単なる贈収賄事件ではなく、組織的問題

先週の7月16日(木)は、台風が迫る中、大阪の淀屋橋において、三井住友海上火災保険株式会社主催の無料セミナーに講師として登壇しておりました。

その際に、「あと2日早くニュースになっていれば、より深い講演ができたのに・・・」と、地団駄を踏んだ事件が起こりましたのでご紹介します。

2015年7月18日付 毎日新聞 ネクスコ汚職:無許可で産廃処理 逮捕の課長、黙認か

 西日本高速道路(ネクスコ西日本)の廃棄物処分業務を巡る汚職事件で、大阪府警に逮捕された贈賄業者が産業廃棄物処理に関する大阪府の許可を得ずに業務を受注していたことが捜査関係者への取材で分かった。廃棄物処理法は無許可業者への業務委託を禁じており、ネクスコ側も同法に抵触する疑いが強いという。

 一方、高速道路株式会社法違反(収賄)の疑いで逮捕された大阪高速道路事務所の総務課長(54)は「カードローンを複数抱え、多額の借金があった」と供述していることも分かった。府警は18日朝、大阪府茨木市の同事務所の捜索を始めた。

 捜査関係者によると、容疑者は2013年9〜11月、閉鎖された管理事務所の廃棄物処分業務の随意契約に絡み、土木工事会社「近畿施設サービス」(大阪府箕面市)社長(56)が受注できるよう便宜を図り、現金30万円を受け取った疑いがある。府警は容疑者が無許可業者と知りながら業務契約を結んだとみている。

 府警は18日午後、両容疑者を大阪地検に送検する。

収賄という個人の利得を得るための犯罪の場合、その個人の資質や借金額の多さのみに着目されがちですが、
最近になり、ネクスコ西日本では、収賄事件が頻発していますので、組織的な問題があるのは間違いありません。

しかし、そのような組織と個人の倫理面の緩みのみに着目していると、問題の本質を見誤ることになります。

個人的には、この事件の本質は、
「ネクスコ西日本と言う組織が、無許可業者へ処理委託することに何ら問題を感じなかったこと」と考えています。

「お前の専門である廃棄物処理法に無理矢理こじつけているだけだろう」と思う方がいるかもしれませんので、反論として、贈収賄と廃棄物処理法違反の罰則を示しておきます。

まず、贈賄側に適用される罰則は、刑法第198条で「3年以下の懲役又は250万円以下の罰金」ですが、
廃棄物処理業の無許可営業もしていましたので、廃棄物処理法第25条の「5年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金、またはこれの併科」の適用対象にもなります。

そのため、今回の事件の贈賄側は、刑法よりも廃棄物処理法違反の罰則の方が重くなります。

次に収賄側に適用される罰則ですが、刑法第197条で、

(収賄、受託収賄及び事前収賄)
第百九十七条  公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役に処する。この場合において、請託を受けたときは、7年以下の懲役に処する。

となっていますので

受注の便宜を図る見返りとして賄賂を受け取っていたのであれば、5年以下ではなく7年以下の懲役に加重される可能性があります。
なお、ネクスコの職員は公務員ではありませんが、収賄に関しては、高速道路株式会社法に基づき「みなし公務員」となります。

無許可業者への処理委託をしていた場合、こちらも廃棄物処理法第25条違反で「5年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金、またはこれの併科」の適用対象となります。

収賄側のみ刑法の罰則の方が重くなります。

問題は、ネクスコ西日本という法人に対する罰則ですが、法人に収賄の罰則が適用されることはありません。

しかし、法人として無許可業者へ処理委託をしていた事実があるならば、廃棄物処理法第25条違反に該当し、「1,000万円以下の罰金」の適用対象になる可能性があります(法人に懲役刑を科すことは不可能なので、罰金刑のみが適用対象となります)。

企業としてのリスク管理を考える場合、職員に対し収賄をさせないことが非常に重要なのは間違いありませんが、
相手が許可業者かどうかを確かめることもせず、組織的に漫然と処理委託をしていたことが大問題です。

他にも同様の無許可業者への発注が無いかを早急に調査するべきです。

そして、廃棄物処理の発注手続きを大至急見直し、委託基準を遵守した上で、発注先の許可内容を精査する仕組みを作る必要があります。

次回は、このような廃棄物処理法違反が起こった背景や、廃棄物管理担当者の注意点を解説します。

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