同志社大学のリスク管理の問題点

同志社大学がキャンパス内で発生した一般廃棄物の収集運搬を無許可業者に委託していたことが発覚し、同志社大学職員3人が書類送検されるという大事件に発展しました。

同種の法律違反を数多くの企業がしていることは確実ですが、学校法人による廃棄物処理法違反であるため、大々的に取り上げられた感があります。

2016年2月19日付 学校法人同志社 発表 「廃棄物処理に係る法令違反及び第三者委員会設置について(ご報告)

 1月19日(火)に株式会社同志社エンタープライズの社員4名(うち代表取締役社長は学校法人同志社法人事務部長の兼務、また同社総務部長は同志社大学から出向)が廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反(無許可での廃棄物の収集・運搬)の疑いで逮捕され、同日、大学施設部、法人事務部長室も家宅捜索を受けました。2月9日(火)に20日間の勾留を経て「処分保留」で4名の逮捕者全員が拘束を解かれましたが、18日(木)には、同法違反(無許可業者への委託)の容疑で同志社大学職員3名(施設部長、今出川校地施設課長、同課施設係長)が逮捕されるとともに、再び学校法人の施設が家宅捜索を受けました。学校法人同志社の大学職員3名が逮捕されるという事態に至り、皆さま方には大変ご心配、ご迷惑をおかけしております。心よりお詫び申し上げます。
 捜査は継続しておりますが、この間の経緯をご説明申し上げます。事実として学校法人同志社及びエンタープライズ社において、長年にわたって廃棄物処理に関して法令に違反する状態が放置されておりました。法令では、一般廃棄物の収集、運搬は事業者が直接に自治体の許可を得た業者と契約をしなければならないとされていますが、施設部では大学今出川キャンパス及び学生寮等の廃棄物処理にあたり、京都市の許可を得ていないエンタープライズ社に業務を委託し、エンタープライズ社もまた許可を得ていない業者に業務を再委託しておりました。2005年のエンタープライズ社設立以前にも指摘を受けていたようですが、現場で引き継ぎが十分になされず、また、清掃業務がエンタープライズ社に移管されたこともあり、違反状態が長年にわたって放置・見過ごされることになりました。2015年2月になって、京都市環境政策局からその事実の指摘がありましたが、施設部の認識は改善のための猶予期間を京都市からいただいているというものでした。しかし、同年12月15日(火)になって、再委託先の業者とエンタープライズ社に対する京都府警の家宅捜索を機に、廃棄物処理にあたり法令に違反しているとの報告を受け、同日、直ちに京都市の許可業者へエンタープライズ社を通さず直接業務委託をするように指示いたしました。
 いずれにいたしましても、誠に遺憾なことながら、長年にわたって廃棄物処理に関する法令違反の状態を続けてきたのであり、チェック体制、また情報伝達体制に問題があったことは否定することはできません。法人運営の責任者として責任を痛感しているところです。
 今回の事案について、法人として再発防止と説明責任を果たすために、外部委員による第三者委員会を設置いたしました。どのような経緯をたどって今に至っているのかその淵源を明らかにするとともに、問題点の指摘を踏まえた法令遵守と危機管理についての提言をいただきたいと考えます。2016年4月末を目処に報告をいただき、それに基づいて、法人各組織の点検・改革を進め、法令を遵守して業務を遂行できる体制を整備していく所存です。なお、この第三者委員会による報告書については公表いたします。

同志社大学から一般廃棄物の収集運搬を請け負った株式会社同志社エンタープライズの逮捕者は2月9日に処分保留で釈放されたものの、
2月18日付で、同志社大学の施設係長、施設課長、施設部長の3名が逮捕された点に、他の企業の廃棄物管理者も思いを馳せる必要があります。

施設係長は直接の担当者、課長と部長は課員や法人の業務の監督者として、廃棄物処理法違反の責を負わされたものと思われます。

構造としては非常にわかりやすい廃棄物処理法違反ですので、わざわざ弁護士5人を集めて第三者委員会を設置する意味は無さそうです。

その理由は、法律違反が起こった原因は誰の目にも明らかだからです。

もっとも、学校法人同志社は私学ですので、原因追及に好きなだけ時間を掛けても問題はありません。

以下、組織におけるリスク管理の貴重な失敗事例として、事件が起こった原因2つを挙げておきます。

一般廃棄物の委託基準の無知

一般廃棄物の収集運搬委託の場合は、産業廃棄物のそれとは異なり、委託契約書の作成と保存やマニフェストの交付は必要ありません。

唯一、「許可業者への委託」のみが必要な注意点であり、今回はそれを長年怠っていたために、重大な法律違反として警察からの捜査・立件を受けることになりました。

また、一般廃棄物の収集運搬委託を受けた株式会社同志社エンタープライズには、「無許可営業」と「収集運搬業務の再委託」の2つの法律違反が発生しています。

これまた産業廃棄物とは異なり、災害廃棄物ではない事業系一般廃棄物の場合は、他者に再委託をすることが認められていません。

違反是正の遅さ

法律違反そのものも問題でしたが、京都市から違反を指摘された段階で速やかに改善していさえすれば、大学職員の中から逮捕者が出ることもなかったものと思われます。

おそらくは、逮捕された人の中には法律違反としての認識すらなく、大学への報告や相談も無かったものと考えられます。

言うまでもなく、大学のみならず、すべての組織において、「現場の人からリスク情報をどれだけ上げてもらうか」が、リスク管理の大前提となります。

もっとも、現場の人がリスクに接していたとしても、それをリスクと判断できなければ、組織にはリスク情報が集まってきませんので、「リスクの定義」と「リスク情報を上げやすくする工夫」の両方を同時並行させる必要があります。

法律家5人で構成される第三者委員会では、そのあたりの具体的な施策が低減されるものと思いますので、同志社大学が報告書を公開してくれるのを楽しみにお待ちしております。

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コメント

  1. 通行人 より:

    これは自ら排出された一般廃棄物を自ら市の処理場に持っていく分には問題は無かったんですよね?
    同志社が設立した一般廃棄物無許可の株式会社に委託し、更に同社が再委託したのが問題と言う事ですかね

    同志社自身がパッカー車ないしトラックを購入して、同志社が雇用した作業員が市の処理場に持参する
    事業系なので勿論、市の処理場は有料でなんでしょう

    恐らく、同志社自身が作業員を直接雇用すると、高く付く及び管理が面倒なのを嫌ったんでしょうかね
    自ら持参可能なら排出規模からしたら、その方が得な感じもしますけど、どうなんでしょう
    それとも京都市は事業者が自ら持参は禁止なんでしょうか

  2. 尾上雅典 より:

    コメントいただき、ありがとうございました。

    違法となった点については、すべてご指摘のとおりと思います。

    京都市への自ら搬入につきましては、京都市が禁止をする理由がありませんので、おそらくご指摘のとおり、管理コストや手間を惜しんで安く外注してしまったというところだと思います。

  3. 通行人 より:

    ご返答ありがとうございます
    当時、ニュースで大学のマークが入ったパッカー車が映っていて、ちょっと気になっていたところでした

    恐らく、学校の関連会社が所有しているらしき車両だけど、作業は再委託?と思った次第でした
    通常は色々な事業所を廻ってるであろう再委託先の外部業者が学校のマークを入れるのも?ですね
    規定に見合う車両数等を揃えて許可申請したら、その学校の関連会社は許可が降りたんじゃないかとも思えました

    では、よいお年を


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