しい事業です。

どうしても食品リサイクル事業をやりたいのであれば、少なくとも住宅地より500m以上離れた土地を確保する必要があります。

現在、食品リサイクル事業への参入を検討している方がおられましたら、自称専門家が語る甘い事業計画に騙されないようにしてください。

このエントリーを含むはてなブックマーク

タグ

トラックバック&コメント

この投稿のトラックバックURL:

トラックバック

コメント

  1. 匿名 より:

    http://www.city.hachioji.tokyo.jp/gomi/40934/040860.html

    ぜひお読みいただきたい。
    有害物質はでています。

  2. 尾上雅典 より:

    「八王子バイオマスエコセンター環境対策評価検討委員会」に関する情報提供をいただき、ありがとうございます。

    議事録を読みましたが、「有害物質が発生、または流出している」という表現はありませんでした。

    ご指摘の有害物質とは、臭気物質のことではないかと思います。

    臭気物質そのものは有害ではなく、臭いとして人に不快(その意味では有害)なものですが、臭気物質と有害物質を同一視するのは少し正確性に欠けると思います。

    ただし、だからといって臭気物質が外部に流出しても良いということでは決してなく、事業者より先にその地域で居住している人の生活環境を保全することが最も優先されます。

    地域の方の納得が行く方法で、臭気対策が議論されることをお祈りしております。


コメントをどうぞ

このページの先頭へ