不適正処理対策の切り札

今回ご紹介するのは、青森・岩手県境不法投棄事件の廃棄物撤去が完了したというニュースですが、この事件そのものの詳細ではなく、同様の大規模不適正処理事案の発生を防止する方法を考察してみます。

まずは、朝日新聞の報道
2014年3月27日05時00分 朝日新聞 (ニュースQ3)不法投棄150万トンを10年かけ撤去、残された教訓は

 青森県と埼玉県の産廃処理業者2社が、首都圏を中心とする1万社以上の企業から出た産廃を、青森側に115万トン、岩手側に35万トン、それぞれ埋めていた。

 住民の通報で発覚し、青森、岩手両県警は2000年に廃棄物処理法違反容疑で業者社長らを逮捕。2社は解散・破産したため、両県は行政代執行による産廃の撤去を強いられた。

 青森と岩手を合わせて約700億円かかる処理費は、大半が国民・県民負担だ。香川県の豊島などとともに産廃特措法の適用を受けた青森・岩手県境では、地下水の浄化が終わる22年度まで費用の約6割を国が、残りを県が負担する。

 00年に改正された廃棄物処理法で排出事業者の責任が強化され、青森、岩手両県はこれまで産廃を出した25都道府県の約1万2千社にさかのぼって違法性の有無を調べてきた。だが、撤去の措置命令は約40社(約1千トン)、代執行費用の納付命令は6社(約500万円)にとどまる。

 環境省は「事業計画の書類が廃棄されているなど違法性の特定は簡単ではない」と説明する。

全委託者約1万2千社のうち、措置命令の対象にしたのが約40社とのことですので、
措置命令の対象にされる確率は1万2千分の40で、0.3%。

おおよそ300社に1社という確率になります。

措置命令が出される前に、自主的な廃棄物の撤去要請に応じた企業も多いと聞いておりますので、実際には委託者側が負担した撤去費用などはもっと多額になっているはずです。

新聞記者の知識不足からの表現かと思いますが、環境省の

「事業計画の書類が廃棄されているなど違法性の特定は簡単ではない」

というコメントが意味不明です。

実際には環境省の取材対応者は次のように言ったのではないかと思われます。
事業計画の書類(産業廃棄物処理委託の詳細が記載されている契約書)が廃棄されているなど違法性の特定は簡単ではない」

本来の意味での「事業計画書」は、処理業者が許可申請の際に添付する書面の一つに過ぎず、あくまでも計画書に過ぎないため、事業計画書によって違法性を追求することは不可能です。

ただ、環境省のコメントを上記のように解釈したとしても、
環境省自身が「法律で義務付けている保存書類では関係者の違法性の追及が困難」と認めているのも事実のようです。

もっとも、この事件が始まった1990年代とは異なり、2010年代の現在では、このような大規模不法投棄事件は発生していません。

それは、委託者の意識が高まった成果でもあり、行政の規制が厳しくなった成果かもしれません。

しかしながら、ここまでの大規模不法投棄事件までには至らずとも、生活環境上の支障が生じそうな不適正処理事件は全国各地で頻発しています。

行政による規制や監視の強化、または排出事業者責任の更なる強化では、現在以上の抑止効果を期待できないだろうと思います。

ましてや、行政の予算と人員不足が年々深刻化していく以上、行政による監視活動の強化を期待するのは、実は年々難しくなっていきます。

(処理業者による)不適正処理対策の切り札

では、こうした時代背景の下、どうすれば不適正処理対策を抑止できるのでしょうか?

複数の方との会話や提言を参考に考えると、処理業者に対する抑止効果としては、以下の2つが有効ではないかと考えています。

1.産業廃棄物処理業を開始する際には供託金の拠出を義務付ける。

不適正処理があった場合には、供託金から行政が代執行を迅速に行えるようにする。

すべて法律改正が必要ですが、操業開始時に供託金を拠出させるため、資金力のない事業者のふるい分けが可能になります。

収集運搬業(直行)の場合は200万円、収集運搬業(積替え保管)の場合は500万円、中間処理業の場合は1,000万円、最終処分業の場合は2,000万円などと、想定されるリスクによって供託金の額を分けることも有効であろうと思います。

また、新規開業者のみならず、既存の処理業者にも更新許可の際などに供託を義務付ければ、これまた優良な(財務基盤が堅固な)処理業者のみをふるい分けることが可能となります。

金持ち企業の優遇策に聞こえるかもしれませんが、廃棄物処理業という事業は、リスクと常に隣り合わせの事業でもありますので、最低でもこれくらいの資金力のある事業者でないと、永続的に事業を営む資質に欠けると思っております。

2.廃棄物の最大保管高さを法令で明示する

保管高さは個別の許可ごと、そして業者の施設ごとに決まっていますが、最大保管高さを一瞬超過したとしても、それだけでは行政処分の対象となりません。

このあたりの規制を強化して、たとえば、「屋外の100平方メートル以下の場所で廃棄物を保管する場合は、最大保管高さは2m以下とする」などと規定し、2mのラインを目印(保管場所の横に柱を立てるなど)で明示した上で、それを超過していることを行政が見つけた時点で減点。
同じ年度に減点が3回重なると、業許可の取消。

と、自動車運転免許と同様の例外なき行政処分を原則とすれば、処理業者の日々の操業は格段に緊張したものとなります。

個別の違法性の要件を詰める手間や、改善をする間の時間猶予などの問題から、不適正処理が制御不可能な状況にまで悪化することが多く、そうなると改善に多大な費用が必要となり、社会的なコストが極大となっているのが現状です。

迅速、かつ簡易に行政処分を行えるようにすることが、人手と予算不足の行政に必要な制度改正ではないかと考えております。

最後に念のための注記ですが、上記の2点はあくまでも筆者の個人的見解であり、現在そのような方針で法律改正に向けて審議が行われているわけではありませんので、処理業者の方は自暴自棄にならないようにお願いします(笑)。

ただし、資金力と、日々の安全管理はすべての処理業者に必要な条件ですので、自主的にこの方面の強化をしていただくことは非常に有用であるとも思います。

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