市町村に排出事業者責任を問えるか否か

行政対行政の裁判沙汰に(福井県敦賀市キンキクリーンセンター事案)の続編です。

前回の記事の最後に

このまま訴訟が提起されれば、
行政同士の金銭訴訟という些末な次元の話ではなく、廃棄物の排出事業者責任に関する重要な判例となる可能性があります。

と書きました。

その理由は、キンキクリーンセンター事案のように市町村が集めた生活系一般廃棄物の処理に関して、市町村に排出事業者責任を問う法的根拠が廃棄物処理法には無いため、裁判所がどの法律に基づいて委託者の責任の有無を判断するのかが重要となるからです。

これが産業廃棄物の場合であれば、委託者に委託基準違反があれば、委託者に措置命令をかけることができますので、民事訴訟を起こさずとも委託者に何らかの行動を強制することができます。

また、産業廃棄物の委託基準違反は刑事罰の対象となっています。

一般廃棄物の場合も、民間事業者が出した一般廃棄物に関しては、産業廃棄物と同様に委託基準違反の罰則があります(第6条の2第6項)。

しかし、市町村が集めた一般廃棄物を市町村以外の者に委託する場合(第6条の2第2項)には、そもそも市町村が法律違反をするはずがないという原則の下、市町村に対する罰則の規定はありません。

「法律の欠陥」と言えなくもありませんが、地方自治の理念的には、法律で市町村などに刑罰を規定するわけにもいきません。

では、廃棄物処理法以外で、排出者である市町村や一部事務組合に工事費の負担を求める根拠があるかというと、
民法の不法行為責任くらいしかなさそうです。

近い将来改正されることが確実な民法ですが、不法行為責任に関しては現行の民法の内容がそのまま継承されると思われますので、以下現行の民法を前提として書きます。

不法行為責任を加害者に追及するためには、
被害者側が、加害者に「故意・過失」があったことを立証する必要があります。

市町村や事務組合に故意があったとは考えられませんので、キンキクリーンセンターへの委託に過失があったかどうかが争点となります。

廃棄物処理法の委託基準としては、

法第6条の2

2 市町村が行うべき一般廃棄物(特別管理一般廃棄物を除く。以下この項において同じ。)の収集、運搬及び処分に関する基準(当該基準において海洋を投入処分の場所とすることができる一般廃棄物を定めた場合における当該一般廃棄物にあつては、その投入の場所及び方法が海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律 (昭和四十五年法律第百三十六号)に基づき定められた場合におけるその投入の場所及び方法に関する基準を除く。以下「一般廃棄物処理基準」という。)並びに市町村が一般廃棄物の収集、運搬又は処分を市町村以外の者に委託する場合の基準は、政令で定める。

(一般廃棄物の収集、運搬、処分等の委託の基準)

施行令第4条  法第六条の二第二項 の規定による市町村が一般廃棄物の収集、運搬又は処分(再生を含む。)を市町村以外の者に委託する場合の基準は、次のとおりとする。

一 受託者が受託業務を遂行するに足りる施設、人員及び財政的基礎を有し、かつ、受託しようとする業務の実施に関し相当の経験を有する者であること。
二 受託者が法第七条第五項第四号 イからヌまでのいずれにも該当しない者であること。
三 受託者が自ら受託業務を実施する者であること。
四 一般廃棄物の収集、運搬、処分又は再生に関する基本的な計画の作成を委託しないこと。
五 委託料が受託業務を遂行するに足りる額であること。
六 一般廃棄物の収集とこれに係る手数料の徴収を併せて委託するときは、一般廃棄物の収集業務に直接従事する者がその収集に係る手数料を徴収しないようにすること。
七 一般廃棄物の処分又は再生を委託するときは、市町村において処分又は再生の場所及び方法を指定すること。
八 委託契約には、受託者が第一号から第三号までに定める基準に適合しなくなつたときは、市町村において当該委託契約を解除することができる旨の条項が含まれていること。
九 第七号の規定に基づき指定された一般廃棄物の処分又は再生の場所(広域臨海環境整備センター法第二条第一項 に規定する広域処理場を除く。)が当該処分又は再生を委託した市町村以外の市町村の区域内にあるときは、次によること。
イ 当該処分又は再生の場所がその区域内に含まれる市町村に対し、あらかじめ、次の事項を通知すること。
(1) 処分又は再生の場所の所在地(埋立処分を委託する場合にあつては、埋立地の所在地、面積及び残余の埋立容量)
(2) 受託者の氏名又は名称及び住所並びに法人にあつては代表者の氏名
(3) 処分又は再生に係る一般廃棄物の種類及び数量並びにその処分又は再生の方法
(4) 処分又は再生を開始する年月日
ロ 一般廃棄物の処分又は再生を一年以上にわたり継続して委託するときは、当該委託に係る処分又は再生の実施の状況を環境省令で定めるところにより確認すること。

と定められていますが、この内容どおりに手続きを進めておけば、少なくとも廃棄物処理法上は、市町村は委託基準を満たしていたことになります。

委託当時のキンキクリーンセンターの経営状況がどんなものだったかは知りませんので、上記の委託基準が守られていたかどうかもわかりませんが、
一般的な状況からすると、最終処分場を所持していた処理業者であれば、すべて問題なく満たせていた外形的な基準であると思います。

上記以外に、個別具体的な委託者としての過失があるのであれば、委託者側に不法行為責任が発生する可能性があります。

委託者の責任がどう判断されるかが、今後の裁判で注視しておきたいポイントです。

もし仮に、今回の裁判で委託者側の事務組合に過失があったと判断された場合は、
同様の一般廃棄物委託手続きを行っている自治体は他にもたくさんありますので、
委託者の自治体のみならず、受託者側の廃棄物処理業者も、委託者の市町村の心配への配慮等なんらかの対応が必要となりそうです。

あくまでも今回の裁判の結果次第ではありますが。

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